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第5回「税理士の役割は司会進行役」

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建設業経営に必要な“3つの数字”

前回、建設業経営にとって、“3つの数字”が大切であることをお話ししました。企業は利益を出す事は最低限、必要であり、これを意識した経営管理サイクルを大切にしたい。その上で、経営者や経営幹部だけではなく、社員全員が分かりやすくモチベーションを上げられる管理指標には次を推奨しています。
1つ目は「年間利益計画」です。利益は「営業利益」を基本とするのが分かりやすいと思いますが、各社によって分かりやすいと思うものが「経常利益」や「純利益」であれば、それでも構わないと思います。いずれにせよ年間利益計画を立てる事は、社員一丸となってゴールを目指す指標となります。
目指すゴールが決まれば、毎月、完成工事利益を集計し、その上で、3カ月単位で年間の利益目標との差異を確認します。例えば、3月決算の会社の場合は、6カ月前の時点での計画差を予想する事で不足する場合は、何としてでも達成できるように手を打ちます。(図1)

3月決算 ㈱●●建設

金額

年間利益計画

3,000万円

完成済工事利益(10月時点)

1,500万円

期中予想利益

(完成予定工事利益+受注見込予定利益)

 

1,300万円

計画差

200万円

(図1) 

月をまたぐ工事においても、当月完成した現場の売上から使用した原価を差引き利益を出します。また、現車両費や修繕費、リース代、現場監督の人件費など個別の工事に振り分けしにくい原価は集計できないと言う事をよく聞きますが、「共通現場」という工事を作り全て、この工事に集計します。これにより毎月の収益が掴めるようになります。(図2)

10月損益】

当月売上

当月原価

完成工事利益

A現場

1,200万円

800万円

400万円

B現場

2,000万円

1,600万円

400万円

C現場

800万円

600万円

200万円

共通現場

250万円

250万円

一般管理費

 

400万円

400万円

10月度損益計

4,000万円

3,650万円

350万円

(図2) 

期中予想利益の精度を上げる

完成済工事利益や完成予定工事利益で年間計画が達成できれば良いですが簡単ではありません。そこで、受注見込の高い工事を営業担当(社長や専務の場合もあり)ごとに出してもらいます。その際、件名の受注確率ごとに見込ランク付けを行い、例えば、Aランク(受注確率90%以上)・Bランク(受注確率70%以上)Cランク(受注確率50%以上)などの社内ルールを決め提出してもらいます。
毎月、「利益検討会」で、この期中予想利益の精度が高まるように、受注見込の高い工事1件1件を大切に参加者みんなで報告し合う事で受注確率が高まっていきます。また、これにより年間利益計画との差異に対する確認が行え、知らず知らずに社長も経営幹部も参加したメンバー全員がお金に対する執着が芽生えていくキッカケとなります。受注見込ランクは管理し始めた最初の頃は、いい加減で当てにならないと思うかも知れません。ですが、継続する事で多少いい加減に提出してきた人も、少しずつ精度があがります。ですが、ただ何もせずに精度はあがりません。
そこで登場するのが税理士やスタッフの皆さんになります。

「利益検討会」の司会進行役に

前回も申し上げましたが、建設業のノウハウをお持ちの税理士は非常に少ないと思います。ですから受注のためにアドバイスのしようがないのも当然です。ですが、受注するためのポイントを予め社長とも相談しルール化しておき、それに沿って、各受注見込状況を、「利益検討会」の聞き役になって確認する事は可能です。例えば、見込ランクの条件は、①予算②決裁者購入意思③融資状況④業者手配⑤仕様確認の5つとし、5つ全てOKならAランク、4つならBランク、3つならCランクなどとします。但し、期中完成という条件がクリアーされていなければ、受注見込が高くても今年度の売上計上にはならないため、完成予定月も報告してもらいます。以上を前月の「利益検討会」で報告してもらった内容と、今月の報告と違う点があったり疑問があれば、質問したり、質問を促せばよいだけです。皆さんは司会進行役として確認しながら進めていきます。建設業のノウハウは一切いりません。
ですから、それだけに事前の社長や営業責任者とのヒアリングはとても大切です。“建設”と言っても建設業には29業種もの工事種類があり、顧客や工期も様々な組み合わせがあります。ですが、どんな条件が揃えば受注ができるかを社長などに聞いていけば、自ずと受注見込ランク分けはできるはずです。もしも、仮に不十分と感じたとしてもランクはA・B・Cに分けて、とりあえずスタートしながら、少しずつ是正していけば良い・・・。その程度でも十分です。大切なのは不十分であったとしても基準を決めて始めることです。そして、年間計画を立て「利益検討会」を毎月開催していく・・・。それこそが、建設会社に利益への執着を根付かせていくことであり、“どんぶり勘定”からの脱却を目指すきっかけとなるはずです。

日々集計を行う

利益の集計は原価を集計しないと始まりません。労務費は工事日報から集計します。また外部に支払う外注費や材料費、経費などは納品書や請求書から集計します。この集計作業は、現場担当が行わなくても事務担当が行っても構いませんが、どこの現場で何をいくら使ったかは、工事担当者が報告・提出してもらわねばなりません。そしてすべての工事で利益を掴めるようになれば、「利益検討会」で年間利益計画との差異を確認できるようになり、先手を打つことができるようになります。したがって、ちゃんと集計しない人が一人でも要れば会社全体の年間利益計画との進捗が不明となってしまう・・・、何の意味もない「利益検討会」になってもしまう訳です。ですから、そこに会社としての連帯意識が生まれ、“どんぶり勘定”だった建設会社が大きく変わる事になっていきます。次回に続く。

執筆者情報

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三國 浩明

一般社団法人原価管理研究会
(略称 SCC:Studies of Cost Control)

建設会社などの経営ノウハウを税理士、中小企業診断士など士業向けにクラウドを利用した学習教材配信サービスを提供中。限界利益管理や月次決算の早期化をシンプルに行う手順の研究や原価管理のシステム化にも力を入れ、全国で数多くの導入実績と講演活動を行う

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前回、建設業経営にとって、“3つの数字”が大切であることをお話ししました。企業は利益を出す事は最低限、必要であり、これを意識した経営管理サイクルを大切にしたい。その上で、経営者や経営幹部だけではなく、社員全員が分かりやすくモチベーションを上げられる管理指標には次を推奨しています。1つ目は「年間利益計画」です。利益は「営業利益」を基本とするのが分かりやすいと思いますが、各社によって分かりやすいと思うものが「経常利益」や「純利益」であれば、それでも構わないと思います。いずれにせよ年間利益計画を立てる事は、社員一丸となってゴールを目指す指標となります。目指すゴールが決まれば、毎月、完成工事利益を集計し、その上で、3カ月単位で年間の利益目標との差異を確認します。例えば、3月決算の会社の場合は、6カ月前の時点での計画差を予想する事で不足する場合は、何としてでも達成できるように手を打ちます。(図1)
2021.10.26 17:49:19