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令和元年会社法改正・取締役等に関する規律の見直し

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 令和元年の会社法改正により、取締役等に関する規律の見直しが行われました。今回は、このうち、社外取締役に対する業務執行の委託(会社法348条の2)を取り上げたいと思います。
 社外取締役とは、株式会社の業務を執行せず、かつ、当該株式会社ならびにその親会社、子会社および経営陣などとの間に一定の利害関係を有しない取締役をいいます(田中亘「会社法」216頁、会社法2条第15号)。社外取締役には、業務執行者から独立した立場で、業務執行全般を評価し、これに基づき取締役会における業務執行者の選定又は解職の決定に関して議決権を行使すること等を通じて、業務執行者に対する監督を実効的に行うことが期待されています(坂本三郎編「一問一答 平成26年改正会社法[第二版]」18頁)。
 そのため、取締役が当該株式会社の業務を執行した場合には、社外取締役の要件を欠くと規定されています(会社法2条第15号イ)。
 そうすると、MBOのように、株式会社と業務執行取締役との間に利益相反関係が認められる場合において、社外取締役が、業務執行取締役との間で交渉等の対外的行為を伴う活動を行うとすれば、当該株式会社の業務を執行したとして社外取締役に該当しないことになると思われます。
 もっとも、社外取締役には、業務執行の監督に関する機能として、業務執行全般の監督機能のほか、利益相反の監督機能(①株式会社と業務執行者との間の利益相反を監督する機能および②株式会社と業務執行者以外の利害関係者との間の利益相反を監督する機能)が期待されています(前掲坂本19頁の注1)。
 それゆえ、先ほどのMBOの場合のような利益相反状況において、取引の公正さを担保することは社外取締役に期待されているといえますが、前述の通り社外取締役が当該株式会社の業務を執行した場合は社外性を欠くことになるため、社外取締役がその行為をすることが妨げられてしまうことが問題視されていました。
 そこで、改正法においては新たに、株式会社(指名委員会等設置会社を除く。)が社外取締役を置いている場合において、当該株式会社と取締役との利益が相反する状況にあるとき、その他取締役が当該株式会社の業務を執行することにより株主の利益を損なうおそれがあるときは、当該株式会社は、その都度、取締役の決定(取締役会設置会社にあっては、取締役会の決議)によって、当該株式会社の業務を執行することを社外取締役に委託することができる、と規定しました(改正法348条の2第1項)。
 そして、この場合に委託された業務の執行は、会社法2条15号イに規定する業務の執行に該当しない (改正法348条の2第3項)とすることにより、業務執行を社外取締役に委託することが可能となりました。
 これにより、先ほどのMBOの他、キャッシュアウト等における社外取締役の関与が期待されています。

執筆者情報

弁護士 日高 太一

弁護士法人ALAW&GOODLOOP

会計事務所向け法律顧問
会計事務所向けセミナー

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2020.05.13 16:33:42