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公益通報者保護法の改正

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第1 はじめに

 公益通報者保護法は、内部告発者(≒公益通報者)を保護することで企業等の不正を糾し、国民の生命、身体、財産その他の利益を保護することを目的とした法律です。この目的を達成するため、企業等の事業者には公益通報者を保護する義務が課されています。
 令和2年6月8日、公益通報者保護法の改正案が成立し、令和4年6月1日の施行に向けて準備が進められています。そこで、今回は、公益通報者保護法がどのように改正されるのかを解説いたします。

第2 改正のポイント

1 事業者に対する義務の強化
 (1) 内部通報に対する体制の整備義務
   公益通報者からの通報を受け、調査を行い、その是正に必要な措置をとる業務に従事する者(=公益通報対応業務従事者)の設置義務が、事業者に対し課されることとなりました(改正法11条1項)。そして、公益通報対応業務従事者に対しては、通報者を特定される情報についての守秘義務が課され、違反した場合には刑事罰(30万円以下の罰金)を科すことが可能となります(改正法12条、21条)。
   また、内部通報に適切に対応するため、必要な体制の整備等の必要な措置をとることも、事業者に対し義務付けられます(改正法11条2項)。
   なお、事業者に課されるこの2つの義務(改正法11条1項、2項)については、労働者が300人を超える事業者に課されるものであり、300人以下の事業者については、努力義務となっています(改正法11条3項)。
   そして、事業者がとるべき具体的な措置については、内閣総理大臣の定める指針により示されます(改正法11条4項)。例としては、内部公益通報受付窓口を設置し、内部公益通報の調査を実施して是正に必要な措置をとる部署及び責任者を明確に定めること、その責任者が組織の幹部から独立性を確保できる措置を行うことや、労働者や役員に対して公益通報者保護法や内部公益通報体制についての教育・周知を行うことなどが示されています。
 (2) 体制の整備義務に対する実効性の確保
   内閣総理大臣は、改正法11条1項及び2項の施行に関し、必要があると認めるときは、事業者に対し、報告を求めたり、助言・指導・勧告をしたりことができます(改正法15条)。そして、この勧告に従わない事業者がいる場合には、その事業者を公表することもできます(改正法16条)。
 2 保護の拡大
 (1) 保護の対象となる者の拡大
   現行法において保護される者は、労働者等(派遣労働者やアルバイトも含まれます)に限定されていました。しかし、改正法においては労働者に限定されず、退職後1年以内の退職者や役員も含まれることとなります(改正法2条1項各号)。
 (2) 保護される通報内容の拡大
   ア 公益通報制度の対象となる行為の拡大
    現行法において保護される通報内容は、公益通報者保護法の別表に挙げられている法令のうち刑事罰の対象となる事実についての通報のみでした。改正法では、刑事罰だけでなく過料(=行政罰)の対象となる事実についての通報も保護されることとなります(改正法2条3項)。
   イ 行政機関への通報の条件の緩和
    現行法において、行政機関への通報は、通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合のみ保護の対象となります。そのため、通報者は、信用性の高い証拠等を収集する必要がありました。
    改正法では、「まさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由」がなくとも、通報対象事実がまさに生じようとしていると「思料し」、かつ、通報者の氏名や思料する理由等を記載した書面を提出した場合には保護の対象となります(改正法3条2号)。
 (3) 損害賠償請求の制限
   事業者は、公益通報者に対し、公益通報によって損害を受けたことを理由に損害賠償請求をすることができなくなります(改正法7条)。

第3 最後に

 今回は、公益通報者保護法の改正の要点を解説いたしました。今回の改正では上記の点以外の改正も行われております。また、内部通報に対する体制の整備については、指針により具体的な内容が示されており、事業者は、この指針に従って体制を整備する必要があります。
 事業者の方は、改正法が施行される前に、自らの内部通報に対する体制を確認することをお勧めいたします。
以上

参考文献
消費者庁
「公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和2年法律第51号)」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/whisleblower_protection_system/overview/assets/overview_200615_0001.pdf

消費者庁
「公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/whisleblower_protection_system/overview/assets/overview_211013_0001.pdf
(最終閲覧 令和3年11月30日)

執筆者情報

弁護士 髙尾 侍志

弁護士法人ALAW&GOODLOOP
北九州オフィス

令和3年1月 弁護士登録

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