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税額控除の対象となる試験研究費(その1概要)

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1 税務上の「試験研究」の範囲

 企業が行う研究開発の内容や分野は広範囲にわたるとともにそのための支出も多岐にわたる。租税特別措置法42条の4では、企業の支出する試験研究費用のうち一定の費用の金額を基として法人税額から控除する税額控除制度が設けられている。一方、企業会計では研究開発のために企業が支出する費用の会計処理について一定の基準を設けている。この両者には重なり合う部分と異なる部分が存在する。

 また、試験研究費自体、原材料費、労務費、減価償却費、その他の経費からなる複合費としての性格を有するため、税務上の試験研究費に係る税額控除額の算出に当たっては、企業会計上、研究開発費として計上された額は勿論、その他の経費や資産取得のための費用として処理されているものについてもこれを税法の定めるところの定義等に従って所用の加算減算処理が必要となる。

2 具体的相違点

(1) 試験研究の範囲と税務・会計の差異

 研究開発会計基準では、「研究開発費」という概念を基に1)研究とは、「新しい知識の発見を目的とした計画的な調査及び研究」と定義し、2)開発とは、「新しい製品・サービス・清算方法についての計画若しくは設計又は既存の製品等を著しく改良するための計画若しくは設計として、研究の成果その他の知識を具体化すること」と定義している(研究開発会計基準-1)。

 一方、税務上は「試験研究費」という概念を基に税額控除の対象となる試験研究について1)「製品の製造または技術の改良にかかる試験研究」と、2)「対価を得て提供する新たな役務の開発(以下「新サービス開発」と言う)に係る試験研究」の二つの類型に区分した上で、それぞれの試験研究のために要する一定の費用を税務控除の対象とする構成をとっている。この結果、税務と会計の間には主に次の様な差異が認められる。

イ 法人税法上の第1類型に属する「試験研究」については、工学的・自然科学的な研究が前提とされており、会計上は「開発研究」に含まれるとされている人文・社会科学系の研究費は含まれないことされている。

 従って、たとえば、1)事務能率・経営組織の改善に係る費用、2)販売技術・方法の改良や販路の開拓に係る費用、3)単なる製品のデザイン考案に係る費用、4)既存製品に対する特定の表示の許可申請のために行うデータ集積等の臨床実験費用、研究開発に係る費用などは、税額控除の対象となる税務上の「試験研究」範囲に含まれないこととされている。

(注) 上記の人文・社会科学系の研究費用であっても、例外的に税務上の試験研究の第2類型に属する「新サービス開発」に係る試験研究費に該当する場合がある。

ロ 企業会計上の研究開発費では既存の製品等の改良は著しいものに限定されているが、税務上は改良のための研究であれば、その程度が著しいほどでない場合も税額控除の対処となる試験研究に該当することとされている。

ハ 会計上の開発研究費は「基礎研究」及び「応用研究」段階において支出された費用をいうものとされているが、税務上の試験研究費については「基礎研究」、「応用研究」及び「開発(工業化)研究」のすべての段階における費用が含まれることとされている。

3 税務上の試験研究費の範囲に関する留意事項

(1)税額控除の対象となる試験研究費

 税務控除の対象とされる試験研究委の具体的範囲は、それぞれ次のとおりと規定されている(措令27の4②③)。

イ 製品の製造又は技術の改良、考案若しくは発明に係る試験研究のために要する一定の費用
 (イ) その試験研究を行うために要する原材料費、人件費(専門的知識をもって当該試験研究の業務に専ら従事する者に係るものに限る)及び経費
 (ロ) 他の者に委託をして試験研究を行う当該法人(人格のない社団等を含む。)の当該試験研究のために当該委託を受けた者に対して支払う費用
 (ハ) 技術研究組合法第9条第1項により賦課される費用

ロ 新サービス研究のために要する費用
 (イ) その試験研究を行うために要する原材料費、人件費(情報解析専門家でその試験研究の業務に専ら従事する者に係るものに限る)及び経費(外注費にあっては、これらの原材料費及び人件費に相当する部分並びにその試験研究を行うために要する経費に相当する部分並びにその試験研究を行うために要する経費に相当する部分(外注費に相当する部分を除く)に限る)
 (ロ) 他の者に委託をして試験研究を行うその法人のその試験研究のためにその委託を受けた者に対して支払う費用(イの原材料費、人件費及び経費に相当する部分に限る)

(2)試験研究のための個別費用に関する留意事項

① 損金算入に関する要件
 試験研究を行った場合の法人税額の特別控除の対象となる試験研究費は、「事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される試験研究費」とされている(措法42の4①)。したがって、研究用建物や研究用機械器具などについてはその取得に要した費用ではなく、その減価償却費相当額が試験研究費に該当することになる。人件費中の賞与引当金や退職給与引当金なども繰入れ時の費用ではなく、税務上の損金算入時点において税額控除の対象とされることになる。

② 試験研究のための人件費
    <その2 人件費にて解説>

③ 原材料費の意義
 原材料費は、試験研究のために消費された原料及び材料の費用である。具体的には、試験研究のための主要原材料費、補助材料費、部品費、消耗品費、消耗工具費、器具備品費、試作品費等である。これらの原材料費は、適正な原価計算に基づき把握されたものでなければならない。
 
④ 経費の意義
 経費は、前述の試験研究のための資産の償却費、賃借料、外注加工費、福利厚生費、水道光熱費、旅費交通費、図書費、印刷費などが挙げられる。この経費には直接費はもとより、間接費も含まれる。

⑤ 除却損または廃棄損
 試験研究用の固定資産の除却損または廃棄損、災害、研究項目の廃止等に伴って臨時的、偶発的に発生するものは試験研究費には含まれない。ただし、試験研究の継続過程において通常行われる取り換え更新によるものは試験研究費に含まれる。

税額控除の対象となる試験研究費(その2 人件費)へ続く

執筆者情報

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税理士 小畑 孝雄

昭和41年東京国税局入局、国税庁法人税課、国税不服審判所勤務等を経て平成16年東京国税局法人課税課長、18年同調査第2部長を歴任し19年退官、税理士登録(日本橋支部所属)

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 企業が行う研究開発の内容や分野は広範囲にわたるとともにそのための支出も多岐にわたる。租税特別措置法42条の4では、企業の支出する試験研究費用のうち一定の費用の金額を基として法人税額から控除する税額控除制度が設けられている。一方、企業会計では研究開発のために企業が支出する費用の会計処理について一定の基準を設けている。この両者には重なり合う部分と異なる部分が存在する。 また、試験研究費自体、原材料費、労務費、減価償却費、その他の経費からなる複合費としての性格を有するため、税務上の試験研究費に係る税額控除額の算出に当たっては、企業会計上、研究開発費として計上された額は勿論、その他の経費や資産取得のための費用として処理されているものについてもこれを税法の定めるところの定義等に従って所用の加算減算処理が必要となる。
2020.11.27 14:16:14