債務者が亡くなり遺言がある場合の請求相手は?
今回は,債務者が死亡して遺言がある場合,債権者は誰から債権回収を図ることができるかを検討してみたいと思います。
たとえば,Aさんが,Bさんに対して200万円の債権を持っていたところ,Bさんが亡くなったというケースを考えてみましょう。相続人はBさんの子どもCさんとDさんの二人です。
Bさんは,生前,遺言を作っていて「すべての財産・負債をCに相続させる」と指定していました(ここでは,遺留分は無視します。)。そうすると,Aさんとしては,その遺言にしたがい,Cさんに200万円全額を請求するほかないのでしょうか。
実は,法律では,次のようになっています。
金銭債務は,相続によって当然に各相続人に法定相続分に応じて分割されます(最判昭34・6・19民集13巻6号757頁)。したがって,債権者としては,あくまで法定相続分にしたがって各相続人に請求するのが原則となります。
もっとも,被相続人が遺言のなかで,債務を特定の相続人に相続させると指定していた場合は,内部的効力と,対外的効力の二つに分けて整理することになります。
どういうことかというと,まず,相続人間においては,遺言で指定された相続人が相続債務をすべて承継することになります(内部的効力)。一方,遺言の存在や中身は債権者にとって通常知りえないことです。そうにもかかわらず,遺言による相続分の指定の効力が債権者にまで及ぶとするのは妥当ではありません。そこで,各相続人は,債権者から法定相続分に従った相続債務の履行を求められたときには,これに応じなければならず,指定相続分を対抗することはできないとされています(最判平21・3・24民集63巻3号427頁)(対外的効力)。
他方で,債権者の方から相続分の指定の効力を承認し,遺言にしたがって債務の履行を請求することは妨げられません(前掲平成21年最判)。
したがって,先の例に戻ると,Aさんは遺言にかかわらず,Cさん・Dさんそれぞれに100万円ずつ請求できます。この場合,DさんがCさんに対し,100万円を事後的に請求することで相続人内部の調整がなされます。