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第6回「原価管理を難しくさせない」

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原価管理を行うために必要な粗利率ルール

実行予算を作っていない建設会社は少なくありません。ですが、実行予算を作らないと受注した工事に対する予想利益が算出できず、前回申し上げた、受注見込工事に対する予想利益も出せません。よく社長が「うちの担当者に実行予算を出せと言うがあまり出さない。」とか「実行予算は出してくれるけど書式も粗利率も担当者によってバラバラでよく分からない」などと愚痴を聞いたりしますが、これは会社として粗利率のルールを決めていないからです。粗利率は釈迦に説法ですが、図1-1の通りで、この粗利率を受注する工事規模や工事の難易度などによって獲得する粗利率のルールを決めておく事が大切で、これがあれば担当者もこれに沿って外注先や資材調達先への価格交渉や作業期間(作業員・重機などの割り当てる期間)なども、検討し粗利率を意識した検討を行う事ができる様になります。
もし顧問先の建設会社に“粗利率”のルールがない場合は、顧問先の社長と話し合って、作ってもらう事をお薦めします。(図1)
 
①工事予想利益額(粗利予想額 = 受注額 ― 実行予算額(原価予想額)
②粗利率 = 工事予想利益額 ÷ 受注額 × 100 (%)
(図1-1)

工事実行予算 粗利率ルール例

工事規模 最低粗利率 
6カ月以上工事  18%
1カ月以上3カ月以内工事 20%
1カ月未満工事  25%

(図1-2)

工事原価管理を難しくしない

「小さく生んで大きく育てる」という言葉は様々な管理を行う時のポイントではないかと私は思います。目標を大きく立てて挑戦していくのも良いですが、小規模建設会社のほとんどが、実行予算も作成していない、工事ごとの原価集計も行っていない、毎月の利益も不明、そんな小規模建設会社が多い中で、いきなり大手ゼネコンが行っている様な工事原価台帳の書式や手法を持ち込んでも現実的ではありません。そこで、管理は小さく・・・、出来る範囲でスタートするのがベターです。最低限の管理とは以下の項目になります。
 ・工事ごとの利益計画(労務費・それ以外の費用)
 ・工事ごとの原価集計(労務費・それ以外の原価)
 ・工事ごとの利益
上記をご覧いただき“あれ・・・?”と感じた方も多いと思いますが、建設業会計では要素を材料費・労務費・外注費・経費に分けなくては行けませんが、これを現場担当の方に「工事原価を材料費・外注費・経費に分けて下さい」と言うだけで面倒に思われる場合が多いのが実態です。労務費は日報から算出できますから現場の方でも集計できますが、それ以外の費用を請求書や納品書から材料費・外注費・経費に仕訳するのは大変に思ってしまい、結果、集計するのを手伝ってくれないという事にもなってしまいます。工事原価管理の一番大切な目的は工事ごとの利益を掴むことであり、要素ごとの原価を掴む事は二の次にします。まずスタートは、労務費と労務費以外の費用の2つで集計してみる・・・。このくらい割り切って、スタートし「利益が掴めるようになった!」という成功体験を先ず、社長に感じてもらう事で次のステップに進んでもらう・・・。そんなアドバイスをしてみては如何でしょうか?

労務費の集計方法

労務費は現場作業員の工事ごとの出面(でづら)を集計します。例えば、田中一郎さんと鈴木次郎さんは入社10年なので時間単価を2,500円、佐藤三郎さんは入社3年なので時間単価2,000円と設定した場合をご説明しています。(図2-1)時間単価は建設会社によって考え方は違いますが、一般的には給料・賞与・社会保険料(会社負担分)を年間合計し、これを時間単価で割り戻し設定します。ですが、個人単位では設定せずに入社歴などで給料同等のグループ単位で作業単価の平均額を算出し、これを作業単価として設定するのが一般的です。その上で、下図の通り、実際の給料と24,300円が合わない部分はどうするのか?という疑問が出るかと思います。

氏名 工事名 入社歴 1か月分の作業時間 作業単価(時間当たり) 工事原価(労務費)① 給料(社会保険等含む)②  差異②-①
田中一郎 A工事  10年 160h  2,500円 400,000円 432,500円 32,500円
鈴木次郎 B工事 10年 160h  2,500円 400,000円 398,600円 1,400
佐藤三郎  B工事 3年 160h  2,000円 320,000円 313,200円 6,800
          1,120,000円   24,300円

(図2-1)

私がお薦めするのは(図2-2)の通り、調整工事を作り各工事の原価への調整は行わないやり方です。
理由として、現場ごとに24,300円を戻す事務作業の手間が発生する事と、一番大きな点は実行予算単価も2,500円や2,000円で予想原価として組み込んでいる事にあり、大きな意味を持たない事にあります。

氏名 工事名 入社歴 1か月分の作業時間  作業単価(時間当たり) 工事原価(労務費)① 給料(社会保険等含む)②  差異②-①
田中一郎 A工事 10年 160h  2,500円 400,000円 432,500円 32,500円
鈴木次郎 B工事 10年 160h  2,500円 400,000円 398,600円 1,400
佐藤三郎 B工事 3年 160h  2,500円 320,000円 313,200円  6,800
  調整工事       24,300   24,300
        1,095,700円   0円

以上、3回に渡り工事原価管理の目的とシンプルに管理するための手法を簡単にご紹介してまいりました。尚、この様なシンプルな管理手法を盛込んだ経営管理システム「原価指南」をご用意していますのでご覧いただければ幸いです。

執筆者情報

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三國 浩明

一般社団法人原価管理研究会
(略称 SCC:Studies of Cost Control)

建設会社などの経営ノウハウを税理士、中小企業診断士など士業向けにクラウドを利用した学習教材配信サービスを提供中。限界利益管理や月次決算の早期化をシンプルに行う手順の研究や原価管理のシステム化にも力を入れ、全国で数多くの導入実績と講演活動を行う

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実行予算を作っていない建設会社は少なくありません。ですが、実行予算を作らないと受注した工事に対する予想利益が算出できず、前回申し上げた、受注見込工事に対する予想利益も出せません。よく社長が「うちの担当者に実行予算を出せと言うがあまり出さない。」とか「実行予算は出してくれるけど書式も粗利率も担当者によってバラバラでよく分からない」などと愚痴を聞いたりしますが、これは会社として粗利率のルールを決めていないからです。粗利率は釈迦に説法ですが、図1-1の通りで、この粗利率を受注する工事規模や工事の難易度などによって獲得する粗利率のルールを決めておく事が大切で、これがあれば担当者もこれに沿って外注先や資材調達先への価格交渉や作業期間(作業員・重機などの割り当てる期間)なども、検討し粗利率を意識した検討を行う事ができる様になります。 もし顧問先の建設会社に“粗利率”のルールがない場合は、顧問先の社長と話し合って、作ってもらう事をお薦めします。(図1)   ①工事予想利益額(粗利予想額 = 受注額 ― 実行予算額(原価予想額) ②粗利率 = 工事予想利益額 ÷ 受注額 × 100 (%) (図1-1) 工事実行予算 粗利率ルール例
2021.11.26 17:25:35