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税額控除の対象となる試験研究費(その2 人件費)

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 試験研究費にかかる税額控除の対象とされる人件費には、研究員の給料、賃金、諸手当、賞与、厚生年金保険や健康保険といった社会保険料の会社負担部分である法定福利費や退職金も含まれる。退職金については実際に支給する金額ではなく研究開発に専ら従事していた期間に相当するものとして合理的に配分計算される部分の金額に限られることになる。

 試験研究のための費用のうち人件費については他の原材料費や経費とは異なり法令上(租令27の4③)、「専門的知識をもって試験研究の業務に専ら従事する者に係るものに限る。」と規定されている点に注意が必要である。

(1)「専ら従事」要件の意義

 上記の通りこの制度の対象となる試験研究費に含まれる「人件費」は、「専門的知識をもって試験研究の業務に専ら従事する者の人件費」に限られている。

 その専門的知識を有する者が、試験研究の業務に「専ら」従事しているかどうかについては、その試験研究の目的及び内容並びにこれに従事する者の執務形態等に基づいて、そのほとんどすべてが試験研究の業務に従事しているかを判断することになる。ここでは「専ら」とはどの程度かという疑義も生じるが、一般用語的には「ほとんどすべて」ぐらいの意味とすると実務的には100%に近い状態である必要があるものと思われる。

 したがって、専門的知識を有する者が、仮に、製造という業務と試験研究という業務とに半々に従事しているような場合には、通常、試験研究の業務に専ら従事しているとはいえないこととなる。

 過去の国税庁の回答事例では、以下の要件を満たす場合には、試験研究業務と他業務を兼務する者の人件費のうち試験研究業務に対応する部分の人件費は、試験研究費の額の対象にすることができるとの解釈が示された例がある(平成15年12月25日課法2-27・課審5-25)。

① 試験研究のために組織されたプロジェクトチームに参加する者が、研究プロジェクトの全期間にわたり研究プロジェクトの業務に従事するわけではないが、研究プロジェクト計画における設計、試作、開発、評価、分析、データ収集等の業務(フェーズ)のうち、その者が専門的知識をもって担当する業務(以下「担当業務」という)に、当該担当業務が行われる期間、専属的に従事する場合であること。

② 担当業務が試験研究のプロセスの中で欠かせないものであり、かつ、当該者の専門的知識が当該担当業務に不可欠であること。

③ その従事する実態が、おおむね研究プロジェクト計画に沿って行われるものであり、従事期間がトータルとして相当期間(おおむね1ヵ月(実働20日程度)以上)あること。この際、連続した期間従事する場合のみでなく、担当業務の特殊性等から、当該者の担当業務が期間内に間隔をおきながら行われる場合についても、当該担当業務が行われる時期において当該者が専属的に従事しているときは、該当するものとし、それらの期間をトータルするものとする。

④ 当該者の担当業務への従事条業が明確に区分され、当該担当業務に係る人件費が適正に計算されていること。

 以上の取扱い事例をみると、試験研究業務に専属の従業員を配置することが難しい中小法人であっても、上記要件を満たす場合には試験研究業務に要した人件費を税額控除の対象とすることが認められるものと思われる。

(2)研究所の管理スタッフ等の人件費

 措置法通達(法措通42の4(2)-3)では「ここでいう人件費は専門的知識をもってその試験研究の業務に専ら従事する者に対するものに限られる。したがって、研究所等に専属する者に対する人件費であっても、たとえば事務職員、守衛、運転手等のように試験研究に直接従事していない者に対する人件費は、これに含まない」旨を明らかにしている。

 この場合、「試験研究の業務に専ら従事」するといっても自らビーカーやフラスコを振ったり顕微鏡を覗いたりという狭い範囲に解することは適当とは思われない。したがって、研究所の所長や部長職にあるものであっても、専門的知識を有して、研究所全体の研究開発の統轄や進行管理、部下の研究員の指導・助言等を行っているようなケースにあっては、研究に専ら従事しているものと判断できる場合があると思われる。

(3)研究補助者の人件費

 研究補助者については「専門的知識をもってその試験研究の業務に専ら従事する者」に該当するかどうか疑義が生じる。その補助者の実際の業務が単なる庶務・会計的な事務を処理しているにすぎないような場合は別として、研究者の支持を受けて試験研究活動の一部を担っているような実態にある場合には「専門的知識を持って」試験研究の業務に従事していると判断してよいものと思われる。

(4)大学や研究機関に派遣、出向させている研究員の給与等

 自社の研究所に属する研究員について、大学や外部の研究所に派遣・出向させて研究に従事させるケースも考えられる。このようなケースであっても大学や研究所における研究内容がその会社における研究業務と同一の範疇に属し、その従事程度が「専ら従事」要件を満たすということであれば、会社が負担する給与、学資金、交通費等は、試験研究費に該当するといえる。

(5)ダムやトンネルの建設現場を研究場所とする研究員の給与等

 研究者の一部を長期工事となるダムや大規模トンネルなどの現場に派遣してデータの収集や分析業務などに当たらせるようにいわゆる研究所以外の場所での業務に当たらせるようなケースの場合についても、試験研究費に該当するといえるかどうかという疑問が寄せられるケースがある。

 このような場合、いわゆる工事原価と混同されて処理される恐れもあることから、1)建設工事時の施工原価とは明確に区分されること。2)現場におけるデータ収集や分析が必要であること及び3)当該研究員が「専門的知識を持った研究員」に該当することなどが客観的に説明可能であれば、試験研究費に該当するものとして処理可能と思われる。

執筆者情報

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税理士 小畑 孝雄

昭和41年東京国税局入局、国税庁法人税課、国税不服審判所勤務等を経て平成16年東京国税局法人課税課長、18年同調査第2部長を歴任し19年退官、税理士登録(日本橋支部所属)

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2020.11.27 17:12:14