「適用除外要件としての2ヶ月要件の改正」①
今回のおしながきは「適用除外要件としての2ヶ月要件の改正」です。有期契約の従業員がいない企業や、有期契約の方がいても当初から6ヶ月とか1年の契約を結ぶ企業にとっては直接あまり関係のない話ですので、読み飛ばしていただいてもかまわない内容となっています。
最初の契約期間を2ヶ月以内で締結している企業にとっては、実務的にかなりの影響のある改正なのですが、この間取り上げさせていただいている「健康保険・厚生年金保険の加入要件の拡大」の方がマスコミなどにも大きく取り上げられていることから、その陰にかくれてやや周知不足な感じになっています。多くの方に届けばという想いで取り上げさせていただくこととしました。
現在のルール
現在の社会保険の適用除外要件は、ざっくりとしていて、労働時間の長短にかかわらず、下記の者は社会保険(健康保険・厚生年金保険)の適用除外となる(加入しなくてよい)とされています。
・二月以内の期間を定めて使用される者
これは例えば、2ヶ月を超えて雇用契約が更新されていくという前提であっても、最初の雇用期間が2ヶ月以内であれば、社会保険に入らなくてよいということを意味しています。
当初の契約を形式上2ヶ月としているだけであって、2ヶ月を超えて雇用契約が更新されていくという前提なのに入らなくてよいというのはおかしいのでは?という意見もある一方で、パート・アルバイトが入社してすぐに退職する割合が多い企業にとっては、当初から社会保険に加入するのは大きな事務負担が生じるため、現行のルールでないと困るといった側面もあると思います。
「二月以内の期間を定めて使用される者」という表現は、一見簡潔でわかりやすいようにも思えますが、実態はいろいろなケースがあることについてまで明確化されていないという課題がありました。
令和4年10月1日付の改正の内容
ではこの適用除外の現行のルールがどのように改正されるかというと、下記のとおりとなります。
・二月以内の期間を定めて使用される者であって、当該定めた期間を超えて使用されることが見込まれないもの
「二月以内の期間を定めて使用される者」という定義をさらに詳しく説明することにより、適用除外でよいケースと適用となるケース(加入しなくてもよいケースと加入しなければならないケース)がより明確化されることとなりました。
加入しなくてもよい人が上記の人ということなので、裏返せば、2ヶ月以内の期間を定めて使用される者であっても、あらかじめ定めた契約期間を超えて使用されることが見込まれる者については、今後は適用除外とならず、加入しなければならないとされました。そして加入日は、当初の契約期間の入社日からということになります。
「更新する」、「更新する場合がある」ケース
一見わかりやすくなったようにも思えるものの、これだけですとまだよくわからないところがあります。もう少し具体的に見ていきましょう。
雇用契約書上の更新に関する記載 | 改正前 | 改正後 |
---|---|---|
更新する | 適用除外 | 適用 |
更新する場合がある | 適用除外 | 適用 |
雇用契約書に「更新する」と明記されている場合は当然ですが、「更新する場合がある」という明記がある場合についても、「あらかじめ定めた契約期間を超えることが見込まれる」として取り扱うこととされました。
「更新しない」、更新に関する記載なしのケース
一方で、雇用契約書に「更新しない」という記載がある場合は若干複雑です。「更新しない」と明示されていても、直ちに加入しなくてよいということにはなりません。形式上そう書いているだけではダメということですね。
雇用契約書上の更新に関する記載 | 同一の事業所において同様の雇用契約に基づき雇用されている者が更新等により2ヶ月を超えて雇用された実績 | 労使双方により、2ヶ月を超えて雇用しないことについて | 改正前 | 改正後 |
---|---|---|---|---|
「更新しない」または更新に関する記載なし | ある | 合意していない | 適用除外 | 適用【A】 |
合意している | 適用除外 | 適用除外【B】 | ||
ない | - | 適用除外 | 適用除外【C】 |
まず、同一の事業所において同様の方が過去にいたかどうかが判断のポイントです。2ヶ月を超えて雇用された実績がないのであれば、加入しなくてよいということになりますが【C】、2ヶ月を超えて雇用された実績があるのであれば、基本的には加入しなければなりません【A】。ただし、労使双方により2ヶ月を超えて雇用しないことについて合意している場合は、実質的にも2ヶ月以内に雇用が終了されることが確かということで、そのような場合は加入しなくてよいということになります【B】。
日本における有期雇用契約は実務的には更新が何度もされていくことが多いことから、雇用契約書に「更新しない」と明示されているだけでなく、実質的にもそうであることを当事者同士が合意していることを要件とする細かな内容のものとなっていますので、注意が必要です。
また、雇用契約書には更新の有無について記載をしなければならないこととなっているのですが、中には明確に記載がされていない場合もあります。そのようなときにどう判断するかは、「更新しない」と明示されているときと同じ考え方となります。