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不動産売買に係る固定資産税精算金の取扱い

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 土地建物等の売買が行われる際には、その年分の固定資産税相当額を日割り計算して買主から売主に対して授受されるが、その土地建物等が業務の用に供される場合に授受される金額相当額については、売主側では必要経費の金額を減額処理し、一方、買主側ではその負担額を必要経費に算入することになるのかどうかについて、疑問の生ずるところである。

1 固定資産税精算金の意義

 固定資産税の納税義務者は、固定資産の所有者とされており、固定資産税の賦課期日は、その年度の初日の属する年の1月1日とされている。また、固定資産税の納期は、原則として4月、7月、12月及び2月とされている。地方税法上、次のとおり規定されている。

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(固定資産税の納税義務者等)
第三百四十三条 固定資産税は、固定資産の所有者(質権又は百年より永い存続期間の定めのある地上権の目的である土地については、その質権者又は地上権者とする。)に課する。
(固定資産税の賦課期日)
第三百五十九条 固定資産税の賦課期日は、当該年度の初日の属する年の一月一日とする。
(固定資産税の納期)
第三百六十二条 固定資産税の納期は、四月、七月、十二月及び二月中において、当該市町村の条例で定める。但し、特別の事情がある場合においては、これと異なる納期を定めることができる。
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 例えば、その年の1月1日現在においてその不動産の所有者である甲がその年の6月にその所有権を乙に譲渡した場合には、その年に賦課された固定資産税の納税義務はその全額について甲が負うことになり、乙に納税義務は発生しない。

 その結果、甲は、譲渡前の4月に第一期分の税額を納付するが、6月に譲渡したのも関わらず、7月、12月及び2月の第二期分、第三期分及び第四期分の税額も納付しなければならないことになる。法令上はこういった一見不合理なような結果になる。

 そこで、実際の不動産の売買においては、甲と乙のその不動産の所有期間を考慮して、原則としてその固定資産税の年額を日割り計算して、乙の所有期間に対応する金額を固定資産税清算金として甲に支払うことになっている。この精算金の授受には、法的根拠はないと考えられており、売買当事者間の不動産売買の取引条件といった性質のものと考えられている。

2 売主側の固定資産税精算金の所得区分

 売主が収受する固定資産税精算金の所得区分については、譲渡所得に係る収入金額に加算すべきか、あるいは一時所得の収入金額とすべきかといった問題があるが、上記1の精算金の性質にかんがみ、実務上、譲渡所得に係る収入金額として取り扱うこととされている。

 なお、売主が収受する固定資産税精算金は譲渡所得に係る収入金額とすべきであるとした次に掲げる裁決事例があり、その要旨は以上の取扱いと同じである。

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【裁決事例要旨】平成14年8月29日裁決

 請求人は、土地の譲渡に際して買受人から収受した、売却後の期間に対応する未経過固定資産税相当額について、固定資産税等が期間コストの性質を有することを前提に、収受した金員は、実質的には立替金の精算であり、担税力を有するものではなく、このことは、未経過固定資産税相当額について不当利得返還請求権が発生することからも裏付けられるとして、譲渡所得の総収入金額に算入すべきでない旨主張する。

 しかしながら、固定資産税等は、賦課期日である毎年1月1日現在において、固定資産台帳に所有者として登録されている者に対して課されるものであり、賦課期日後に所有者の異動が生じたからといって、課税関係に変動をきたすものではないから、賦課期日後に当該資産の所有者となった者は、固定資産税等の納税義務を負担するものではなく、また、譲渡人は、譲受人に対して未経過固定資産税等の請求権を取得するものでもない。そうすると、未経過固定資産税等相当名目での金員の授受は当事者の契約によって初めて生じる債権債務関係に基づいてなされるものであり、その性質は売買条件の一つにほかならず立替金の精算とはいい得ない。

 また、当該資産の所有関係の変動が当事者間の契約に基づいて生ずる場合に、固定資産税等名目の金員の授受について、何らの取決めもなされないのであれば、当事者の意思解釈としては、そのような名目の金銭のやり取りはしない趣旨であることが通常であると思われるから、そのような場合に、当事者の合理的意思解釈に反して、不当利得返還請求権が発生する余地はない一方、固定資産税等名目の金員の授受を行うとの取決めがなされるのであれば、その授受は、まさに契約に基づいて行われるものであるから、固定資産税等名目で譲渡の際に授受された金員の性質が不当利得返還請求権の性質を有することもあり得ない。
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3 売主側の固定資産税精算金相当額の必要経費の処理

 売主が不動産の貸付けなどの業務を行っており、その不動産等に係る固定資産税を不動産所得等の必要経費に算入していた場合において、その後、その不動産の売買に際して固定資産税精算金を収受したときは、その金額相当額について必要経費算入額を減額すべきか否かが問題となる。

 この点については、上記1に記述したように、固定資産税の納税義務者は固定資産の所有者とされており、固定資産税の賦課期日はその年度の初日の属する年の1月1日とされているわけであり、不動産の貸付け等の業務を行っている場合には、その1月1日に発生した時点においてその業務上生じた納税義務が確定しているということができるし、また、その納税義務は、その不動産の所有者に異動が生じたとしても消滅ないし減額されるものではないということができる。

 したがって、固定資産税精算金を収受したとしても、不動産所得等の必要経費として算入すべき租税公課の額の修正は要しないものと考えられる。

4 買主側の固定資産税精算金の処理

 業務の用に供される資産に係る固定資産税や不動産取得税等の租税は、その資産の取得価額に算入すべきではないかといった問題がある。しかし、取得価額に算入することとした場合、その資産が減価償却資産であるときには償却期間に応じて費用配分することになるが、その資産が土地等であるときには費用配分することができないことになるという不都合が生じる。このため、所得税の取扱いでは、その業務に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入することとされている(所基通37-5)。

 以上の取扱いは、その業務を行っている者にそれらの租税の納税義務が課されている場合に適用されるものである。しかし、固定資産税精算金については、上記1において既述したように、売買当事者間の不動産売買の取引条件といった性質のものと考えられ、納税義務に基因するものではないため、必要経費に算入するのではなく、その資産の取得価額に算入すべきものと考えられる。

 売主側においては、譲渡所得に係る収入金額とすべきこととされており、また、必要経費の額の修正も要しないこととされているわけですから、これとの表裏関係の処理をすべきものと考えられる。

執筆者情報

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税理士 小田 満

 国税庁勤務22年の後、町田・横浜南・板橋の各税務署長を経て、平成19年税理士登録。
 主な著書は、「図表でわかる新税制による金融商品課税の要点解説」、「Q&A プロ選手・開業医・芸能人等の特殊事情に係る所得税実務」など多数。

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2021.09.24 17:15:25