民法改正の復習(改正民法の適用を中心に)
令和2年4月1日から、改正民法が施行されました。
いろいろなメディアで広報されてきましたので、皆さんもご存知かと思いますが、今回は、そのうちの時効を中心に記載したいと思います。
○いつから適用か。
当たり前ですが、改正民法は、令和2年4月1日から適用されています。
ということで、令和2年4月1日以降に締結された契約については、改正民法が適用されます。
裏を返せば、令和2年3月31日より前に締結された契約は、改正前の民法が適用されます(民法附則34条1項)。
債務不履行については、契約締結日を基準にすることとされており、令和2年3月31日以前に締結された契約については、令和2年4月1日以降に債務不履行が成立したとしても、改正前民法が適用されます(附則17条1項)。
このため、改正民法が適用される契約は、これを執筆している令和2年9月時点では、まだ多くない、ということになります。
ただし、遅延損害金の法定利率は、契約日を基準にはせず、債務不履行(履行遅滞)となった時点が基準となります。つまり、令和2年3月31日より前に契約を締結していても、債務不履行が4月1日以降なら、法定利率は改正民法が適用された年3%となります(附則17条3項)。
不法行為は、不法行為時、ただちに履行遅滞に陥ると考えられていますので、不法行為時が令和2年4月1日以降かどうかで、遅延損害金が変わることになります(4月1日より前なら5%、4月1日以降なら3%です。)。
○令和2年4月1日以降の更新の場合
では、令和2年4月1日より前に締結した契約が、4月1日以降に更新された場合はどうでしょうか。
この場合には、改正民法が適用されると考えられています。
明確な条文があるわけではないのですが、法務省の見解で、「当事者が、新民法が適用を予測しているため」という理由で、新民法が適用されるという考え方が示されています。判例や条文ではありませんが、極めて有力な考え方であるといえます。
○基本契約と個別契約について
さらに考えを深めて、基本契約と個別契約の関係はどうなるでしょうか。
基本契約が令和2年4月1日より前に締結されていたとしても、個別契約は4月1日以降に締結される、という事例は世の中にたくさんあるでしょうから、重要な論点です。
これについては、残念ながら明瞭な回答を示すことが困難です。
結論が出ないことから、個別契約に改正民法が適用されるかどうかで、微妙な違いなどが生じる可能性は否定できません。
ただ、だからといって何もしないということは得策ではありません。
今はまだ適用される契約は少ないですが、今後、徐々に改正民法が適用される範囲は広がっていきます。このため、いずれは改正民法がスタンダードになっていくのです。
そうであれば、問題が起こっていないうちだからこそ、新民法が適用される、という契約書を締結し直したり、お互いにどのような適用とするかを合意しておくことが、社会の動きに適応できるという意味で、一番良いと考えます。契約書を締結しなおしたりすることで、微妙な考え方に基づく紛争を事前に回避することができます。
契約書の見直しや合意書の作成などが必要かどうかを検討されたい場合には、当法人へご相談ください。
○消滅時効
改正民法では、時効が単純化されました。
改正民法では、①権利が行使できることを知ったときから5年、②権利を行使できるときから10年のいずれか早い方の時効が成立することになります。
これは、先に述べたとおり、債務不履行時が令和2年4月1日より後の場合にのみ適用され、債務不履行時が4月1日より前であれば、旧民法が適用されます。
不法行為は特殊で、原則として改正前と同じ3年で消滅時効が成立します(民法724条1号。不法行為時から20年というのも、旧民法と期間的には同じです。)。
ただし、人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効については、5年に延長されています(民法724条の2)。
この適用がさらに特殊で、令和2年4月1日時点で3年の時効が完成していない場合、5年に延長されることになります(附則35条2項)。つまり、平成29年(2017年)4月1日以降の、生命身体に対する不法行為の被害者は、原則として時効期間が5年になる、ということです。
○まとめ
以上のように、改正民法では、法の適用だけとっても、多様な変更が加えられました。
今まで「当たり前」と思っていたことが、思いがけず「当たり前」でなくなる、ということもあるかもしれません。
それが大きな問題にならなければ良いですが、大きな問題にならない保証はありませんので、改正民法に対する対応にまだ手を付けられてないようなら、当法人にご相談いただければと思います。