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犯罪収益移転防止法に基づく取引時確認について

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第1 はじめに

 犯罪による収益の移転防止に関する法律(以下、「同法」といいます。)という法律をお聞きしたことがあるでしょうか。この法律では、マネーロンダリングやテロ資金の供与を防止するため、一定の取引を行う場合に相手方の本人確認等を行うことが義務付けられています。同法は、金融機関、ファイナンスリース事業者、クレジットカード事業者、宅地建物取引業者や宝石・貴金属等取扱事業者など同法2条2項1号から48号に列挙されている事業者に対して適用されるものです。適用の対象となる取引などは各事業者よって異なっているため、本コラムでは、金融機関を例に、同法に基づく取引時確認の概要を説明します。

第2 対象となる取引について

1 序論
 同法では、金融機関に対し、顧客との間で、特定業務のうち「特定取引等」を行うに際して、本人特定事項等の確認を行うことを義務付けています(同法4条)。
2 「特定取引等」とは
 「特定取引等」とは、「特定取引」と「ハイリスク取引」の2つの取引のことを指します。そして、「特定取引」は、「対象取引」と「特別の注意を要する取引」の2つに細分化されます。
3 各取引の意義
 ⑴ 特定取引
  ア 対象取引
 対象取引とは、犯罪収益移転防止法施行令(以下、「施行令」といいます。)7条に列挙されている取引をいいます。金融機関については、預金の受入れを内容とする契約の締結、信託に係る契約の締結、金銭の貸付けを内容とする契約の締結、貸金庫の貸与を行うことを内容とする契約の締結などが挙げられています(施行令7条1項1号)。
  イ 特別の注意を要する取引
 「特別の注意を要する取引」とは、対象取引以外の取引で、「マネーロンダリングの疑いがあると認められる取引」と「同種の取引と著しく異なる態様で行われる取引」です(犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則(以下、「施行規則」といいます。)5条)。
 ⑵ ハイリスク取引
 ハイリスク取引とは、「なりすましの疑いがある取引又は本人特定事項を偽っていた疑いがある顧客等の取引」、「特定国等に居住・所在している顧客等との取引」、「外国PEPsとの取引」です(施行令12条)。
 なお、外国人PEPsとは、外国政府等の要人、過去に外国政府等の要人であった者及びその家族を意味しています。

第3 取引時確認の内容

1 序論
 取引時確認の内容は、ハイリスク取引に該当するか否かによって、その内容が異なります。
2 通常の特定取引(特定取引であってハイリスク取引に該当しないもの)
 通常の特定取引については、以下の事項の確認が必要となります(同法4条)。

 ①本人特定事項

  自然人:氏名、住居、生年月日

  法 人:名称、本店又は主たる事務所の所在地

 ②取引を行う目的

 ③職業(自然人の場合)又は事業の内容(法人・法人格のない社団又は財団の場合)

 ④実質的支配者(法人の場合)

3 ハイリスク取引について
 ハイリスク取引の場合、上記の通常の特定取引における確認事項に加えて、その取引が200万円を超える財産の移転を伴うものである場合には、「資産及び収入の状況」の確認をすることが求められます。さらに、「本人特定事項」と「実質的支配者」については通常の特定取引よりも厳格な方法による確認が必要となります。「本人特定事項」の確認の場合には、通常の特定取引で用いる本人確認書類だけでなく、追加の本人確認書類若しくは追完書類等の提示が必要となります。また、「実質的支配者」の確認の場合には、株主名簿等の確認が必要となります。

第4 結語

 今回は、金融機関を例に犯罪収益移転防止法に基づく取引時確認の概要を簡単にご説明いたしました。同法は、金融機関だけでなく、他の業種であっても適用されるものです。そして、適用される取引も各事業者によって異なります。同法に基づく取引時確認の運用等でご不明な点があれば、お気軽にご相談ください。

参考文献
警察庁刑事局組織犯罪対策部組織犯罪対策企画課犯罪収益移転防止対策室
「犯罪収益移転防止法の概要」
https://www.npa.go.jp/sosikihanzai/jafic/hourei/data/hougaiyou20210719.pdf
(最終閲覧2021年10月30日)

執筆者情報

弁護士 髙尾 侍志

弁護士法人ALAW&GOODLOOP
北九州オフィス

令和3年1月 弁護士登録

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2021.11.08 17:20:44