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株式会社の解散と税務処理

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<本稿で解説する税務処理の概要及び具体例>

 株式会社は解散により清算手続きが開始し、清算手続きの終了により法人格が消滅することになります。本稿では株式会社の解散・清算に伴う税務処理についてそのあらましを説明します。

・設例として取り上げる清算会社の概要

① 清算会社…A社
② A社の資本金…資本金1億円。
③ A社の株主の状況…甲社75%、乙社25%
④ A社の財産及び債務の状況…5億円を超える大幅な債務超過。業況の好転は望めずこのまま事業継続してもさらに赤字が累積するだけであることから解散を決断。
⑤ A社の個別債務の状況…A社は甲社に総額2億円の債務を有しているが返済不能なため、今回の清算手続き中に当該債務の全額について債務免除を受ける予定。
⑥ A社の決算期…3月
⑦ 解散・清算のスケジュール
   解散決議 令和2年8月31日
   清算終了 令和3年12月31日

<回 答>

1 法人の解散から清算に至るまでの税務処理

 法人が解散した場合の税務申告は、(1)期首から解散決議の日までの期間を事業年度(設例の場合は令和2年4月1日~令和2年8月31日の間の5ヵ月間)とする「解散事業年度の確定申告書」を解散日以後2ヵ月以内に提出するとともに、(2)その後の期間については、解散の日の翌日から始まる1年ごとの期間(質問の場合は令和2年9月1日~令和3年8月31日の1年間)を各事業年度とする「清算事業年度の確定申告書」を事業年度終了後2ヵ月以内に提出することとされています。

 又(3)清算が終了し残余財産が確定した場合には、当該清算中事業年度の開始の日から残余財産確定の日までを事業年度(質問の場合は、令和3年9月1日~令和3年12月31日の4ヵ月間)とする「残余財産確定事業年度の確定申告書」を残余財産の確定の日から1ヵ月以内に提出されることとされています。この(3)の申告により会社の解散に伴う申告手続きが終了することとされています。

(注)みなし事業年度…法人が事業年度の途中で解散した場合には、定款に定める事業年度と異なる事業年度、すなわち以下のみなし事業年度が適用されます。
① 会社が事業年度の中途において解散した場合には、その事業年度開始の日から解散の日までを1事業年度とみなし、その後は解散の日の翌日から始まる1年間ごとの期間(清算事業年度)を清算中の各事業年度とする(法法13①、14①一)。
② 清算中の会社の残余財産が事業年度の中途において確定した場合には、その事業年度開始の日から残余財産確定の日までが1事業年度となる(法法14①二十一)。

2 解散から清算確定に至る各事業年度の申告に係る主な留意事項

(1)所得計算の原則

 解散から清算確定(残余財産確定)に至るまでの間においては、上記のとおり(1)解散事業年度の確定申告、(2)清算中の各事業年度の確定申告及び(3)残余財産確定事業年度の確定申告の3種類の申告書を提出することになります。この場合の所得金額の計算原則は、各事業年度の「益金の額」から「損金の額」を減算した金額を「所得金額」とする損益法により計算するものとされています。

 したがって、清算中の申告に当たっては、残余財産の処分益などが発生したらそれを益金に計上し、残余財産の処分損が発生したり、清算業務に携わる者の人件費が発生したような場合にはその金額を損金に計上したうえで算出される所得金額を基に申告を行うことになります。

(2)所得計算上の主な留意点

イ 期限切れに欠損金の損金算入制度

 債務超過会社の清算に当たっては、残余財産を超える債務については、債権者から債務免除を受けることになります。上記の損益法の原則によれば、債務免除を受けた場合には当該事業年度において債務免除益を計上する必要があります。清算中の各事業年度において益金である債務免除益が多額に発生した場合には、残余財産がないにもかかわらず課税所得が発生するケースも考えられます。

 このため、清算中の各事業年度において残余財産がないと見込まれる法人にあってはいわゆる期限切れ欠損金を損金に算入することにより、担税力のないところに課税所得が発生しないようにする措置、すなわち、「期限切れ欠損金の損金算入制度」が適用されることとされています。

ロ その他の留意点

 上記以外の解散、清算申告に当たっての主な留意事業を列記すると以下のとおりとなります。

① 解散事業年度の確定申告
・ 解散事業年度の決算期間はほとんど12ヵ月未満となるため、所得計算に当たっては、例えば減価償却費等の計上につき按分計算が必要となるケースが出て来る。
・ 租税特別措置法上の特別償却や圧縮記帳などは利用できない。
・ 適用税率は、通常事業年度と同じ。

② 清算中の各事業年度の確定申告
・ 清算事業年度の所得計算では、事業の用に供している減価償却資産に係る減価償却費の計上や引当金の繰入れはできるが、租税特別法上の特別償却などは利用できない。
・ 欠損金の繰越控除は、清算事業年度でも適用できる。また、残余財産がないと見込まれる場合には、期限切れ欠損金の損金算入ができる。
・ 適用税率は、通常事業年度と同じ。

③ 残余財産確定事業年度の確定申告
・ 所得金額の計算方法は、清算中事業年度と同じ。ただし、当該事業年度の事業税等の額は、その事業年度の損金に算入するという特例が適用される。
・ 債務超過会社の場合は、債務免除益を計上することにより、債務免除益が計上されるが、期限切れ欠損金の損金算入をすることで課税所得は生じない。
・ 残余財産の分配が行われる場合には、みなし配当が生じ源泉徴収が必要となることがある。
・ 適用税率は通常事業年度と同じ

④ 債権放棄をする甲社の税務処理
 債務者が債務の弁済を行わないまま解散・清算に至った場合には、当該債務につき貸倒損失が発生することになる。この処理につき、債権放棄に至った事情等によっては「債権回収が可能であったにもかかわらず債権放棄を行った」としてその債権相当額の贈与が行われたものと認定され、寄附金課税の対象とされる場合がある。 
 しかし、本件設例のように債務超過状態が続き、今後事業を続けた場合にはさらなる損失の発生が見込まれるなどやむを得ずその損失負担等(債権放棄)を行ったものと認められる場合には、寄附金課税の対象とはしないとの取扱いが適用される(法基通9‐4‐1)。

執筆者情報

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税理士 小畑 孝雄

昭和41年東京国税局入局、国税庁法人税課、国税不服審判所勤務等を経て平成16年東京国税局法人課税課長、18年同調査第2部長を歴任し19年退官、税理士登録(日本橋支部所属)

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