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パワーハラスメントに関する法律の成立

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1.改正労働施策総合推進法(※1)の成立

 みなさんは、パワーハラスメント対策が事業主の義務となることをご存じですか?
 令和元年5月29日、改正労働施策総合推進法(以下「改正法」といいます。)が成立しました。改正法では、法律上、初めて、パワーハラスメントの定義を示すとともに、事業主はパワーハラスメント防止のための相談体制の整備等の雇用管理上必要な措置が義務付けられました。
 改正法は、大企業については、令和2年6月1日から施行されます。中小企業については、令和4年3月31日までの間は努力義務とされています。

2.改正法で定義されたパワーハラスメントとは?

 改正法第30条の2第1項は,「事業主は,職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって,業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう,当該労働者からの相談に応じ,適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」と定めています。

 つまり、改正法において、職場におけるパワーハラスメントとは、
①職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
③労働者の就業環境が害されること
という①から③までの要素をすべて満たすものと定義されました。

 改正法によって、パワーハラスメントの概念が明確になり,法律上の根拠が与えられたといえます。もっとも、これまでの実務や判例で積み重ねられたパワーハラスメントに対する考え方を改正法は大きく変えるものではなく,改めて確認をしたものといえるでしょう。

 さらに、厚生労働が定めた「パワーハラスメント指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)(※2)では、パワーハラスメントを考えるうえで重要となってくる「職場」と「労働者」の概念についてこのように説明を加えています。
 まず,「職場」とは、事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所を指し、当該労働者が通常就業している場所以外の場所であっても、当該労働者が業務を遂行する場所については、「職場」に含まれるとしています。そして,「労働者」とは、いわゆる正規雇用労働者のみならず、パートタイム労働者、契約社員等いわゆる非正規雇用労働者を含む事業主が雇用する労働者の全てをいう、としています。

3.事業主が雇用管理上講ずべき措置

 改正法の施行によって,事業主は,パワーハラスメント防止のため、雇用管理上必要な措置を講じることが義務付けられることになります。

 では、事業主が雇用管理上講ずべき措置とは具体的にどのようなものでしょうか?
 「パワーハラスメント指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)によると、
▶事業主によるパワハラ防止の方針の明確化及びその周知・啓発
▶相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
▶職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
などが、事業主がパワーハラスメント問題に関し雇用管理上講ずべき措置の内容としてあげられています。
 また、これらとあわせて雇用管理上講ずべき措置として、相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講ずるとともに、その旨を労働者に対して周知することや、パワーハラスメントの相談等を理由として、解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発することも求められています。

 大企業については、改正法は令和2年6月1日から施行されますので、自社がこのような措置をきちんととっているか確認する必要があります。また、中小企業は令和4年3月31日までの間は努力義務とされていますが、早いうちに体制を整えるのがよいでしょう。

4.措置義務に違反したら?

 では、事業主が上記措置を講じなかった場合どうなるのでしょうか?
 措置義務に違反した場合、どのような制裁を受ける恐れがあるのでしょうか?

 実は、措置義務に違反した場合について、改正法には,直接の罰則規定はありません。
 しかし、安心してはいけません。厚生労働大臣は、改正法の施行に関し必要があると認めるときは、事業主に対して、助言、指導または勧告をすることができますし(改正法第33条第1項),勧告に従わない場合には,その旨を公表することもできるので(改正法第33条第2項)、注意が必要です。

5.今後の対応について

 今回の改正は、社会全体としてパワーハラスメントをなくしていこうとする姿勢の表れと考えられます。パワーハラスメントは、労働者の尊厳や人格を侵害する許されない行為であることはもちろん、同じ職場で働く従業員の生産性や士気を下げてしまうものであり、パワーハラスメントが存在すること自体、会社にとって大きな損失となります。

 一方、最近増えてきている相談として、パワーハラスメントにあたるかどうか不安に駆られて、管理職が必要以上に委縮し、本来やるべき適正な業務指示や指導ができなくなっている、という会社からの相談もあります。
 この点に対しては、どのような行為を職場からなくすべきかについて、社員全員が認識を共有できるようにすることが必要であり、そうすればおのずと適正な業務指示や指導がどのようなものか分かるはずです。労働者が主観的にパワーハラスメントにあたると主張しても、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません。よって、必要以上に業務指示や指導に対して委縮する必要はありません。
 どのような行為を職場からなくすべきかについて、社員全員が認識を共有できるようにする方法としては,①ルールを決めて周知する、②研修等の教育をすること,などが考えられるでしょう。

 改正法の施行によって、今まで以上にパワーハラスメントに対する関心が高まり、相談が増えることが予想されます。そして,当該行為が業務上必要かつ相当な範囲を超えたものかどうか,パワーハラスメントにあたるかどうか判断が難しい場合もあると思います。

 もし,分からないことがあれば,気軽に,弁護士にお尋ねください。法律の専門家として,弁護士が分かりやすく説明いたします。

※1労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律
※2事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)

執筆者情報

弁護士 芳賀 由紀子

弁護士法人ALAW&GOODLOOP

会計事務所向け法律顧問
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2020.02.28 15:44:12