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第一部 第3回 「社長メッセージ」より「広報PR」が社員に響く理由 ~「内部効果」で離職率低下、モチベーション向上

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第一部 中小企業に広報PRが不可欠なワケ ~素手で戦場に飛び込みますか?

 広報PRには大きく分けて3つの効果があります。1つは「外部効果」、2つ目は「内部効果」、最後に「守りの効果」です。第3回では、「内部効果」について具体的にお話ししていきます。内部効果とは、報道や広告など広報PR活動を通じて、社員が自社で働くプライドやモチベーションを引き上げることを言います。自分が働いている会社を誇りに思えれば、退職する従業員が減り、離職率も低下します。従業員のモチベーションが上がれば、生産性が向上しやすくなります。広報PRの「内部効果」は3つの効果のうち最も見落とされがちですが、少子化で働く人が減少している現在、決して無視できない存在なのです。

第3回 「社長メッセージ」より「広報PR」が社員に響く理由 ~「内部効果」で離職率低下、モチベーション向上

■「社内向け」にテレビCMを出して従業員に「自信」、企業イメージも改善

 「こんな発想でテレビCMを出す企業があるのか」。駆け出し記者時代、経済面の連載企画で取り上げた電子部品メーカーの村田製作所に驚かされたことがあります。当時のテレビCMの多くは、商品やサービスを消費者向けに宣伝するのが目的でした。しかし、同社の目的は販売促進などの「外部効果」を狙ったものではありませんでした。
 わざわざ数億円もの資金を投入してCMを出した狙いは2つ。「採用活動の強化」と「社員に誇りを持ってもらうこと」だったのです。同社は知名度が高くなりやすい消費財などのB to C(個人向け取引)企業ではなく、地味で無名になりがちなB to B(対企業取引)の企業でした。このため優良企業にもかかわらず、社員が誇りを持てず、モチベーションが上がりづらかったのでしょう。
 しかし、放送する対象地域や時期などを絞り込んでCMを投下した結果、低迷していた日本経済新聞の企業イメージ調査で、同社の知名度は急激に上昇しました。同社の広報部広告宣伝担当は「社員から『子供から、パパ(ママ)の会社はすごいね、と声をかけてもらって仕事の励みになった』などといった喜びの声が多数届いている」と話しています。かつての無名企業は、広報PRをきっかけに多くの人たちが知る企業となり、転職サイトなどでも「働きがい」などの項目で、高いポイントがついています。

■取引先の「感謝の声」の報道で離職率が低下

 しかし、村田製作所のように、テレビCMに大金を払え、しかもPRに成功する中小企業は非常に少ないでしょう。CMで良い印象を与えられれば大金をかけたかいもありますが、自画自賛になりすぎたり、自虐的なものになりすぎたりして、大金を投じたにもかかわらず、小さな効果しかもたらさないというリスクも考えられます。
 東京・渋谷にSaccoという中小企業があります。同社はもともと企業から社内報の編集・制作などを請け負う編集プロダクションでした。社員の定着率の低さに悩んでいたクライアント企業に「社員のモチベーションやエンゲージメント(愛社精神)を引き上げるような企画を考えてほしい」と頼まれ、実施したのが、取引先などステークホルダー(利害関係者)の自社への評価を社員たちに伝えることでした。例えば、クライアント企業やその担当者が取引先企業の事業のどんな役割を担い、どのように貢献しているかを複数の取引先の役員や社員にインタビューして社内報に掲載したわけです。
 取引先へのインタビューは、クライアント企業の従業員に予想以上の効果をもたらしました。第三者が自社への感謝を伝えたことにより、従業員の「自分たちが取引先や社会に貢献している」という意識が強まり、40%を超えていた離職率が20%未満に低下したのです。Saccoはこれを機に、「coki」というニュースサイトをつくり、200社以上のクライアント企業の取引先を取材し、記事を掲載しています。

■自社の報道で家族が喜ぶワケ

 私自身も広報担当者として、ほぼメディア露出のなかった上場企業の報道を急増させたことで、営業担当者らから何度も感謝されたことがあります。中でも多かったのは「家族が報道を見て、すごいね、と喜んでくれた」「友人から新聞を見たよというLINEがあった」などといった声です。
 特に有名企業から無名企業に転職した会社員は、家族から「本当に転職して良かったのか」という疑問を抱かれることが多くあります。新卒で無名企業に就職した人は「そんな無名企業にしか就職できなかったのか」と見られることも少なくありません。上場企業でさえも、「メディアに露出できていない」「無名だ」というだけで、家族や友人など周囲に理解を得られないことは多いのです。
 こうした背景には、無名企業よりも有名企業の方が優良な企業だという思い込みがあります。このため、企業は冒頭のエピソードで取り上げた村田製作所や、Saccoのクライアント企業、私が報道数を急増させた上場企業のように、何らかの努力をして従業員に肩身の狭い思いをさせないようにする必要があります。そうでなければ、従業員の定着率が低くなり、離職率は高くなるでしょう。従業員を安定して確保できない状況は、少子・高齢化、人手不足の日本では、企業にとって致命傷になりかねません。

■企業にとって重要さを増す「ネット上の誹謗中傷対策」

 インターネットの爆発的な普及により、大きく変わったことの一つは、ネットの利用者すべてが、自分が持つ情報や意見を自由に公表できるようになったことです。かつては一部のメディアに所属する人たちだけが可能だったことを、SNSなどで手軽にできるようになりました。こうした「ジャーナリズムや情報流通の民主化」は、社会に自由と優良で詳細な情報を取得できる環境をもたらしました。
 一方で、インターネットが誰のチェックも受けず、しかも匿名で意見を言える場であることは、利用者にとって諸刃の剣でもあります。SNSの一部には、根拠のない偽情報や意図的なフェイクニュース、偏狭かつ無責任で軽薄な意見、差別的な見解、誹謗中傷などが氾濫しているからです。SNSに情報を書き込んでいる人は、正しい情報を公正に執筆するという訓練を受けていない人が大半ですから、ネットの普及がこうした状況をもたらすのは不思議ではありません。
 企業にとっても、こうした誹謗中傷への対策を講じることは自社のイメージやブランドを守るために重要です。無名の中小企業がネットで偏った考えに基づいた非難にさらされた場合、それを読んだ多くの人たちはその偏った意見を信じてしまうからです。メディアがそうした誹謗中傷を信じて、ネガティブな取材をしてくることすらあります。

■高い信頼性を持つ報道が根拠のない非難から会社を守る

 しかし、メディアに前向きな報道が多く掲載されている企業の場合は話が違ってきます。一部の人がSNSで誹謗中傷をしたとしても、その企業の前向きな報道を読んだことのある多くの人たちは「SNSで書き込んでいる人の方がおかしいのではないか」と思ってくれるからです。企業としても、さらに多くの前向きな報道をしてもらうことで、ネット上の誹謗中傷に対抗することもできます。
 大半の人たちは「報道は広告と違い、第三者が取材して客観的な観点から執筆していること」「SNSに匿名で書かれた文章には、偏った意見や間違った情報も多く含まれていること」を大半の読者が無意識に理解しています。前向きな報道が多ければ、こうしたSNSの誹謗中傷に従業員が動揺することも少なくなるでしょう。広報PRの仕事は、会社の知名度を上げるという単純な効果だけでなく、「内部効果」という重要な役割も担っているのです。

執筆者情報

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日高広太郎

1996年慶大卒、日本経済新聞社に入社。東京本社の社会部に配属される。その後、小売店など企業担当、ニューヨーク留学(米経済調査機関のコンファレンス・ボードの研究員)を経て東京本社の経済部に配属。財務省、経済産業省、国土交通省、農水省、日銀、メガバンクなどを長く担当する。日銀の量的緩和解除に向けた政策変更や企業のM&A関連など多くの特ダネをスクープした。第一次安倍内閣時の独ハイリゲンダムサミット、鳩山政権時の米ピッツバーグサミットなど多くの国際会議で日経新聞を代表して同行取材、執筆。東日本大震災の際には復興を担う国土交通省、復興庁のキャップを務めた。シンガポール駐在を経て東京本社でデスク。2018年に東証一部上場のBtoB企業に入社し、広報部長。2019年より執行役員。年間のメディア掲載数を就任前の80倍超、月別、四半期別では100倍超に増やし、認知度向上に貢献した。2022年に広報コンサルティング会社を設立し、代表に就任。クライアント企業のメディア掲載数を急増させている。
著書に『 BtoB広報 最強の攻略術』(すばる舎)がある。

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2022.11.18 16:25:54