HOME コラム一覧 未分割・期限後申告の場合の小規模宅地等の特例の適用

未分割・期限後申告の場合の小規模宅地等の特例の適用

post_visual

(1) 小規模宅地等の特例の「分割要件」

1. 申告期限後3年以内の分割見込書

 相続税の申告期限までに遺産分割協議が整わなかった場合には、未分割の状態で相続税申告書を提出することになり、相続財産を法定相続分で分割したものと仮定して各人の相続税を算出し納税することになります。
 その際に、「小規模宅地等の特例」や「配偶者に対する相続税額の軽減」といった分割要件のある特例措置については、この未分割の申告段階で適用することはできませんが、分割された後にこれら特例措置の適用を受けるためには、未分割段階の相続税申告書に、あらかじめ「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しておく必要があります。

2. 申告期限後

 相続税の申告期限から3年以内に分割された場合には、特例措置の適用を受けることができ、その分割が行われた日の翌日から4か月以内に「更正の請求」を行うことができます。
 なお、相続税の申告期限の翌日から3年を経過する日において一定のやむを得ない事情がある場合において、申告期限後3年を経過する日の翌日から2か月を経過する日までに、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出し、その申請につき所轄税務署長の承認を受けたときは、判決の確定の日など一定の日の翌日から4か月以内に分割されたときに、これらの特例措置の適用を受けることができます。
 ここでいう「やむを得ない事由」とは、例えば下記のような事由が想定され、こういった事由なく、ただ遺産分割協議を先送りしているといった事由は該当しません。
・遺産分割に関する調停・裁判が継続している。
・家庭裁判所の審判等により遺産分割が禁止されている。
・相続の承認もしくは放棄の期間が伸長されている。
・相続人の一部が行方不明者で、財産管理人が選任されていない。
・相続人の一部が精神又は身体の重度の障害によって治療中であり、遺産分割協議に加わることができない。
・相続人の一部が「海外の紛争地に勤務している」「遠洋漁業で働いている」といった事情があり、容易に連絡を取ることができない。

 この未分割の場合の制度設計を理解しておかなければ、小規模宅地等の特例(配偶者に対する相続税額の軽減)を適用できないという損害を納税者に与えることになってしまいますので、注意が必要です。

(2) 具体例 ―期限内申告書を提出していないケース―

 被相続人新潟淳史さんは令和元年829日に死亡しましたが、当初は、相続税の課税価格の合計額が基礎控除額に満たないと考えており、令和2629日に到来する申告期限までに遺産分割協議を行わず、期限内申告書の提出もしていませんでした。

 しかし、令和2年の年末になって相続人の把握していなかった被相続人の財産があることを知り、それによって、課税価格の合計額が基礎控除額を超えることが判明しました。

 被相続人は自宅を所有しており、新たな財産の判明を機に遺産分割協議を行った結果、同居していた配偶者の新潟敦子さんが相続しましたので、その宅地については小規模宅地等の特例を適用したいと考えています。

 しかし、その相続税申告事案を担当したスタッフは、下記のような疑問を抱えていました。

① 小規模宅地等の特例は期限後申告書でも適用できるのだろうか。

② 期限内申告をしていないので、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出していないが、期限後申告の段階では遺産分割が行われており、提出する意味はあるのだろうか。

1. 期限後申告でも適用できる

 申告期限までに分割されていない場合には、小規模宅地等の特例をいったん適用しない状態で「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して期限内申告書を提出して相対的に多めの相続税を負担し、その後、分割された場合に「更正の請求書」を提出することにより小規模宅地等の特例の適用を受けて、結果として過大となった税額の還付を受けるという時系列が通常です。
 しかし、小規模宅地等の特例は、期限内申告のみが要件ではなく、期限後申告及び修正申告においても適用可能ですので、「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して期限内申告書を提出していなかったとしても適用可能です。

2. 「申告期限後3年以内の分割見込書」の提出の要否

 小規模宅地等の特例は、相続税申告書に特例の適用を受けようとする旨を記載し、計算明細書その他の一定の書類の添付がある場合に限り適用できます。
 この書類について、租税特別措置法施行規則23条の2第8項6号は下記のように規定しており、これが「申告期限後3年以内の分割見込書」です。

 特例対象宅地等の全部又は一部が(略)分割されていない当該特例対象宅地等について当該申告期限後に当該特例対象宅地等の全部又は一部が分割されることにより同項の規定の適用を受けようとする場合 その旨並びに分割されていない事情及び分割の見込みの詳細を明らかにした書類

 期限後申告であっても小規模宅地等の特例は適用できるものの、たとえ、期限後申告の時点で遺産分割協議が整っていたとしても、法制度上は、期限後申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出することを要求していると解することができます。
 そうすると、本件のケースにおいても、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出する必要があると考えられますが、提出時点において分割されていますので、その様式には、例えば、下記のような記載で十分と考えられます。

①分割されていない理由
 被相続人の財産調査に時間を要し、令和2年12月頃にその全部が判明した。
②分割の見込みの詳細
 令和3年1月〇日に遺産の全部について遺産分割協議を行い、特定居住用宅地等に該当するA宅地については相続人新潟敦子が相続した。


 小規模宅地等の特例の適用要件は「期限内申告書を提出すること」ではなく、「原則として申告期限後3年以内に適用対象宅地等が分割された上で相続税の申告書を提出すること」です。

資料提供(書誌出典)

profile_photo

書名:相続専門税理士法人が実践する 相続税申告書 最終チェックの視点

発行日:2020年12月8日
発行元:株式会社 清文社
規格:B5判396頁
著者:税理士法人チェスター/公認会計士・税理士 大橋誠一(共著)

この記事のカテゴリ

この記事のシリーズ

税務解説集

記事の一覧を見る

関連リンク

高齢者の確定申告(確定申告不要制度)

税務・会計に関する情報を毎週無料でお届けしています!

メルマガ登録はこちら


コラム
/column/2021/img/thumbnail/img_04_s.jpg
 相続税の申告期限までに遺産分割協議が整わなかった場合には、未分割の状態で相続税申告書を提出することになり、相続財産を法定相続分で分割したものと仮定して各人の相続税を算出し納税することになります。 その際に、「小規模宅地等の特例」や「配偶者に対する相続税額の軽減」といった分割要件のある特例措置については、この未分割の申告段階で適用することはできませんが、分割された後にこれら特例措置の適用を受けるためには、未分割段階の相続税申告書に、あらかじめ「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しておく必要があります。
2021.07.28 15:46:36