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eスポーツと法(1)

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1 はじめに

 ひと昔前までは,ゲームは単なる娯楽に過ぎないと認識されていました。しかし,インターネットの普及により,ゲームを通して世界中の人とつながる時代が訪れ,もはやゲームは娯楽というだけではなく,重要なコミュニケーションツールとまで言えるものとなりました。
 そして今,ゲームは仲間内で楽しむだけではなく,いわば職業のような側面も持ち始め,eスポーツ(「electronic sports」の意)として,日本を含め,世界中で注目を集めています。
 そこで,eスポーツを現代日本法に照らすとどのような問題が存在するのか,今回は,「賭博罪」に着目し,解説させていただきます。

2 賭博罪との関係

⑴ 高額賞金の大会
 上述したように,ゲームは現代において,「職業のような側面」を持ち始めました。これはつまり,ゲームをすることが,お金を稼ぐ手段となり始めた,ということです。ゲームをすることによる収益方法はいくつかあるのですが,代表的なものは,プレイヤーが高額賞金の出る大会に参加し,賞金を得るという方法です。
⑵ 賭博罪の規定内容
 賭博罪については,刑法第185条に,「賭博をした者は,50万円以下の罰金又は科料に処する」と規定されています。
 そして,ここでいう「賭博」とは,偶然の勝敗により財物や財産上の利益の得喪を争う行為とされています。そして,仮に当事者の技量に差があったとしても,偶然的要素が存在する限り,賭博となりうるとされています(大判大正4年10月16日刑録21輯1632頁)。
⑶ 「賭博」該当性
ア 事例
 では,eスポーツプレイヤーが参加費を支出して大会で勝利し,当該参加費を原資とした賞金を得るといった場合はいかがでしょうか。上述した「偶然の勝敗により,財物や財産上の利益の得喪を争う」ことになるのでしょうか。
イ 検討
 ゲームの勝敗は,プレイヤーの技量に左右されることはもちろんなのですが,偶然的要素によって勝敗が決することも否定できません。
 そうすると,上述の定義及び判例に照らせば,eスポーツプレイヤーが参加費を支出し,当該参加費を原資とした賞金を得る行為は,偶然の勝敗により財物や財産上の利益の得喪を争う行為として,賭博罪に該当しえます。
⑷ 「賭博」であることを防ぐために
 しかし,実際には,高額賞金の発生するeスポーツ大会は,日本でも開催されております。当該大会は,賭博罪に該当するのでしょうか。
 上述したように,偶然の勝敗により財物や財産上の利益の得喪を争う行為は賭博罪に該当しますが,「利益の得喪」を争うものでなければ,「賭博」には該当しません。
 そこで,例えば,プレイヤーは一切参加費を支出しない又はプレイヤーが参加費を支出するとしても,会場代等の実費のみの支出であり,賞金の原資とは評価できないといった場合は,参加者同士や参加者と主催者との間で「利益の得喪」を争うものではないといえます。この場合,賞金の原資は,第三者(スポンサー等)から徴収することとなります。なお,仮に,プレイヤーから徴収した参加料が,実費を超過した場合,超過分はプレイヤーに還元するといった対応をすることが望ましいでしょう。
 全国の各大会の詳細な運営方法までは不明ですが,上述のような処置を採ることで,「賭博」該当性を回避する運用がなされていることと思われます。

3 おわりに

 いかがだったでしょうか。上述のように,「eスポーツは賭博罪に該当するのか」という問題は,eスポーツそのものの問題ではなく,賞金の原資をどうするのか,という問題と深く関係しています。
 これは,何もeスポーツに限られた問題ではありません。例えば,eスポーツではなく,ビリヤード,ダーツ,ボウリングといった大会を開催し,賞金を出す際には,同様の問題が生じることでしょう。そして,違法な大会を開催し,結果として刑事事件に発展するといったことも十分ありえます。1度刑事事件に発展してしまった場合,会社の世間に対する社会的信用は低下し,信用回復に大きなコストをかける事態にもなりかねません。
 ゲームの大会を開催する際は,1度弁護士に相談することをおすすめいたします。
 次回は,eスポーツにおける「賞金と景品表示法との関係」に着目し,解説をさせていただきます。

参考文献
・eスポーツ問題研究会編著「eスポーツの法律問題Q&A―プレイヤー契約から大会運営・ビジネスまで―」民事法研究会 2019年
・西田ほか編著「注釈刑法第2巻 各論⑴(77条から198条)」有斐閣 2016年
・JeSUホームページ「参加料徴収型ガイドライン」(https://jesu.or.jp/wp-content/themes/jesu/contents/pdf/terms/participationfee_guidelines.pdf)2021年4月1日最終閲覧

執筆者情報

弁護士 畑田 将大

弁護士法人ALAW&GOODLOOP

会計事務所向け法律顧問
会計事務所向けセミナー

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2021.06.04 16:11:07