税務行政とデジタル・トランスフォーメーション
黒田「リエさん、先日『税務行政のデジタル・トランスフォーメーション~税務行政の将来像2.0~』というものが公表されたのですが、ご存知ですか。」
リエ「いえ、まったく知りません。でも以前から電子申告システムやスマホを利用して、税務手続きなどをより便利なものにしようとする動きがあるって黒田さんも仰ってましたよね。」
黒田「先日公表されたのはその続きというようなものですね。身近なところで言えば、既に始まっているものとして、所得税申告や年末調整において生命保険料の控除証明書データの自動取込みがありますが、それに続いて地震保険料やふるさと納税情報、医療費支払額、国民年金保険料負担額などの自動取込み機能の開始予定時期が公表されています。」
リエ「納税者にとってはより便利になるんですね。」
黒田「はい、税務行政が掲げる基本的な指針として『利用者目線の徹底』というものがありますので、納税者の利便性を向上させていくための施策の一つです。ただ自動取込みの範囲を拡げることによって申告内容の正確性を向上させる、つまりはちょっとした誤りによる課税漏れを防ぐ、という目的もありそうではありますが。」
リエ「なるほど、そうかもしれませんね。確定申告が不要なサラリーマンを含めれば、何千万人という納税者の生命保険料控除額や社会保険料控除額が正しいかどうかを確認するなんて不可能ですもんね。」
黒田「そうですね、そういった申告内容の適正化を目的とした施策も予定されていて、税務署から金融機関への預貯金の照会なども今までは書面によって行われていたところ、令和3年10月からはオンライン化になる予定です。」
リエ「そうなんですか、でも世間では色々な面でそういったものがもっと進んでいると感じますから、遅いくらいなのかもしれませんね。」
黒田「確かに、税務調査でも現場の調査官は基本的に便せんに手書きで作業しますし、パソコンなどを持ってくる人はまずいませんからね。でもこれからは調査の現場にモバイル端末を持参して、税務当局にある様々なデータベースを活用しながら調査を行うことも想定しているみたいです。」
リエ「税務調査をあまり効率的にされるとちょっと怖い気もしますね。」
黒田「その気持ちは理解できますが、効率化の目的はより悪質な租税回避行為を是正することにありますから、そんなに心配されなくてもいいと思いますよ。最近は海外の預金や資産を利用した租税回避が多いようで、それは国際的な問題にもなっていることから、多くの国同士で情報の交換が行われています。そしてそれらの情報や国内での申告内容をはじめとした情報を、専用ツールを使って総合的に加工・分析することにも取り組むそうです。」
リエ「真面目に納税している人からしたら、脱税している人が摘発もされずに悠々と暮らしているのは不公平に感じるでしょうからね。」
黒田「元々富裕層に特化したプロジェクトチームもあって、そこでは富裕層と言われる方の関連会社や親族などの情報を集約して分析していたりもしますので、個人的な推測ではありますが、そういう業務にも活用していくのではと考えています。」
リエ「う~ん、たくさん稼ぐ人は私が一生かかっても払えないような税金を、たった1年で納めてくれたりしていますので、その貢献度の高さを考えるとあまり厳しくしないで欲しいなとも思いますが。」
黒田「それは同感ですが、私が今まで通常の税務調査でお会いした調査官の中に、きちんと納税するという意識がある方に対して居丈高に追い詰めたりするような調査官はいませんでしたから、あまり心配されなくてもいいと思いますよ。」
リエ「富裕層でもそうでなくても、納税意識をきちんと持っていれば必要以上に意識する必要はないということですね。今までも真面目にやってきたと思っていますがこれからも気をつけたいと思います。」