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「求職者の個人情報の取扱いについての改正」①

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イタリア料理とフランス料理の基本的な違いをご存知でしょうか?イタリア料理は素材を生かすシンプルな味つけ、フランス料理は手間暇をかけたソースの味が決め手であることを、先日、いきつけの焼鳥屋のご主人に教わりました。

素材の味か、ソースの味か

法改正をわかりやすく伝えることを目指したパンフレットの類いは、行政が手間暇をかけて作ったいわばフランス料理で、端的にわかりやすいという特徴がある一方で、その素材の味がよくわからなくなるという側面があります。ここでいう素材とは、法律をはじめとした政令、施行規則などで構成される法令の部品の一群を指しますが、何が法律で義務化されている事項で、何がそうでもない領域の話なのかがパンフレットだけを読んでいるとよくわからなくなることがあるという弊害があるのです。

この辺りを意識せずに読んでいると、パンフレットに書かれていることはすべてやらなくてはいけないといった感覚に陥ってしまうおそれがあるのですが、実はそうでもなくて、努力義務だったり、単なる例示だったりすることもあります。法律(や法改正)にはそのような濃淡があるのですが、それがはっきりと書かれていることもある一方で、そうでもないケースもあります。行政としても罠に陥れようとしているわけでは決してないのですが、わかりやすさを優先しすぎるとそういう結果をもたらすことがあるというわけです。

法律(や法改正)を伝えたり解説したりする際に、法律(や法改正)をダイレクトに解説するだけではなく、素材の味を押さえつつ行政のパンフレット類の記載内容を解説するという取り組み(イタリア料理とフランス料理のハイブリッド)も必要とされるのではないかという認識を新たにした、先日の焼鳥屋のご主人の話でした。

個人情報を収集する目的を明示する義務

具体的な事例として、令和4年10月1日に施行された職業安定法の改正を取り上げます(パンフレットはこちら)。いくつかの改正がありますが、すべての事業会社等が対象となる「個人情報の取扱いに関するルールの改正」について、3ページに説明がなされています。そのうち、上段に掲げられている個人情報を収集する際に目的を明示することが義務化された改正についてフォーカスしてみましょう。

パンフレットの表現

「○」と表示されている、明示する際の良い例として、次のような表現があります。
・「当社の募集ポストに関するメールマガジンを配信するために使用します」と表示。
・「面接の日程に関する連絡に使用します」と表示。
こんなふうに細かく書かなければいけないのかと感じる方もいるかもしれませんし、さすがにこれは単なる例示だろうと感じる方もいるかもしれません。

法律の表現

それでは直接、素材(法令)にあたってみましょう。法律に書かれているのは次のとおりです(下線が今回の改正により加わった部分)。

第5条の5 …その業務の目的の達成に必要な範囲内で、厚生労働省で定めるところにより、当該目的を明らかにして求職者等の個人情報を収集し、並びに当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用しなければならない。…。

このように法律は、あくまでも目的を明らかにしなければならない、と言っているだけです。

施行規則の表現

法律から委任された「厚生労働省で定めるところにより」について、施行規則は、その明示の方法を下記のとおり説明しています。

第四条の四 法第五条の五第一項の規定により業務の目的を明らかにするに当たっては、インターネットの利用その他適切な方法により行うものとする。

多くの会社が自社のWebサイトや採用サイトなどで明示することとなるでしょう。

告示の表現

そして告示を読むと、次のような表現が出てきます。

第五 一(一) …法第五条の五第一項の規定によりその業務の目的を明らかにするに当たっては、求職者等の個人情報…がどのような目的で収集され、保管され、又は使用されるのか、求職者等が一般的かつ合理的に想定できる程度に具体的に明示すること。

ここまでていねいに確認してくると、ある程度具体的に書かなければならないことはわかったけれど、「メールマガジン」とか「面接の日程」といった細かすぎる表現まで用いる必要はないということがわかってくると思います。ある程度抽象化して書かないと、具体的な局面を想定した箇条書きが20とか30とか、下手をしたら100くらいになってしまうかもしれません。書く方も大変ですが、読む方も大変です。
告示に書かれている「一般的かつ合理的に想定できる程度に具体的に明示」という記載は、こうして読んでみると、説明になっているのか、なっていないのかよくわからない表現ですが、法律に書かれている義務は「目的を明示する」ということがわかっていれば、おのずとどのくらいの抽象度で書くべきかどうかは定まってくるはずです。
次回は少し違った視点でこの改正を考えてみます。

執筆者情報

加藤 正紀

社会保険労務士法人法改正研究所

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