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テレワークの廃止について

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 少し前に、海外のある有名な会社経営者が、週40時間出社しなければ辞職したものとみなすといったメッセージを従業員に送ったことが話題になりましたが、日本でもテレワークを一方的に全面廃止し、従業員に出社を強制することは可能なのでしょうか。

1 テレワークとは

 テレワークとは、厚生労働省が作成した「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」によると、「労働者が情報通信技術を利用して行う事業場外勤務」と定義されています。
 このテレワークには、従業員が自宅で仕事を行う在宅勤務の他に、メインのオフィス以外のシェアオフィスやコワーキングスペースで勤務するサテライトオフィス勤務、出張先のホテルや交通機関の車内で仕事を行うモバイル勤務などが含まれます。

2 テレワークを採用する場合

 使用者は、労働契約を締結する際に、就業場所に関する事項を明示しなければなりません(労働基準法15条1項、労働基準法施行規則5条1項1号の3)。
 テレワークを採用する際には、自宅やサテライトオフィス等、テレワークを行うことができる場所を明示する必要があります。また、モバイル勤務については、就業場所についての許可基準を示した上で、「使用者が許可する場所」といった形で明示することも可能です。
 なお、パソコン等の情報通信機器を労働者負担とする場合には、その旨を就業規則に規定する必要があります(労働基準法89条5号)。テレワーク導入を機に就業規則を変更する際には、厚生労働省が作成している「テレワークモデル就業規則作成の手引き」が参考になります。

3 テレワークを廃止する場合

 就業規則を変更してテレワークを廃止する場合、原則として労働者との合意が必要です(労働契約法9条本文)。
 ただし、様々な事情に照らし、就業規則の変更が合理的といえる場合には、労働者の合意なしに就業規則を労働者にとって不利益に変更することができます(労働契約法10条本文)。
 変更が合理的といえるか否かを判断する際には、
①労働者の受ける不利益の程度
②労働条件の変更の必要性
③変更後の就業規則の内容の相当性
④労働組合等との交渉の状況
 といった事情が考慮されます。
 現時点(2022年8月10日)では新型コロナウィルスの新規感染者が25万人を超えており、このような状況でテレワークを廃止するには、よほどの②労働条件の変更の必要性がないかぎり難しいと思われます。
 もし、現時点でテレワークを廃止するのであれば、どれだけの必要性があるのか(上記②と関連)、そして、その必要性をどれだけ労働者や労働組合に丁寧に説明できるのか(上記④と関連)がポイントとなると思われます。

4 最後に

 テレワークを廃止するにあたっては、上述のように様々な要素を考慮する必要があり、その判断は容易ではありません。対応を誤れば会社の評判を落とすことにもなりかねません。テレワークの廃止を検討しているのであれば、まずは一度弁護士に相談してみることをお勧めします。

【参考文献】
テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン(厚生労働省)
テレワーク導入のための労務管理等Q&A集(厚生労働省)
テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン(厚生労働省)

執筆者情報

弁護士 山口 和則

弁護士法人ALAW&GOODLOOP

会計事務所向け法律顧問
会計事務所向けセミナー

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