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Ⅲ 電子帳簿等保存制度[帳簿]の改正

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1 改正の概要

 改正前の保存要件は、それぞれの要件を満たすかどうかを事前承認制により確認した上で保存を開始してもらうこととしていました。事前承認を受けるハードルが高く、利用しづらいという意見もありました。

 改正後の電子帳簿保存制度は、事前承認制が廃止され、「優良な電子帳簿」と「最低限の要件を満たす電子帳簿」の2種類の保存制度に構成されることになります。
 このうち信頼性の高い「優良な電子帳簿」についてはインセンティブを設けることで記帳水準の向上を図ることとし、その保存要件については、過少申告加算税の軽減措置の対象となる国税関係帳簿の保存要件として定められています。
 具体的には、「最低限の要件を満たす電子帳簿」の要件により保存を行っている国税関係帳簿で、①訂正・削除・追加履歴の確保、②帳簿間の相互関連制の確保、③検索機能の確保の保存要件が定められています。これらの保存要件は、「国税の納税義務の適正な履行に資するもの」として位置付けています(電帳法8④)。
 一方、安価で使い勝手の良いクラウド会計ソフトの活用により、モニター、説明書の備付け等の最低限の要件を満たす「最低限の要件を満たす電子帳簿」が新たに設けられたことにより、誰もが利用しやすい制度となり、飛躍的に利用者が増加することが考えられます。

2 過少申告加算税の軽減措置

 優良な電子帳簿に係る過少申告加算税の軽減措置については、優良な電子帳簿について、あらかじめその旨の届出書を提出した一定の国税関係帳簿(個人・法人の青色申告者、消費税事業者の備付ける帳簿)の保存を行う者については、過少申告加算税を5%軽減することが新たに規定されました。

3 改正による実務への影響

⑴ 税務調査でダウンロードの求めに応じる保存要件
 「最低限の要件を満たす電子帳簿」では、税務調査において帳簿書類のダウンロードの求めがある場合にはこれに応じることも保存要件とされています。
 顧問税理士においても、対応を求められることが予想されます。事前承認制の廃止により、制度の利用開始が容易になることから、利用を開始する場合には、しっかりと保存要件を満たす帳簿書類の保存となっているか確認し、利用開始後も継続的に保存要件を満たしているか確認しておく必要があります。税務調査で保存要件を満たした電子データでないとなった場合には、保存帳簿とは認められなくなり、申告内容を確認するためのものとして扱われるためには、納税者における追加的な説明や資料提出が必要となる場合があると考えられます。保存要件に従った保存を行っていないと、青色申告承認の取消事由にもなることも留意しておく必要があります。
 また、ダウンロードの求めがあった場合には、その求めの全てに応じなければならなかったり、税務職員の求めた状態で提出しなければならないということがあります。

⑵ 「優良な電子帳簿」と「最低限の要件を満たす電子帳簿」の差別化
 電子帳簿は、2種類の保存制度に構成されたことにより、事後検証可能性の高い「優良な電子帳簿」については、過少申告加算税の軽減措置、65万円青色申告特別控除の要件とするなど、インセンティブ措置を設けて、「最低限の要件を満たす電子帳簿」と差別化を図ることとしています。
 差別化という意味では、インセンティブ措置によるものもありますが、事後検証可能性の高い優良な電子帳簿は、経理誤りを是正しやすい環境を自ら整えていることから、税務調査においても税務コンプライアンスが高い事業者と認識され、税務当局にとっては、調査事務量を縮減することも期待できます。 その事務量は、税務リスクの高い事業者により多くの調査事務量を投下していくことも考えられます。また、融資等の際には金融機関に対しても信頼性の高い帳簿を備え付けていることをアピールすることができます。さらには、優良な電子帳簿で経営を行っている事業者として、取引先等を含めて 社会的信用にも影響する可能性もあります。
 今後、顧問先企業においても、社会的信用度を高めるため、「優良な電子帳簿」が適用できるようにして欲しいという依頼も増えてくると考えられます。
 保存要件に従った帳簿の備付け保存を行うにはどのようにすればよいか、顧問先企業の意向も聞きながら、必要に応じて検討しておく必要があります。

⑶ ペーパーレス化と内部監査体制構築の重要性
 電子帳簿導入のハードルが大きく下がった「最低限の要件を満たす電子帳簿」を利用すれば、多くの事業者が帳簿を電子で保存でき、紙に出力して保存する必要がなくなります。
 紙の場合には、印刷や帳合い、ホッチキスどめ、配布などの事務量が発生するほか、コピー用紙やインク代などの消耗品費も必要となります。
 また、大量の紙資料の中から必要な資料の抜き出すことは、相当な事務量を要します。
 原本が電子データであり、システムやファイル等で管理すれば、紙の場合の消耗品費等のコストは不要となることはもちろん、そのための事務量も発生しません。
 また、電子データにより検索を行えば、大量のデータの中からでも瞬時に必要なデータを抽出することができ、事務負担の大幅な軽減が行われます。
 企業のデジタル・トランスフォーメーションを推進するためにも帳簿書類の電子化は欠かせません。
 一方で、事前承認制の廃止により保存要件が順守されているかを当初の保存段階からしっかりと自己責任で管理する必要性が増したと言えます。税務調査の際に保存要件に従った保存でないと認定された場合には、税法上の保存書類とはみなされなくなります。
 ペーパーレス化によるデータ処理に関しては、紙の媒体を通じて人の目に触れていた機会がなくなるため、電子化文書の脆弱性を踏まえれば、より厳格な監査体制を構築することが重要です。日頃から保存要件に従った保存がなされているかをチェックができる適正な事務処理体制の確保やその運用体制、内部統制をしっかり行っていく必要があります。

執筆者情報

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税理士 松崎啓介(松崎啓介税理士事務所 所長)

一般社団法人租税調査研究会主任研究員

昭和59年~平成20年 財務省主税局勤務 税法の企画立案に従事(平成10年~平成20年 電帳法・通則法規等担当)。その後、大月税務署長、東京国税局 調査部特官・統括官、審理官、企画課長、審理課長、個人課税課長、国税庁監督評価官室長、仙台国税局総務部長、金沢国税局長を経て税理士登録。
主な著書に「国税通則法精解」「国税徴収法精解」(大蔵財務協会)、「電子帳簿保存法がこう変わる!~DXが進む経理・税務のポイント」 (税務研究会)、「税理2021.9月号 改正電子帳簿保存法は企業経理の電子化を推し進める好機~その全体像と事前対策」 (ぎょうせい)「もっとよくわかる 電子帳簿保存法がこう変わる!」(2021.11.16出版予定)(税務研究会)等。

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2021.11.26 11:49:48