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eスポーツと法(2)

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本稿では,前回に引き続き,eスポーツ(「electronic sports」の略)について執筆させていただきます。

1 賞金と景品表示法との関係

 皆さんは,景品表示法(以下「景表法」といいます。)という法律をご存知でしょうか。
 この法律では,「商品及び役務の取引に関連する不当な景品類及び表示による顧客の誘引を防止」して「一般消費者による自主的かつ合理的な選択を訴外するおそれのある行為の制限及び禁止について定めることにより,一般消費者の利益を保護すること」を目的としています(景表法第1条)。
どのようなものが「不当な景品類」に該当するのかは,「不当景品類及び不当表示防止法第二条の規定により景品類及び表示を指定する件」という,公正取引委員会の告示にて指定されており,当然に金銭も含まれています。
 仮に,金銭が「景品類」であり,「懸賞金」として提供されていた場合,最高額は,懸賞に係る取引の価額の20倍の金額までと定められています。加えて,その取引価額を20倍にした金額が10万円を超える場合にあたっては,10万円までとも定められています。
 要約すると,「懸賞金」は,基本的に10万円までしか出せません,という規定になります。

2 eスポーツと賞金について

(1) eスポーツ大会と景表法

 eスポーツ大会の人気向上は,eスポーツの発展のため非常に重要な課題です。そして,人気向上には,大会の賞金も重要な要素となっていきます。
 しかし,eスポーツ大会での賞金が,「景品類」であり,「懸賞金」として提供されていると解した場合,eスポーツ大会での賞金最高額は,10万円ということになりそうです。
 決して安い金額ではないのですが,1億円以上の賞金を設定している海外のeスポーツ大会に比べると,少々見劣りします。

(2) 日本のeスポーツ大会の賞金

 ところが,いくつかの日本のeスポーツ大会においても,10万円を超える賞金を設定しています。例えば「モンストグランプリ2021 ジャパンチャンピオンシップ」においては,優勝チームに5000万円という賞金が設定されています。
 では,どのようにして景表法違反とならず,大会において高額賞金を出しているのでしょうか。以下,大きく2点に分けて解説いたします。

(3) 顧客誘引性

ア 賞金提供者の違い

 まず,賞金提供者の違いです。
 eスポーツ大会において,賞金提供者は主催者であることがほとんどです。では,例えば,賞金提供者たる主催者が,ゲーム制作者で,自社開発のゲームを宣伝するために,eスポーツ大会に10万円を超える賞金を設定することはどうでしょうか。この方法だと,消費者に,賞金目的でゲームを購入しようという動機が生じえます。言い換えれば,賞金を用いて顧客を誘引しているため,当該賞金が「景品類」に該当するといえそうです。
 では,主催者(賞金提供者)が,ゲーム制作者ではなく,全く別の第三者であればどうでしょうか。この場合,大会に参加するために,消費者がゲームを購入したとしても,消費者は大会主催者の「顧客」ではないため,賞金によって顧客を誘引したとはいえず,「景品類」に該当しないと考えられます。
 もっとも,ゲーム制作者ではないにしても,ゲーム制作に関わっている主催者であった場合には,慎重な判断が必要になりますのでご注意ください。

イ 競技者の違い

 次に競技者の違いです。
 eスポーツ大会の競技者(参加者)が消費者であった場合,消費者に,高額賞金を得るためにゲームを始め,練習し,大会に参加するという動機付けをすることになり,「景品類」として,顧客を誘引していると認定される可能性がございます。
 では,eスポーツ大会の競技者(参加者)が,プロゲーマーであればどうでしょうか。ゲームのプロなのですから,彼ら彼女らは,特定のゲームにて高度の技術を有しており,その技術を使って大会にて賞金を得ることとなります。つまり,プロゲーマーへ支払う賞金は,「仕事の報酬等と認められる金品の提供」ですから,顧客の誘引のために提供されている金品ではないため,「景品類の提供に当たらない」といえます。
 もちろん,プロゲーマーを参加者としつつ,専らゲームの販促活動のために賞金を提供するような場合は,「景品類」として,高額賞金の提供が禁止される可能性もございますのでご注意ください。

ウ 小括

 詳細な事情はわかりませんが,日本で高額賞金を提供している大会は,以上2点に注意して開催されているものと思われます。

3 最後に

 上記のような問題は,eスポーツ大会に限りません。大会で賞金を出すほとんどの場面で,賞金が「景品類」に該当するのか,という問題が内包されているといえます。
 賞金を出す大会を開催する場合は,一度弁護士に相談するとよいでしょう。

 次回は,eスポーツにおける「労働者性」に着目し,解説をさせていただきます。

参考文献
・eスポーツ問題研究会編著「eスポーツの法律問題Q&A―プレイヤー契約から大会運営・ビジネスまで―」民事法研究会 2019年
・令和元年9月12日「eスポーツに関する法的課題への取組み状況のご報告」
https://jesu.or.jp/contents/news/news_0912/
2021年5月31日最終閲覧
・MONSTE STRIKE GRANDPRIX 2021 JAPAN CHAMPIPONSHIP
https://esports.xflag.com/games/grandprix/2021/japanchampionship/
2021年5月31日最終閲覧

執筆者情報

弁護士 畑田 将大

弁護士法人ALAW&GOODLOOP

会計事務所向け法律顧問
会計事務所向けセミナー

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2021.06.11 14:07:22