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就業規則とは?

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 弁護士の関です。今回は就業規則に関してお話しいたします。
 労働基準法89条は、常時10人以上の労働者を使用する使用者に対し、いわゆる絶対的必要記載事項を盛り込んだ就業規則の作成・周知義務を課しています。それでは、そもそも法が上記作成等義務を課した趣旨は何でしょうか。
 それは、労働条件等を明確化し使用者による恣意的な運用を防ぐことにあります(水町勇一郎「労働法 第5版」)。すなわち、使用者は作成した就業規則に原則として拘束されるのです。
 さらに、上記より導かれる法的効果として「就業規則の最低基準効」があります。就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効となり、当該無効部分には、就業規則で定める基準が適用されることになります(労働契約法12条本文)。
 さらに、上記効果と就業規則の契約内容規律効(労働契約法7条本文-労働契約の内容は就業規則で定める労働条件による ※勿論、規則自体の周知要件や合理性要件を満たす必要があります)を組み合わせた結果、労働者にとって、労使の合意が、就業規則よりも有利な場合は当該合意が有効となる一方、不利な場合は最低基準効に違反して無効となります。
 ここまで法律の条文を説明してきましたが、結局のところこれらの結果、法的にどういったことが起き得るのでしょうか。
 それは端的に言えば、従業員に対して就業規則で定めた労働条件を下回る条件の労働契約を締結したとしても、就業規則通りの上限が適用される可能性が存在することを意味します。文献においても、「一部の労働者を就業規則の適用から除外しながら、それら労働者の別規定を作成していない場合には、作成義務の違反が成立する。逆にいえば、就業規則は、臨時社員、パート社員、嘱託社員などについても、特則や除外規定が設けられていないかぎり適用がある」とされています(菅野和夫「労働法 第十一版)189頁」。
 例えば、時折、パート従業員用の就業規則の作成を懈怠したまま、同従業員にはすでに存在している(おそらく正社員の方用の)就業規則で定められている条件以下の労働条件を採用している会社がみられます。このような会社の経営者の方は、(正社員用の)就業規則を作成されただけで満足されている場合が多いようです。しかしながら、これまで述べてきたように、当該ケースでは、パート従業員に対する特則や除外する規定が存在しない限り、正社員用の就業規則がパート従業員にも適用され、賃金、各種休暇等につき正社員と同等の権利が保障されることとなります。
 なお、就業規則の最低基準効も契約内容規律効も強行法規であることは言うまでもありません(通説)。従業員との個別合意を締結していたとしても、それだけをもって免れることはできません。
 法人である以上、十分な合理性を有した就業規則を作成すべきことは当然のことです。しかしながら、就業規則は一度作成すればそれで終わりではありません。労働実態に合わせて随時改訂を検討していかなければなりません。他方、労働者の方であれば、自らに適用される就業規則の内容を十分に把握しておくべきですし、不明な点等があればいつでも使用者に対し質問すべきです。
 先生方が関係されている会社で就業規則に関するお悩み等がある場合には、是非ともお近くの専門家にご相談されることをお薦めいたします。

執筆者情報

弁護士 関 五行

弁護士法人ALAW&GOODLOOP

会計事務所向け法律顧問
会計事務所向けセミナー

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 弁護士の関です。今回は就業規則に関してお話しいたします。 労働基準法89条は、常時10人以上の労働者を使用する使用者に対し、いわゆる絶対的必要記載事項を盛り込んだ就業規則の作成・周知義務を課しています。それでは、そもそも法が上記作成等義務を課した趣旨は何でしょうか。 それは、労働条件等を明確化し使用者による恣意的な運用を防ぐことにあります(水町勇一郎「労働法 第5版」)。すなわち、使用者は作成した就業規則に原則として拘束されるのです。 さらに、上記より導かれる法的効果として「就業規則の最低基準効」があります。就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効となり、当該無効部分には、就業規則で定める基準が適用されることになります(労働契約法12条本文)。 さらに、上記効果と就業規則の契約内容規律効(労働契約法7条本文-労働契約の内容は就業規則で定める労働条件による ※勿論、規則自体の周知要件や合理性要件を満たす必要があります)を組み合わせた結果、労働者にとって、労使の合意が、就業規則よりも有利な場合は当該合意が有効となる一方、不利な場合は最低基準効に違反して無効となります。 ここまで法律の条文を説明してきましたが、結局のところこれらの結果、法的にどういったことが起き得るのでしょうか。 それは端的に言えば、従業員に対して就業規則で定めた労働条件を下回る条件の労働契約を締結したとしても、就業規則通りの上限が適用される可能性が存在することを意味します。文献においても、「一部の労働者を就業規則の適用から除外しながら、それら労働者の別規定を作成していない場合には、作成義務の違反が成立する。逆にいえば、就業規則は、臨時社員、パート社員、嘱託社員などについても、特則や除外規定が設けられていないかぎり適用がある」とされています(菅野和夫「労働法 第十一版)189頁」。 例えば、時折、パート従業員用の就業規則の作成を懈怠したまま、同従業員にはすでに存在している(おそらく正社員の方用の)就業規則で定められている条件以下の労働条件を採用している会社がみられます。このような会社の経営者の方は、(正社員用の)就業規則を作成されただけで満足されている場合が多いようです。しかしながら、これまで述べてきたように、当該ケースでは、パート従業員に対する特則や除外する規定が存在しない限り、正社員用の就業規則がパート従業員にも適用され、賃金、各種休暇等につき正社員と同等の権利が保障されることとなります。 なお、就業規則の最低基準効も契約内容規律効も強行法規であることは言うまでもありません(通説)。従業員との個別合意を締結していたとしても、それだけをもって免れることはできません。 法人である以上、十分な合理性を有した就業規則を作成すべきことは当然のことです。しかしながら、就業規則は一度作成すればそれで終わりではありません。労働実態に合わせて随時改訂を検討していかなければなりません。他方、労働者の方であれば、自らに適用される就業規則の内容を十分に把握しておくべきですし、不明な点等があればいつでも使用者に対し質問すべきです。 先生方が関係されている会社で就業規則に関するお悩み等がある場合には、是非ともお近くの専門家にご相談されることをお薦めいたします。
2020.08.06 16:28:10