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配偶者居住権が消滅した場合の課税上の取扱い

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リエ「配偶者居住権等が消滅した場合の課税上の取扱いが明確化されたと聞きましたが、どのような内容となったか、教えてください。」

黒田「わかりました。配偶者居住権の概要については以前にも説明しましたが、配偶者居住権とは、相続開始時に被相続人所有の建物に居住していた配偶者が、遺産分割等に基づき、終身又は一定の期間、その建物を無償で使用収益することができる法定の権利です。通常、配偶者居住権を設定した場合、配偶者居住権の目的となっている建物は配偶者居住権と建物所有権に、その建物の敷地である土地等は配偶者敷地利用権と敷地所有権に区分され、配偶者は配偶者居住権と配偶者敷地利用権を取得し、建物所有権と敷地所有権は他の相続人が取得します。配偶者居住権の存続期間は、配偶者の死亡又は遺産分割協議等で定めた期間までとされ、原則として、その存続期間の満了により配偶者居住権は消滅します。存続期間の満了により配偶者居住権が消滅した場合、配偶者居住権の目的となっている建物又はその建物の敷地の用に供される土地等である居住建物等の所有者に対して、相続税や贈与税の課税は生じません。」

リエ「存続期間の満了によって配偶者居住権が消滅した場合には、税負担は生じないということですね。配偶者居住権は、その存続期間の満了以外に消滅することはあるんでしょうか。」

黒田「配偶者居住権の消滅事由は、その存続期間の満了のほか、建物の全部が滅失等により使用収益することができなくなった場合、用法違反に基づき建物の所有者が配偶者居住権の消滅請求をした場合、配偶者が配偶者居住権の放棄をした場合又は配偶者と建物所有者の間で合意解除をした場合があります。まず、建物の全部が滅失等により使用収益することができなくなった場合には、居住建物等の所有者に対して、贈与税の課税は生じません。」

リエ「確かに、災害等により建物が全壊してしまったことで消滅した配偶者居住権に対して税負担が生じるのは納税者の納得も得難いですよね。そのほかの消滅についてはどうなるのでしょうか。」

黒田「居住建物の所有者による配偶者居住権の消滅請求、配偶者による配偶者居住権の放棄又は合意解除により、配偶者居住権がその存続期間の満了前に消滅した場合には、税負担が生じます。配偶者居住権及び配偶者敷地利用権の消滅により、居住建物等の所有者から配偶者に対価の支払がない場合又は支払われる対価の額が著しく低い場合には、配偶者から居住建物等の所有者に対して、配偶者居住権の価額又は配偶者敷地利用権の価額に相当する利益の額の贈与があったものとして、贈与税が課税されます。このような取扱いは、居住建物等の所有者が配偶者居住権の存続期間の満了を待たずに、配偶者から無償で居住建物等の使用収益する権利を得たとみるためです。」

リエ「なるほど。それでは、居住建物等の所有者から配偶者に対価の支払がある場合にはどうなるのでしょうか。」

黒田「配偶者居住権及び配偶者敷地利用権の消滅により、居住建物等の所有者から配偶者に相当の対価の支払がある場合、配偶者に対して、総合課税の対象となる譲渡所得として課税されます。譲渡所得は、譲渡対価の額から取得費等を控除して算定しますが、この場合の取得費は、被相続人に係る居住建物等の取得費を基礎として、その取得費に配偶者居住権等割合を乗じて計算した金額から、配偶者居住権の設定の日から消滅の日までの期間に係る減額の額を控除した金額とされます。なお、建物の取得費については、被相続人の建物の取得の日から配偶者居住権の設定の日までの減価の額を控除した額をいい、また、配偶者居住権等割合とは、配偶者居住権の設定時における居住建物等の価額に相当する金額のうち、配偶者居住権又は配偶者敷地利用権の価額の割合をいいます。」

リエ「対価を得て配偶者居住権及び配偶者敷地利用権を消滅させた場合には、譲渡所得として課税され、その譲渡所得は総合課税の対象となるんですね。」

黒田「はい。以上のことから、配偶者居住権の設定にあたっては、配偶者居住権の消滅による課税関係を留意の上、設定する必要があります。」

リエ「わかりました。ありがとうございました。」

監修

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税理士 坂部達夫

坂部達夫税理士事務所/(株)アサヒ・ビジネスセンター

 東京都墨田区にて平成元年に開業して以来、税務コンサルを中心に問題解決型の税理士事務所であることを心がけて参りました。
 おかげさまで弊所は30周年を迎えることができました。今後もお客様とのご縁を大切にし、人に寄り添う税務に取り組んでいきます。

メールマガジンやセミナー開催を通じて、様々な情報を発信しています。

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リエ「配偶者居住権等が消滅した場合の課税上の取扱いが明確化されたと聞きましたが、どのような内容となったか、教えてください。」黒田「わかりました。配偶者居住権の概要については以前にも説明しましたが、配偶者居住権とは、相続開始時に被相続人所有の建物に居住していた配偶者が、遺産分割等に基づき、終身又は一定の期間、その建物を無償で使用収益することができる法定の権利です。通常、配偶者居住権を設定した場合、配偶者居住権の目的となっている建物は配偶者居住権と建物所有権に、その建物の敷地である土地等は配偶者敷地利用権と敷地所有権に区分され、配偶者は配偶者居住権と配偶者敷地利用権を取得し、建物所有権と敷地所有権は他の相続人が取得します。配偶者居住権の存続期間は、配偶者の死亡又は遺産分割協議等で定めた期間までとされ、原則として、その存続期間の満了により配偶者居住権は消滅します。存続期間の満了により配偶者居住権が消滅した場合、配偶者居住権の目的となっている建物又はその建物の敷地の用に供される土地等である居住建物等の所有者に対して、相続税や贈与税の課税は生じません。」リエ「存続期間の満了によって配偶者居住権が消滅した場合には、税負担は生じないということですね。配偶者居住権は、その存続期間の満了以外に消滅することはあるんでしょうか。」黒田「配偶者居住権の消滅事由は、その存続期間の満了のほか、建物の全部が滅失等により使用収益することができなくなった場合、用法違反に基づき建物の所有者が配偶者居住権の消滅請求をした場合、配偶者が配偶者居住権の放棄をした場合又は配偶者と建物所有者の間で合意解除をした場合があります。まず、建物の全部が滅失等により使用収益することができなくなった場合には、居住建物等の所有者に対して、贈与税の課税は生じません。」リエ「確かに、災害等により建物が全壊してしまったことで消滅した配偶者居住権に対して税負担が生じるのは納税者の納得も得難いですよね。そのほかの消滅についてはどうなるのでしょうか。」黒田「居住建物の所有者による配偶者居住権の消滅請求、配偶者による配偶者居住権の放棄又は合意解除により、配偶者居住権がその存続期間の満了前に消滅した場合には、税負担が生じます。配偶者居住権及び配偶者敷地利用権の消滅により、居住建物等の所有者から配偶者に対価の支払がない場合又は支払われる対価の額が著しく低い場合には、配偶者から居住建物等の所有者に対して、配偶者居住権の価額又は配偶者敷地利用権の価額に相当する利益の額の贈与があったものとして、贈与税が課税されます。このような取扱いは、居住建物等の所有者が配偶者居住権の存続期間の満了を待たずに、配偶者から無償で居住建物等の使用収益する権利を得たとみるためです。」リエ「なるほど。それでは、居住建物等の所有者から配偶者に対価の支払がある場合にはどうなるのでしょうか。」黒田「配偶者居住権及び配偶者敷地利用権の消滅により、居住建物等の所有者から配偶者に相当の対価の支払がある場合、配偶者に対して、総合課税の対象となる譲渡所得として課税されます。譲渡所得は、譲渡対価の額から取得費等を控除して算定しますが、この場合の取得費は、被相続人に係る居住建物等の取得費を基礎として、その取得費に配偶者居住権等割合を乗じて計算した金額から、配偶者居住権の設定の日から消滅の日までの期間に係る減額の額を控除した金額とされます。なお、建物の取得費については、被相続人の建物の取得の日から配偶者居住権の設定の日までの減価の額を控除した額をいい、また、配偶者居住権等割合とは、配偶者居住権の設定時における居住建物等の価額に相当する金額のうち、配偶者居住権又は配偶者敷地利用権の価額の割合をいいます。」リエ「対価を得て配偶者居住権及び配偶者敷地利用権を消滅させた場合には、譲渡所得として課税され、その譲渡所得は総合課税の対象となるんですね。」黒田「はい。以上のことから、配偶者居住権の設定にあたっては、配偶者居住権の消滅による課税関係を留意の上、設定する必要があります。」リエ「わかりました。ありがとうございました。」
2020.11.20 16:28:41