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令和4年度雇用保険料率の改正と年度更新①

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『人事労務の法改正茶屋』4代目店主、東川藤衛でございます。
6月の旬と言えば年度更新(労働保険料の申告)ですが、皆様のお手元にも緑色(一部、青)の封筒が届いた頃かと思います。しかし今年は年度途中で雇用保険料が変更されるという事態が起こるため、例年にない作業が発生しています。その背景となった雇用保険料率が改正された話から振り返ってみましょう。

変わりゆく雇用保険制度のイメージ

雇用保険といえば退職した際に受ける失業保険(失業給付)のイメージを持っている方が多いと思います。実は近年、育児休業給付の給付額が急速に増加しています。興味のある方は厚生労働省のこちらの資料の4ページをご覧ください。

育児休業給付分の保険料を切り離す作業とその影響

育児休業給付の給付額が増えてくると、当然保険料率の決定への影響も大きくなりますので、厚生労働省は失業給付分の保険料と育児休業給付分の保険料を切り離すこととしました。この改正が行われたのが令和2年4月でした。
以下「一般の事業」の場合を取り上げますが、下表のとおり、平成31年度(令和元年度)まで労働者負担分は失業等給付分のみで内訳はありませんでした。

〇平成31年度(令和元年度)雇用保険料率

①労働者負担分

②事業主負担分

①+②
雇用保険料率

失業等給付分

(内訳)

失業等給付分

雇用保険二事業分

3/1000

6/1000

3/1000

3/1000

9/1000

そして令和2年度は、料率そのものには変更がなかったものの、「育児休業給付分」という内訳ができたのでした。

○令和2年度 雇用保険料率(令和3年度も同じ)

労働者負担分 事業主負担分

雇用保険料率

  
(内訳) (内訳)
失業等給付分 育児休業給付分
失業等給付分 育児休業給付分 雇用保険二事業分
3/1000 1/1000 2/1000 6/1000 1/1000 2/1000 3/1000 9/1000

しかし、厚生労働省としては、こちらのように、育児休業給付分の内訳を具体的に表示することは避けました。表が複雑となり見づらくなるため、わかりやすさを優先したのかもしれません。
その後、令和3年度も改正はなく、育児休業給付分という内訳ができて初めて、このたび令和4年度に料率の改正が行われました。

「育児休業給付分」ができてから初めての料率改正で起こったこと

雇用保険料率の改正は、法改正が必要な場合は年度末にならないと国会で改正法案が通らないこともあり、新年度になるぎりぎりまで確定情報が公表されないケースが多くなりがちです。実務担当者の視点からすれば、取り急ぎ知りたいことは現在の給与計算における控除の料率「3/1000」がどう変わるかというところなのですが、マスメディアは次のように改正の動向を伝えました。

『労使折半で負担する失業等給付分の雇用保険料率は現在の0.2%を令和4年10月から0.6%に引き上げる。』

令和3年度時点の失業等給付分は「1/1000+1/1000=2/1000」なので、何かの間違いではなくまったく正しいわけですが、実務担当者からすると「3/1000」はどこにいった?となるわけです。
一方で厚生労働省の立場としては、国会で正式に改正法案が可決していない段階での周知はできないという事情もあり、早すぎる周知は難しいというところがあります。

それぞれの立場を整理すると、下記のようになり、
A 厚生労働省の視点…国会で決まらない限り周知はできないし、育児休業給付分の内訳は複雑になるので表には出さない
B マスメディアの視点…事業主負担分と労働者負担分は切り分けずに、変更になる点にスポットを当てる
C 実務担当者の視点…取り急ぎ知りたいのは労働者負担分がどうなるか
このような視点の違いから若干の混乱を招くこととなりました。

令和4年度雇用保険料率

かくして、令和4年度雇用保険料率は決定されました(その改正内容はこちら)。今回の引上げはコロナ禍の影響によるものという文脈で語られることが多いのですが、これは若干正確性を欠いており、実のところは「当初の予定どおり、元に戻った」という方がより正確です。
雇用保険料率は、コロナ前は低い状況で推移していた失業率の動向などから、原則となる料率よりも引下げが行われていました。「令和2年度及び令和3年度」に限り引き続き引下げを継続するという方向性が決まったのが、まさに日本においてコロナの感染拡大が始まる前の、クルーズ船での感染が話題となった令和2年の年明けころだったのです。
なお雇用調整助成金については、「雇用保険二事業分」として財源(保険料)が明確に分かれており、別に財源を措置するための特例法がつくられ、一般会計からの繰入れが行われています。

雇用保険料率の改正だけで話が長くなってしまいました。年度更新への影響については、追ってお話しさせていただきます。

執筆者情報

加藤 正紀

社会保険労務士法人法改正研究所

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2022.06.14 15:16:59