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なぜ彼らは実行するのか ホワイトカラー犯罪者の胸中(その4 全4回)

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(その3の続き)

傲慢と謙遜 (Hubris and humility)

 ソルテスによれば、彼の学生の多くは自分たちがエンロン、ワールドコム、タイコの経営陣が犯した不味い意思決定や不正に屈するのであろうかと自問するという。
 「しかし、それは自己への正しい質問ではない」とソルテスは言う。「そうではなく、あなた方は、規範やインセンティブといった周りの状況やある特別な方法で行動することを奨励する文化の中で (自分は) 成長していることを考える必要がある」
 「多分より良い質問は、なぜ自分は彼らが特殊な環境で取ったような行動をしないのか? というものである」。現代犯罪学の父、エドウィン・サザランド (Edwin Sutherland) は、彼の分化的接触理論 (differential association) でこの点に触れている。この理論では、我々は不正に従事する自分の周囲の人々と共に過ごす時間から、ホワイトカラー犯罪に従事するような態度や価値観を学ぶという。
 「もし我々が、純粋に彼らの立場に自分自身を置くことによって、なぜという問いに答えようとするなら、私はより偉大な道徳的謙遜に行き着くと考える。我々は、巧妙に不正を動機づける文化的環境についてもっと深く考えなければならない」とソルテスは言う。
 「これは私が個人的にこのプロジェクトから得た教訓である」とソルテスは言う。「全ての難しい状況にいかに自分が応えられるかについて私は非常に自信を失くした。私は他の皆と同じように限界があると認識しており、今はより謙虚になったと考えている。そして、私はこれらを入念に注視する必要がある。道徳的謙遜は手に入れるのは非常に簡単であるが実際に手に入れているかを認識するのは容易でない特質だ」
 彼は、我々は一流の不正実行犯の状況に置かれた場合、幸運なことに、必ずしも彼らと同じようには行動しないだろうという。「しかしながら、我々は皆、わずかながらでも、これらの元経営陣と同じような倫理的過ちを犯しやすい」
 ソルテスは次のように書いている。「もし我々が道を外れる選択に必ずしも気づかないかもしれないと謙虚に認識するなら、我々はこれらの意思決定に気づき、統制する方法を開発するかもしれない。しかし、それは、我々の過ちを犯す能力は、変化・改善のために必要なステップを取ろうと考えることを凌駕していると認識する時に限るのである」

補足記事 (Sidebar):バーナード・マドフは、他の犯罪者とは違い、彼が騙した人たちを個人的に知っていた (Bernard Madoff, unlike others, personally knew those he defrauded)

 悪名高いポンジー・スキーム (訳注:ネズミ講に似た実態をとる詐欺の一種) の実行犯であるバーナード・マドフは「究極の詭弁家である」と、ハーバード ビジネス スクールの Jakurski Family 準教授であり、”Why They Do it: Inside the Mind of theWhite-Collar Criminal”の著者であるユージン・ソルテスは言う。
 ソルテスは自著の表題である質問の答えを求めて、数年にわたりマドフにインタビューし、今も継続している。
 「私がこの本を書くのに共に時間を費やしたどんなホワイトカラー経営者の犯罪者ともマドフは実際異なっています」とソルテスは最近の FRAUD マガジンとのインタビューで言っている。「他の経営者達と違い、彼は犠牲者の多くを知っていました。彼らはユダヤ人社会のメンバーでした。家族や友達。長年の知り合いであった著名な慈善団体でした」とソルテスは言う。
 「多くの場合、それは私の著書の基本的なテーマの一つですが、高い地位にいる経営陣や管理職の不正の場合のほとんどにおいて、ホワイトカラー犯罪者は、対岸にいる犠牲者を実際に見ないので害を及ぼしていると現実に感じることなく容易に犯行を進められるのです。マドフに関してそれは当てはまりません」とソルテスは言う。彼は被害者に対して与えた被害を一度も評価していないようである、と彼は言う。
 「彼が与えた損害に関して彼に何が示されようと、彼はいつもそれを最小限にする方法を知っていました」とソルテスは言う。「より小規模な、つまりあまり金持ちではないという自身の理由により一掃された投資家を、全ての卵を一つの籠にいれてしまうくらいの愚か者なので、彼に全ての金をくれたのだと考えていました。または、彼は、彼らは富裕だという最低限基準に達しておらず、そもそも彼らに金を出すことを許したのはファンドの失敗であり、彼の失敗ではないとも言います」
 「彼が騙した慈善団体については、彼はそれらのファンドは以前に実現した虚偽の収益があり資金は豊富に持っていたと分かっています。だから、彼らが彼にいくらかを提供したようなものであり、彼はそれを育て、それから持ち去ったのであり、結局、損害はない。彼らは儲かりも損もしなかった。彼はとても特別な方法で世界を見ることができるので、気楽でいることができました」とソルテスは言う。
 「マドフは精神障害のある人間や悪意のある人間ではない」とソルテスは言う。「外見上は、彼は好意的で、とても暖かい。あなたが彼と会話すれば全ての面で彼は普通です。そして、それは、彼が普通ではない不正を犯すのにとても有効でした」
 ソルテスがマドフと会話をした何年かの間も、マドフは、彼が刑務所で死ぬことになることを知りつつも、一度も感情的になったり、落ち込んだりはしなかったという。
 「多くの人にとって、これは精神的に受け入れることがとても困難なことだと私は思います。しかし、彼は平然としており、それは彼の区画化の顕著な能力であることを示しています」とソルテスは言う。

(初出:ACFE JAPAN 会報誌「FRAUD マガジン」 58 号, 2017/10,https://www.acfe.jp/books/fraud-magazine/ )

この記事の執筆者

Dick Carozza, CFE,翻訳協力:阿部 稔, CFE, CIA
FRAUD マガジンの編集長である。

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