第5回 中小企業の経営強化・生産性向上を後押し!補助金の加点要素にも!経営革新計画と経営力向上計画とは?
中小企業庁では、中小企業が業績アップや経営の向上が期待できる「新たな事業活動」について「実現性のある数値目標」を具体的に定めた中期的な経営計画書「経営革新計画」を策定することを奨励しています。
通常、上場している大企業は投資家や金融機関、関連会社などの利害関係者に向けて、中期経営計画を策定しています。この計画では会社の将来の方向性が示され、具体的な目標として数値計画まで落とし込まれています。この計画を作るメリットとしては、計画と実績の差違を検証できる点にあります。計画通りいかなかったのは急激な環境の変化によるものなのか、社内の努力が足りなかったのかなど、現状と課題が明確になり、次期の対策を打ちやすくなります。
しかし、中小企業で中期計画書を作っているところは少ないです。計画がなければ、売上や利益がなぜ良くなったのか悪くなったのかを把握することができず、有効な施策が打てなくなります。
そのため、中小企業庁は経営革新計画または経営力向上計画を策定させるという形で、中小企業の経営力・生産性向上のための支援を行っています。経営革新計画や経営力向上計画は認定されることで、補助金の加点要素、資金調達や販路開拓など、さまざまなメリットが得られます。
今回はこの経営革新計画と経営力向上計画について詳しく解説していきます。
経営革新計画と経営力向上計画を同じものだと思われるかもしれません。経営革新計画も経営力向上計画も中小企業等経営強化法に基づいてはいますが、いくつかの点で違いがあります。
最も大きな違いは計画の策定目的です。経営革新計画は「新しい分野での進出や革新的な事業を実施するための計画」です。中小企業が新しい事業活動に取り組み、経営の相当程度の向上を図ることを目的に策定されるものであり、申請する際には取り組む予定の事業がどれだけ革新性があるのかを説明する必要があります。一方、経営力向上計画は、人材育成、財務内容の分析、マーケティングの実施、ITの利活用、生産性向上のための設備投資などを通して、自社の経営力を向上することを目的に策定されるものであり、申請する際に事業の革新性や新規性を説明する必要はありません。
次に経営革新計画と経営力向上計画は、計画を認定する機関にも違いがあります。経営革新計画は「事業所が所在している都道府県の知事」が認定します。一方、経営力向上計画は「事業分野を主管している省庁の大臣」が認定します。経営革新計画を申請する際は、その所在している都道府県でどのような条件を設けているか事前に確認しておく必要があります。また、経営力向上計画を申請する際は、自分の事業がどの分野にカテゴライズされるのか、きちんと押さえておく必要があります。
また、認定された際の優遇にも違いがあります。経営革新計画では新分野への進出や革新的事業実施に向けて、資金調達や販路開拓での支援に重点を置いています。一方、経営力向上計画は税制支援、金融支援、法的支援など自社の経営力向上や既存事業の生産性向上に資するための幅広い支援を行っています。具体的な優遇については中小企業庁のHPに掲載されているので、確認してみることをおすすめします。
省庁や各自治体で公募されている補助金の中には、補助率アップや審査の際の加点要素など、経営革新計画・経営力向上計画による優遇措置を設けているところが多いです。たとえば、昨年2019年に公募されたものづくり補助金(平成30年度補正予算「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」)では次のような優遇がありました。経営革新計画では「2018年12月21日の閣議決定後に新たに申請して認定または承認を受けた場合、補助率を3分の2にアップする」という優遇がありました。一方、経営力向上計画では「特定非営利活動法人は交付決定時までに対象事業に関する経営力向上計画の認定を受ければ、単体で申請することができる」というものでした。また、IT導入補助金に関しては、両計画が認定されても、直接の優遇措置を受けられません。しかし、経営革新計画や経営力向上計画を策定することで、生産性向上や経営強化のための課題を発見できるため、その解決に必要なITツールを探すことが可能になります。
そのため、補助金の申請に積極的に取り組むのであれば、経営革新計画や経営力向上計画の認定を目指すことをおすすめします。
経営革新計画も経営力向上計画も、策定する目的や認定機関は違いますが、一度認定されれば、さまざまな優遇を受けることができます。しかし、どちらの計画も最大の目的はあくまで自社の生産性や経営力を向上させることにあります。優遇されることばかり意識して、無理に計画を策定しても意味がありません。中小企業診断士や経営革新等支援機関などの専門家・専門機関のアドバイスを仰ぎつつ、本当に効果がある経営革新計画と経営力向上計画の策定に取り組むことを推奨します。