レクリエーション旅行が非課税とされるための要件
レクリエーション旅行について、コロナ禍により多人数を避けるなど、新たな形態での実施を検討する必要性が生じている。
そこで、グループ別の旅行や、現地解散の場合など、レクリエーション旅行が非課税とされるための要件を検討し整理した。
1 取扱いの概要
使用人がその職務又は地位に基づいて使用者から受ける全ての給付は、給与所得を構成し、この給付には金銭以外の物又は権利その他経済的利益も含まれるが、この原則に対し、例外的な取扱いが定められている。
その一つとして、所得税基本通達36-30《課税しない経済的利益……使用者が負担するレクリエーションの費用》(以下「本件通達」という。)では、レクリエーションのために社会通念上一般的に行われていると認められる旅行(以下「一般レク旅行」といいう。)の費用を使用者が負担することにより、これらの行事に参加した役員又は使用人が受ける経済的利益については、次の場合を除き課税を要しないとされている。
① 当該行事に参加しなかった役員又は使用人(使用者の業務の必要に基づき参加できなかった者を除く。)に対しその参加に代えて金銭を支給する場合
② 役員だけを対象として当該行事の費用を負担する場合
そして、本件通達については、さらに次の取扱い(以下「運用通達」という。)が示されている。
○昭和63年5月25日直法6-9「所得税基本通達36-30(課税しない経済的利益……使用者が負担するレクリエーションの費用)の運用について」(法令解釈通達) 標記通達のうち使用者が、役員又は使用人(以下「従業員等」という。)のレクリエーションのために行う旅行の費用を負担することにより、これらの旅行に参加した従業員等が受ける経済的利益については、下記により取り扱うこととされたい。 なお、この取扱いは、今後処理するものから適用する。 おって、昭和61年12月24日付直法6-13、直所3-21「所得税基本通達36-30(課税しない経済的利益……使用者が負担するレクリエーション費用)の運用について」通達は廃止する。 (趣旨) 慰安旅行に参加したことにより受ける経済的利益の課税上の取扱いの明確化を図ったものである。 記 使用者が、従業員等のレクリエーションのために行う旅行の費用を負担することにより、これらの旅行に参加した従業員等が受ける経済的利益については、当該旅行の企画立案、主催者、旅行の目的・規模・行程、従業員等の参加割合・使用者及び参加従業員等の負担額及び負担割合などを総合的に勘案して実態に即した処理を行うこととするが、次のいずれの要件も満たしている場合には、原則として課税しなくて差し支えないものとする。 (1) 当該旅行に要する期間が4泊5日(目的地が海外の場合には、目的地における滞在日数による。)以内のものであること。 (2) 当該旅行に参加する従業員等の数が全従業員等(工場、支店等で行う場合には、当該工場、支店等の従業員等)の50%以上であること。 |
なお、運用通達は、昭和63年5月25日付での発遣後、平成元年3月10日付で、旅行に要する期間について、2泊3日以内から3泊4日以内への改正(平成元年4月1日以後実施される旅行から取り扱うこと)が行われている。また、平成5年5月31日付で、旅行に要する期間について3泊4日以内から4泊5日以内への改正とともに、費用の使用者負担割合の要件を削除する改正(平成5年6月1日以後実施される旅行から取り扱うこと)が行われており、この改正は、平成5年4月に決定された総合的な経済対策において、その旅行に参加した従業員等が受ける経済的利益が非課税の対象とされるレクリエーション旅行の日数要件を4泊5日以内に拡大する旨が決定されたことにより行われたものである。
なお、使用者負担割合の要件であった「旅行費用の50%以上を使用者が負担していること」については、仮にこの要件を満たさない旅行であっても、使用者負担額が少額なものについては、私的旅行の費用の補助と認められない限り、少額不追求の観点からみれば非課税と取り扱うことが相当として削除したものと思われる。
2 一般レク旅行とされるための要件
(1) 事業主主催であること
運用通達に示されている二つの要件を充足する場合は、事業主の費用負担額が多額と判断される場合を除き、運用通達の文言に則して、原則として一般レク旅行に該当するものと扱われる。
そして、私的旅行ではなく、事業主主催のレクリエーション旅行であることを明確にするためには、次のような点に配意して企画することが重要である。
① 企業組織を通じた企画、実施要領の策定(例えば、旅行実施時期、旅行可能回数、企業が負担する費用の範囲と一人当たりの年間最高費用負担額、飲食費等に充てる事前交付資金の有無、企業内サークルメンバー等による参加の可否、事前承認手続き、指定旅行業者等を通じた旅行手配の申込みの要否、実施後の報告と費用精算手続きなど)
② 従業員等に対する周知と事前承認申請の受付
③ 承認後の旅行業者への旅行手配の委託と企業資金による決済
④ 旅行実施後の報告と費用精算
(2) 旅行に要する期間
4泊5日以内の要件について、目的地が海外の場合には、目的地における滞在日数によることとされているが、海外へのクルージング旅行のように、クルージングを行うことがレクリエーション旅行の目的である場合には、船中泊部分は、海外旅行に際して追加的に要する日数ではなく、旅行そのものに要する期間とされ、現地滞在日数と併せて旅行に要する期間を計算することになる。
また、個人的に延泊等が可能なオプションが設けられ、ほぼすべての従業員等がそのオプションを選択しているような場合には、そのオプションを含めた一連の旅行全体を一つの旅行とみて、旅行に要する日数を判断すべきケースも生じると考えられる(「(10) 個人的な旅行の付加について」参照)。
(3) 事業主の費用負担額
事業主主催のレクリエーション旅行と認められる場合において、一般レク旅行への該当性の有無は、事業主の費用負担額の多寡によるところが大きいと考えられるところ、運用通達が発遣された以降において、160,000円以下のものについて、該当しないと判断した裁判例や裁決例は見当たらない。
(4) 従業員等の参加割合
例えば、営業活動に支障を来たさないよう次のように社員を3グループに分け、グループごとに3年に1度の割合で参加することのできるレクリエーション旅行を実施する場合には、この3年に1度参加することのできる企画全体を一つのレクリエーション旅行とみて、参加割合を判定しても差し支えないものと考えられる。
<グループ旅行案>
① 社員を3グループに分け、グループごとに3年に1度の割合で実施する。
② 1回の旅行の1人当たりの費用は10万円程度とする(全額会社負担)。
③ 参加対象者のうち業務等の都合により参加できなかった者については、翌年の参加対象者とする(参加資格は、あくまでも3年に1回とする。)。
④ 新入社員は、入社後3年目に最初の参加資格が与えられる。
⑤ 現地での滞在日数は4泊5日以内。
参加割合については、本来、従業員等に等しく参加の機会が与えられている場合には、結果として参加割合が50%を下回ったとしても、事業主の主催であることにつき否定される理由にはならないと考えられる。
(5) 対象者
自社の従業員等(契約社員や非常勤社員を含む。)のほか、派遣社員や協力会社の社員を対象者に含めることとした場合や、また、従業員等の家族を参加対象者に加えた場合であっても、事業主の主催であることに関して特に否定される理由にはならない。
なお、従業員等の家族を参加対象者に加える場合の親族の範囲や参加可能人数、家族の参加により生ずる増加費用の事業主負担の程度については、家族等の参加の有無や、旅行自体への参加の有無により、従業員等の間で不公平感が生じることのないよう十分な配意が必要と思われる。
また、役員だけを対象とする場合や、例えば、係長以上の役職者を対象とするといった場合には、それらの者のみを対象とすることが業務上必要な旅行のときは、業務上の旅行の旅費として非課税(所法9①四)とされるが、これらの者のみを対象とするレクリエーション旅行については、本件通達による非課税の対象とはならない。
さらに、営業成績の優秀な者のみを対象とする場合には、その経済的利益は勤務の対価としての性質を有するとして、非課税とは扱われない。
〇事業主が負担する旅行費用の課税関係
旅行の区分 |
課税関係 |
|
---|---|---|
業務旅行 |
旅費(所法9①四) |
|
レクリエーション旅行 |
下記以外のもの |
一般レク旅行該当 |
費用負担額が高額なもの |
一般レク旅行非該当 |
|
私的旅行 |
給与課税 |
(6) 実施部署の単位
レクリエーション行事は、通常、支店や部、課などの単位で実施されていることから、レクリエーション旅行の実施の有無が、これらの単位で異なる場合、すなわち本店では実施しないが支店では実施するといった場合であっても、一般レク旅行の該当性につき、否定される理由にはならない。
(7) 旅行先の選択
例えば、首都圏所在の事業者であれば、①豪華な食事付きの日帰り旅行や、②1泊2日の関東周辺への旅行、③2泊3日の関西方面への旅行のうちから、育児、介護等の家庭事情を踏まえ従業員等に旅行先を選択してもらい、それぞれの旅行が実施される最少の参加人数を4名として事業主が旅行費用のうち最大10万円を負担するといった企画の場合には、従業員等に旅行先等につき選択の余地があるとしても、従業員等の各自が自由に旅行先を選択できる場合とは異なり、一般レク旅行への該当性が否定されるものではないと考えられる。
また、仮に、旅行費用の全額を事業主が負担することにより、旅行先によって事業主の負担額が異なることとなる場合であっても、全従業員等に旅行先の選択を委ねているときは、特定の者のみに対して旅行費用を負担するものではないことから、旅行先によって費用負担の額が異なることは好ましくないものの、費用負担額が高額と認められる場合を除き、一般レク旅行への該当性が否定されるものではない。
(8) 飲食交通費等の精算
旅行先での飲食交通費等に充てるため、事前にグループを作り、現地での一人当たりの事業主負担額をグループに現金で仮払いとして支給した上で、グループの長がグループ内で費消された金額につき領収証等を基に事後に精算するような場合には、支給された飲食交通費等について、特に課税問題は生じない。
しかし、事後の精算が行われない、いわゆる渡し切りとなっている場合には、給与課税が必要となる。
(9) 不参加者への金銭支給等
従業員等のために行う事業主主催のレクリエーション旅行であっても、不参加者(使用者の業務の必要に基づき参加できなかった者を除く。以下同。)に対し、その参加に代えて金銭を支給する場合には、旅行に参加した者に対しても、不参加者に支給された金銭の額の経済的利益を供与したものとして給与課税が必要とされている(所基通36-50)。
(10) 個人的な旅行の付加について
レクリエーション旅行の最終日に、個人的に延泊等をすることを認めたとしても、レクリエーション旅行の多くの部分の行動を従業員等が共にしている限り、事業主が主催するレクリエーション旅行であること、また、一般レク旅行の該当性が否定されることにはならないと考えられる。
この点は、いわゆるブレジャー(Business(ビジネス)とLeisure(レジャー)を組み合わせた造語で、出張等の機会を活用し、出張先等で滞在を延長するなどして余暇を楽しむこと)と呼ばれる業務出張中に私的旅行を行う場合の往復の旅費につき、出張による業務の終了後に休暇を取得して観光をする場合であっても、その出張に係る旅行が業務の遂行上直接必要なものと認められる場合には、一般的に、その出張に係る往復の交通費について、その従業員等に対する給与として課税する必要はないことと共通する。
なお、4泊5日のレクリエーション旅行(海外旅行を含む。)に、オプションとして個人的に延泊可能であることが予定され、大多数の参加者がそのオプションを選択しているような場合には、そのオプションを含めた一連の旅行全体を一つの旅行とみて旅行に要する日数を算定の上、一般レク旅行への該当性を判断する必要も生じることから注意が必要である。