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「健康保険・厚生年金保険の加入要件の拡大」③

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前回までは【4分の3基準】についてのお話をさせていただきました。遠回りのようにも思えますが、わかりやすさを求めすぎるとわからなくなるという禅問答のような罠については、ジャーナリストの池上彰さんも警鐘しているところです。その点に触れさせていただいたうえで、ようやくといった感じになりますが、本題の今回の改正の話に入っていきます。

わかりやすさを求めることのジレンマ

「わかりやすさ」の第一人者とも言える池上さんが一体どういうこと?と思われる方も多いかもしれませんが、池上さん本人が自著『わかりやすさの罠』(集英社新書 2019年)にて次のとおり記していますので、引用させていただきます。
『「難しいことをわかりやすく」というのは、私がこの30年間ずっとモットーにし続けてきたことです。しかし、最近になって、どうも、少なからぬ人たちが「わかりやすさ」の罠にはまってしまっているのでは、と心配になってきました。
「罠」とはつまり、「わかったつもり」になってしまうということです。…』(22ページ)
興味がある方はぜひ手に取って読んでいただきたいのですが、要は池上さんの番組を見て(見ただけで)、何となくわかった気になってしまっている方が多い、そのことに池上さん自身が気づいたといった内容になっています。

法改正にまつわる様々な情報

以前と比べて、法改正にまつわる情報提供は格段によくなり、法改正を周知するための様々なパンフレットやリーフレットなどが出回るようになりました。しかし、その内容を読むと、一見わかりやすいものの、これではわかったことにならないだろうな、とか、逆に誤解が生じてしまうのでは?というようなものも少なくありません。これは決して批判をしたいわけではなく、わかりやすさを求めすぎると必然的に起こるジレンマと捉えていたのですが、わかりやすさの開拓者である池上さん自身も気づいて、そのことに関する著書まで記していたとは驚きでした。
何が言いたいかと申しますと、本コラムはときに寄り道をしたり、回りくどくなったりするなど、遠回りをすることが多いと思いますが、それは単にわかりやすさを追求しているわけではないためにそうなる、ということです。

新たに加入しなければならない人とは

さて、ようやく本題の、101人以上500人以下の企業の場合に、新たに加入しなければならない人の要件の話に入っていきます。具体的な要件の確認に入る前に、【4分の3基準】に比べて、【新基準】の要件となる要素が多岐にわたることを確認しておきます。

  4分の3基準 新基準
所定労働時間
月額賃金 ×
雇用期間
学生か否か ×

【4分の3基準】の要件としては、所定労働時間のみが明記されることが多いのですが、雇用期間も大いに関わってきます。この点を「※」としたうえで、確認をしていくことにしましょう。

雇用期間要件の改正の罠

現行の雇用期間についてのルールを確認しますと、下表のとおりとなります。

  4分の3基準 新基準
雇用期間についての適用除外要件
(全労働者が対象)…A
2ヶ月以内の期間を定めて雇用される者
短時間労働者が新基準に該当する
かどうかの要件…B
雇用期間が1年以上

Aはそもそも、全労働者が対象となる適用除外要件でして、そのうえで、【新基準】に該当するかどうかの要件が2階建て構造のようになって定められているという具合です。
ではこれらのルールがどのように改正されるかというと下表のとおりです。

  4分の3基準 新基準
雇用期間についての適用除外要件
(全労働者が対象)…A
2ヶ月以内の期間を定めて雇用される者であって、当該
定めた期間を超えて使用されることが見込まれないもの
短時間労働者が新基準に該当する
かどうかの要件…B
(廃止)

AとBの改正は、それぞれ別の条項として行われるものですが、Bの要件は結果的に廃止されるため、すべての労働者について(=【4分の3基準】であろうが【新基準】であろうが、またフルタイムの有期契約者であっても)、雇用期間の要件は令和4年10月1日から統一されるということになります。

これを従業員規模ごとに整理しなおすと、下表のとおりとなります。

従業員数 全労働者についての適用除外要件 新基準における雇用期間要件
~9/30 10/1~ ~9/30 10/1~
501人以上 2ヶ月以内の期間
を定めて雇用さ
れる者
2ヶ月以内の期間を定
めて雇用される者であ
って、当該定めた期間
を超えて使用されるこ
とが見込まれないもの
勤続年数1年以上 (廃止)
101人以上500人以下 (新基準は)適用除外 (廃止)
100人以下 (新基準は)適用除外

「2ヶ月要件」は、企業規模に関わらず、全労働者についての適用除外要件であるため左列のように整理されることとなりますが、このように整理すると、雇用期間要件の改正は新基準における要件の改正として見るのは適切ではなく、すべての企業に関わる改正だということがわかります。
契約期間が2ヶ月以内という方はいない、ということであれば気にしなくてよいのですが、有期契約者の最初の契約期間を2ヶ月以内としてきた企業にとっては非常に大きな影響のある改正です。
すべての企業に関わる大きな影響の改正であるため、「健康保険・厚生年金保険の加入要件の拡大」という改正の話の枠組みの中で語ることは適切ではなく、誤解が生じかねませんので、その詳細を次回「適用除外要件としての「2ヶ月要件」の改正」として、取り上げることにします。

執筆者情報

加藤 正紀

社会保険労務士法人法改正研究所

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2022.08.17 15:38:55