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令和4年度雇用保険料率の改正と年度更新②

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『人事労務の法改正茶屋』4代目店主、東川藤衛でございます。
前回に引き続き、本日のおしながきのもう一つの食材、後半部分をお話ししてまいります。
雇用保険料率が年度途中で変更されるのはとてもめずらしく、直近では平成14年にありましたので20年ぶりのことになります。本稿のテーマは、雇用保険料率が年度途中で変更になることの年度更新への影響なのですが、前段として、そもそも年度更新って何なのか、という点についても少々ふれさせていただきます。

年度更新はわかりづらい

年度更新(労働保険料の申告)は、とてもわかりづらい制度だと思っています。例えば、税の確定申告はその算出のプロセスは複雑ですが、前年の実績だけを考えればよいという点ではすっきりとしています。一方、労働保険料の年度更新は、前年度の保険料を算出したうえで昨年概算払いしている保険料と過不足を調整し、今年度の保険料の概算分と合わせて納めるという複線型の考え方を取っています。最後にちょっとした足し算や引き算をするだけと言えばそれだけの話なのですが、「年度更新」という用語もやや抽象的でとらえづらい言葉のように思えます。

面倒なようでそうでもない「将来分を概算払いする」とは

実務に直接携わったことのない方からすれば、将来分を納めるってどうすればいいの?という感じがすると思いますが、特段緻密なシミュレーションをする必要はなく、基本的には前年度支払った賃金総額をベースに算出すればよいということになっています。
事業が急拡大して(またはその逆も)、支払う賃金総額が2倍を超える(または1/2未満)ことがわかっている場合は、想定される賃金総額をある程度見込む必要がありますが、2倍以下(または1/2以上)と見込まれる場合は、前年度支払った賃金総額をそのまま用いてよいことになっています。あくまでも原則は「賃金総額の見込額」なのですが、年度が始まったばかりの5~6月頃の時点で明らかに「賃金総額が2倍を超える(または1/2未満)になることがわかっている場合」は全体からすれば少ないため、多くの場合は前年度支払った賃金総額をそのまま用いることとなります。よくある話ですが、原則と例外が逆転して、例外の方が実務的には多いということになっていて、この考え方は、今年(令和3年度確定・令和4年度概算)も変わりはありません。
概算保険料の賃金総額を前年度と同じ額を用いる前提の場合、昨年(令和2年度確定・令和3年度概算)のように保険料率に変更がなければ、確定保険料と概算保険料は当然同じになりますが、今年のように保険料率に変更があれば、確定保険料と概算保険料は異なるものとなります。そして、今年度のように年度の途中で保険料率に変更があると、話はさらに(わずかばかりではありますが)複雑になってきます。

年度途中での料率変更による年度更新への影響

年度途中で雇用保険料率が変更になった原因は、背景に政治的な配慮があったようですが、ここでの本題ではないので割愛させていただき、このことにより年度更新の実務に影響が及ぶこととなりました。
概算保険料はもともと「概算」なのでそれほど緻密な算出が求められるわけではないのですが、令和4年度の雇用保険分の概算保険料は、9月までの上半期と10月からの下半期、それぞれの保険料率に応じて算出しなければならないことが示されました。しかしその考え方はざっくりとしており、単純にいえば、賃金総額を2で割ってそれぞれの期間に応じた料率をかけて計算した保険料を、最終的に足せばよいという考え方になっています。

端数処理のやり方

全体の算出方法自体はざっくりしているのですが、一方でなぜか端数処理については細かく定められています。賃金総額と保険料額それぞれについて行うのですが、それぞれさらに2段階にわけて端数処理を考慮する必要があるようです。
緑色(一部、青)の封筒に入っている冊子「令和4年度 労働保険年度更新 申告書の書き方)」(16~17ページ下部)に、端数処理の方法が示されています。しかしその説明文はちょっとわかりづらい部分があり、当初、その解説をここで行おうと考えていたのですが、冗長になってしまうおそれもあるのでそれは避けようと思います。料理のレシピ本をいくら読んでも、料理が上達するわけではないのと同じですね。

集計ツールの活用方法

説明文を読んでそれを正しく理解しようとするよりも、実際の数値を用いて考えた方がわかりやすいと思います。その際におすすめするのが、厚生労働省が提供しているこちらの下の方にある「年度更新申告書計算支援ツール」という集計ツールです。給与システムやエクセルなどから算出した額と、この集計ツールに数値を入れて算出される額が一致するかを、最終的にこちらで確認するのがよいでしょう。
この集計ツールは入力できるセルとできないセルがきっちりと設計されているため、初めて使うときはちょっと戸惑うかもしれません。すでに別途、年間の賃金総額を集計できている場合は、あらためて各月の数値を律儀に入力する必要はなく、どこかの月に年間の総額を入力してみてください。もちろん、各月の賃金額を集計ツールに入力していくという本来の活用方法でもご活用いただけます。

いずれにしても、概算保険料はあくまでも「概算払い」なので、それほど深くつきつめる必要はありません。細かな端数処理にとらわれることなく、1年後、令和4年度の確定保険料の計算を行うときにきちんと算出できればよいととらえた方がよさそうです。

執筆者情報

加藤 正紀

社会保険労務士法人法改正研究所

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『人事労務の法改正茶屋』4代目店主、東川藤衛でございます。前回に引き続き、本日のおしながきのもう一つの食材、後半部分をお話ししてまいります。雇用保険料率が年度途中で変更されるのはとてもめずらしく、直近では平成14年にありましたので20年ぶりのことになります。本稿のテーマは、雇用保険料率が年度途中で変更になることの年度更新への影響なのですが、前段として、そもそも年度更新って何なのか、という点についても少々ふれさせていただきます。
2022.06.17 15:56:19