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労災保険の特別加入について(中小事業主用)

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今日は守田社労士の訪問日です。

リエ「守田先生、こんにちは。この間、どうしても人手が足りなくて、社長が工場の仕事を手伝っていたのですが、その時にちょっと怪我をされてしまったんですよ。」

守田「あらら、大変でしたね。大丈夫でしたか。」

リエ「怪我自体はたいしたことなかったんですけど、念のため病院で治療したので、従業員であれば労災の申請ができるのですが、社長なのでご自身の健康保険で3割負担してもらうしかないんですよね。」

守田「そうですね。労災保険に加入してなければ申請はできません。」

リエ「だって社長ですから、労災には加入できないですよね。」

守田「中小企業の事業主には特別加入という制度がありますので、いくつかの要件はありますが、手続きをすれば労災に加入することもできるのですよ。」

リエ「え、そうなんですか、初めて聞きました。どんな要件があるのですか。」

守田「まず、雇用する労働者が1名以上いて保険関係が成立していること。そして、労働保険事務組合に委託していることです。」

リエ「労働保険事務組合って何ですか。」

守田「厚生労働省から委託を受けて、事業主が行うべき労働保険の事務を処理する団体のことです。古くからある社労士事務所や商工会などが引き受けているケースが多いようです。労災保険や雇用保険の手続きと労働保険料の申告と納付が主な業務だと考えてください。特に労働保険料については、労働保険事務組合が国に代わって内容をチェックして事業主から保険料を徴収し、まとめて納付をしているのです。通常の労働保険料は年額が40万円以上にならないと分割納付ができませんが、労働保険事務組合に加入すると、保険料額に関わらず3回に分割しての納付が可能になりますので、そういうメリットもありますね。」

リエ「いいことばかりのような気がしますが、どうして今まで勧めてくれなかったのですか。」

守田「制度としては素晴らしいのですが、やはりこれには費用がかかります。」

リエ「通常の労災保険料ではないのですか。」

守田「まず、労災保険料としても通常とは異なります。通常は労働者の対象年度1年間の給与、賞与、交通費等の合計額に保険料率を乗じて算定しますが、特別加入の場合は、給付基礎日額を会社が決めて、それを基に保険料額を算定するのです。給付基礎日額は3500円から2万5000円までの16段階から選ぶことができますので、保険料は高くすることも安くすることも報酬に見合った額でも自由です。ただし、その他に労働保険事務組合に対しての手数料が発生することになります。」

リエ「確かに、手続きをお願いするのですから無料でというわけにはいかないですよね。」

守田「そうなんです。元々手続きの委託を希望していた会社にとってはいいのですが、社内で手続きができている場合や、すでに別の社労士に委託している場合等は負担が増えてしまいます。それでも建設業や配送業など怪我や事故の可能性が高い業種にとっては加入する意味もあるのですが、事務系の業種や、社長が現場の業務に携わらない場合は、手数料を負担してまで加入する必要はあるのか、しっかり考えた方がいいと思います。また、事務組合によっても手数料の額は様々ですので、加入する場合はそちらもご確認ください。それと、社長だけでなく家族従業員や役員も一般労働者ではないとして、通常の労災保険には加入できませんが、特別加入をする場合には包括加入という原則があって、労働者以外で業務に従事している人全員を加入させなければいけないのです。他の役員は入れなくていいけど、社長だけ入れてくださいというのは原則認められません。また、あくまでも労災ですから、労働者としての業務を行っている際の事故に対する保険給付になります。特別加入したからといっても、事業主としての業務を行っているときに発生した事故は対象外になりますので、そこもよく考えてくださいね。」

リエ「いろいろな決まりがあるのですね。」

守田「確か、リエちゃんが入社する前、私が顧問を始めたばかりの頃に、1度社長にはお伺いしたのですが、改めて確認してもいいかもしれませんね。」

リエ「はい、そうしてみます。ありがとうございました。」

監修

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税理士 坂部達夫

坂部達夫税理士事務所/(株)アサヒ・ビジネスセンター

 東京都墨田区にて平成元年に開業して以来、税務コンサルを中心に問題解決型の税理士事務所であることを心がけて参りました。
 おかげさまで弊所は30周年を迎えることができました。今後もお客様とのご縁を大切にし、人に寄り添う税務に取り組んでいきます。

メールマガジンやセミナー開催を通じて、様々な情報を発信しています。

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今日は守田社労士の訪問日です。リエ「守田先生、こんにちは。この間、どうしても人手が足りなくて、社長が工場の仕事を手伝っていたのですが、その時にちょっと怪我をされてしまったんですよ。」守田「あらら、大変でしたね。大丈夫でしたか。」リエ「怪我自体はたいしたことなかったんですけど、念のため病院で治療したので、従業員であれば労災の申請ができるのですが、社長なのでご自身の健康保険で3割負担してもらうしかないんですよね。」守田「そうですね。労災保険に加入してなければ申請はできません。」リエ「だって社長ですから、労災には加入できないですよね。」守田「中小企業の事業主には特別加入という制度がありますので、いくつかの要件はありますが、手続きをすれば労災に加入することもできるのですよ。」リエ「え、そうなんですか、初めて聞きました。どんな要件があるのですか。」守田「まず、雇用する労働者が1名以上いて保険関係が成立していること。そして、労働保険事務組合に委託していることです。」リエ「労働保険事務組合って何ですか。」守田「厚生労働省から委託を受けて、事業主が行うべき労働保険の事務を処理する団体のことです。古くからある社労士事務所や商工会などが引き受けているケースが多いようです。労災保険や雇用保険の手続きと労働保険料の申告と納付が主な業務だと考えてください。特に労働保険料については、労働保険事務組合が国に代わって内容をチェックして事業主から保険料を徴収し、まとめて納付をしているのです。通常の労働保険料は年額が40万円以上にならないと分割納付ができませんが、労働保険事務組合に加入すると、保険料額に関わらず3回に分割しての納付が可能になりますので、そういうメリットもありますね。」リエ「いいことばかりのような気がしますが、どうして今まで勧めてくれなかったのですか。」守田「制度としては素晴らしいのですが、やはりこれには費用がかかります。」リエ「通常の労災保険料ではないのですか。」守田「まず、労災保険料としても通常とは異なります。通常は労働者の対象年度1年間の給与、賞与、交通費等の合計額に保険料率を乗じて算定しますが、特別加入の場合は、給付基礎日額を会社が決めて、それを基に保険料額を算定するのです。給付基礎日額は3500円から2万5000円までの16段階から選ぶことができますので、保険料は高くすることも安くすることも報酬に見合った額でも自由です。ただし、その他に労働保険事務組合に対しての手数料が発生することになります。」リエ「確かに、手続きをお願いするのですから無料でというわけにはいかないですよね。」守田「そうなんです。元々手続きの委託を希望していた会社にとってはいいのですが、社内で手続きができている場合や、すでに別の社労士に委託している場合等は負担が増えてしまいます。それでも建設業や配送業など怪我や事故の可能性が高い業種にとっては加入する意味もあるのですが、事務系の業種や、社長が現場の業務に携わらない場合は、手数料を負担してまで加入する必要はあるのか、しっかり考えた方がいいと思います。また、事務組合によっても手数料の額は様々ですので、加入する場合はそちらもご確認ください。それと、社長だけでなく家族従業員や役員も一般労働者ではないとして、通常の労災保険には加入できませんが、特別加入をする場合には包括加入という原則があって、労働者以外で業務に従事している人全員を加入させなければいけないのです。他の役員は入れなくていいけど、社長だけ入れてくださいというのは原則認められません。また、あくまでも労災ですから、労働者としての業務を行っている際の事故に対する保険給付になります。特別加入したからといっても、事業主としての業務を行っているときに発生した事故は対象外になりますので、そこもよく考えてくださいね。」リエ「いろいろな決まりがあるのですね。」守田「確か、リエちゃんが入社する前、私が顧問を始めたばかりの頃に、1度社長にはお伺いしたのですが、改めて確認してもいいかもしれませんね。」リエ「はい、そうしてみます。ありがとうございました。」
2021.12.13 17:00:18