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税理士の「新しい価値」を探求する令和の士伊東修平税理士の理念と戦略

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BR経営コンサルティング/伊東修平税理士事務所 代表 税理士 伊東修平

BR経営コンサルティング/伊東修平税理士事務所(東京都板橋区)の代表を務める伊東修平氏(写真)は、システムエンジニア、商社勤務といった異色の経歴のなかで税理士資格を取得した勤勉家である。一昨年設立した黒船イノベーションズ株式会社では、持ち前のIT技術を武器に、地元中小企業の資金調達にクラウドファンディングを活用するなど、税務の枠にとらわれない顧客サービスが注目を集めている。本稿では、顧問先支援の新しい領域を開拓し続ける伊東氏に、ご自身が掲げる理念や、顧客支援戦略について伺った。

勤務先の倒産を機に「やり直し」を支援できる税理士へ

── 本日は、BR経営コンサルティング/伊東修平税理士事務所の伊東先生にお話を伺います。まずは、事務所の沿革についてお聞かせください。
伊東 私が税理士事務所を開業するきっかけになったのは、知人が役員として参画することとなった会社から、経営再建のアドバイスをしてほしいと打診されたことです。
 当時、私は税理士試験に合格し、食品商社に勤めながら開業準備を行っていました。商社では、情報システムの部署立ち上げの責任者として入社後、財務、人事、法務、経営企画等さまざまな部署を任されてきました。複数部署で重要なポジションを任されている状況だったため、すぐに会社を辞めることは困難でした。
 そのため、2016年の12月に合格したのち1年くらいかけて開業準備を行っていく予定だったところ、経営再建のアドバイスを求められるようになったことをきっかけに、予定を早めて開業をしました。当時は商社にも勤務しながらの複業での開業でした。
── 税理士を目指すようになったのはいつですか。
伊東 商社に入社する前、私はシステム開発会社に3年ほどSE(システムエンジニア)として勤めていました。税理士を最初に志したのはこのときです。当時、私は主にアパレル業界向けの基幹システムなどの開発に携わっていたのですが、SEとして提供するものと、お客様が求めているものとの間にギャップを感じていました。
 お客様にとって重要なのは、その業種に合うシステムを提供してもらえるかどうかであって、提供されるシステムが何のプログラミング言語でつくられているかといった技術的なことは重視されません。業界向けのシステム開発を行う以上、「◯◯のプログラミング言語には詳しいです」というSEのスキルだけでは勝負できないと感じました。
 それなら自分は何を武器にしようと考えたとき、思い浮かんだのが税理士の資格取得だったのです。
── 最初は、税理士の職に就くという考えではなかったのですね。
伊東 その頃は、あくまでSEの武器として、業界に関わる士業の資格を得たいという気持ちでした。税理士を目指したのも、「数字が得意だから」という理由です。
 ところがその翌年、会社が経営不振に陥りました。あっという間に給与の支払いもままならなくなり、私は夢半ばで退職せざるを得なくなりました。ここで大変悔しい思いをしたわけです。財務に精通している人が的確なアドバイスをしていれば、この結末は防げたはずですから、今でも残念に思っています。
 これがきっかけで、「経営危機の防止に貢献できる税理士になろう」という気持ちが湧いたのです。
── 貴社の経営理念についてお聞かせください。
伊東 私の理念は、「誰もがチャレンジできて、失敗してもやり直せる社会をつくる」です。
 そのためには、起業家のチャレンジを後押しする仕組みはもちろん、失敗したときにやり直せる仕組みというのも同時に必要だと考えています。私は税理士事務所と同時に、「BR経営コンサルティング」という屋号も掲げているのですが、「BR」の由来は、「Business Reform(ビジネス・リフォーム)」です。「新規創業」と「事業の立て直し」を事業の2本柱とし、経営者のさまざまな悩みを解決することを目指しています。

「税理士のフィールド」にとらわれない戦略

── 続いて黒船イノベーションズ株式会社の沿革や社名の由来を教えてください。
伊東 黒船イノベーションズ株式会社は、BRコンサルティングの約1年後となる平成30年7月に設立した会社です。士業の「士(サムライ)」という文字から、歴史上の「鎖国」を連想し、士業の世界が黒船の来航によって革新するというイメージからこの名前に決めました。
 黒船はAIなど時代の変化を表し、士の武器である刀は、事務作業などを表しています。刀だけではいずれ戦えなくなってしまう未来に備えて、鎖国のなかにあるともいえる士業に新たな価値を創造し、クライアントとの関係をより強固にしていくという考えがあります。
── 具体的な戦略をお聞かせください。
伊東 従来の税理士業務ではない領域をメインでやることです。具体的には、システム開発、事業者間のマッチングといったIT関連サービス、クラウドファンディングの支援などがあります。
── 通常の税理士の業務とはかなり違いますね。
伊東 仕事のフィールドを自分で絞ると、どうしてもお客様の視点で考えることができなくなってしまいます。「税理士だからこれはできない」というのは、自分の視点であってお客様の視点ではありません。必要なのは、自分の知識の範囲でできることを提供することではなく、お客様が本当に悩んでいることを解決することだと思います。
 例えば、財務のコンサルティングをされている税理士の先生は多いのですが、販路の拡大や販売戦略、製造ラインの効率化といった分野も、お客様がそれを望むのであれば税理士がコンサルティングをしていいと思うのです。
 もちろん、ひとりで解決できないことはたくさんありますが、そこは自分の人脈だったり、他の人の人脈を使ったりして解決のために動くべきだと思っています。
── クラウドファンディングについてお話しいただけますか。
伊東 クラウドファンディングとは、インターネットを介して、大衆から少しずつ資金を調達していく仕組みです。
 資金調達の方法には通常であれば融資、投資、補助金などが考えられますが、それではお金を集められないケースがあります。クラウドファンディングのよいところは 融資と違い、与信や事業の実現可能性を問われないところですね。
── どのような事例で役立つのでしょうか。
伊東 借り入れが難しい人でも資金調達ができる点に可能性を感じています。私は以前、ある2人の起業家に出会ったのですが、2人ともとても面白いアイデアを持ち、高い技術も持っていました。ところが1人は自己破産経験者、もう1人は病気のため生活保護を受けている状況でした。通常の方法で資金を集められる状態ではなく、当時の私には、数年後に再チャレンジをお勧めする程度のことしかできませんでした。
 よい企画があるのに資金を集められない起業家に対して、私ができるサポートは何だろうと模索しているときに出会ったのが、クラウドファンディングです。
── クラウドファンディングはどのような方でも活用できるのでしょうか。
伊東 誰でも簡単に成功させられるわけではありません。まず、資金を集める本人が主体的に集めようと行動を起こさないと成功しません。ですから、本人によるところが大きいですね。クラウドファンディングでは、前述の病気や自己破産の経験ですら共感を生む武器になり得ます。あとはSNSで情報発信を行うことが多いので、ある程度のITリテラシーも求められるといえます。

協力すれば税理士の価値はもっと上がる

── AIが普及するなか、どうすれば税理士の価値は上がるのか、先生の考えをお聞かせください。
伊東 もしAIが税理士から記帳業務、書類作成、税務代理といった業務を取り上げてしまったときに何が残るかというと、税務相談が残るという意見もありますが、私は税理士が持っている経営者との人脈がカギだと思っています。
 経営者とつながりを持てるというのは、他の業界から見たらとてもすごいことです。経営者が深く付き合う業種は、銀行と税理士くらいではないかと思うほどです。税理士業界に長くいらっしゃる方ほど、この価値に意外と気付きにくいのかもしれませんが、税理士は幅広い業界の経営者と深く付き合うわけですから、せっかく持っているその財産、つまり今ある人脈に、もっと価値を見いださなければならないと思っています。
 まだ構想の段階ですが、この人脈を生かすには、税理士の間の情報共有とビジネスマッチングができるシステムの開発が必要だと考えています。
── 税理士同士で競争するのではなく、協力していくということですね。
伊東 そうですね。同業者間で競争を続ければ、結局、価格競争に陥ってしまいます。サービスを安く提供することに力を注いでも、将来、税理士に新しい価値が生まれるとは思えません。それならば同じ業界で奪い合って競争するのではなく、シェアして協力すればいいと思っています。例えばノウハウもそうですし、お客様や、事務所の人材もそうです。士業はもっとオープンになっていいと思います。
── 業界で協力していくために活動されていることがありましたらお聞かせください。
伊東 お客様のさまざまな経営課題をシェアし、解決方法を考える「経営課題研究会」を立ち上げました。参加してくださる士業の先生を、これからもっと増やしていきたいと思っています。
 いろいろな場を通じて、税理士や他の士業の先生たちとアライアンスを組み、新たな税理士の価値を見つけていきたいですね。
── 税理士を目指している受験生のなかにも、業界の将来について気になっている方が多いと思います。先生からメッセージをお願いいたします。
伊東 税理士の仕事は、AIが発達するとなくなるといわれていますが、それはないと思っています。
 私は前職で食品の販売の事業に関わっていたのですが、例えば食品メーカーの醬油はスーパーに行けばどこでも同じものが買えます。全く同じ品質のものを売る仕事の場合、価格で勝負する以外に自分の仕事に価値が付けにくいのです。
 でも、税理士はそうではありません。将来は厳しいといわれる業界ですが、個々の強みがあって、そこに価値を生みだせる仕事です。仕事に枠をつくらずにいろいろな分野でお客様目線というものを一番に考えて、そのお客様のために何ができるのかを追求していけば、もっともっといい職業になるはずです。
── 先生は自分の成功というより業界全体に対する貢献という考えがあると感じます。他に手がけている事業や活動などがあれば、お聞かせください。
伊東 最近、板橋を中心に、「いたコン」というイベント活動をスタートさせました。もともと鎌倉市をシリコンバレーにするという活動があって、それを基にしたイベントです。
 活動内容は、何かにチャレンジしたい人が経営者や行政、区議の方などと意見交換を行うというものです。まず実現したい夢を持っている人が自分の抱える課題を参加者にプレゼンテーションし、その課題について、参加者とブレインストーミング(brainstorming)をしていきます。夢を持つ人の新しいチャレンジにつながればという思いで始めました。
── 税理士業界では人材不足も問題視されています。先生が考える人材確保のあり方についてもお聞かせください。
伊東 人材不足には、まず採用するためのマーケットを開拓すること、そして、育成した人材の離職を防ぐために何ができるかを考えることが重要だと思います。
 私のところでは、「マリモワークス」という在宅ワークを支援する取り組みを行っています。名称の由来は「ママ」が「リモート」で「ワーク」するというものです。在宅ワーカーは、採用マーケットの開拓、離職の防止の面からすると、人材不足を補うのにかなり有用なのではないかと思っています。
 実は私の事務所や会社の従業員は、子育て中の母親を未経験から採用しています。当社で研修を行い、実務を通じて会計事務所レベルの知識を身に付けてもらい、それをもとに母親の社会復帰の手助けとなることを目指しています。
 「働き方」をバリアフリーにすることよって、人生の各フェーズでそれぞれが柔軟な選択ができるとともに、それにより将来が制限されることのない世の中にすることがこの取り組みの最終的な目的です。
── 最後に、先生の他者貢献について思いなどをお聞かせください。
伊東 私の場合、本当は他者貢献ではないのかもしれません。私には3人の子供がいるのですが、私の原点になっているのは、この子たちが大人になったときに過ごしやすい世の中になっているだろうかということです。もしチャレンジのできない時代になっていたら、私はそのようなところで生きていたくないですからね。
 私の理念は「誰もがチャレンジできて失敗してもやり直せる社会をつくる」ですが、実はその先に見ているのは自分の子供たちが生きる未来です。自分の子供たちが楽しく暮らせる社会が、結果的に、他の人も楽しく暮らせる社会だとすればうれしいですね。
── 本日は貴重なお話をありがとうございました。


伊東修平(いとう・しゅうへい)
BR経営コンサルティング/伊東修平税理士事務所代表税理士。黒船イノベーションズ株式会社代表取締役。栃木県佐野市出身。2007年4月にシステム開発会社に入社しSEとしてアパレル業界向けに基幹システムなどの開発に携わるも、経営不振によって同社を退職。2010年6月に売上140億円規模の食品卸商社に入社。社内SE、経理、総務、人事、経営企画など、幅広い業務を兼任する。2016年12月に税理士試験に合格し、2017年6月にBR経営コンサルティング/伊東修平税理士事務所を、翌年7月に黒船イノベーションズ株式会社を設立。クラウドファンディングのサイト運営を行ったり、顧客に自ら開発した会計ソフトを無料提供したり、独自のサービスを提供している。2020年は税理士等の士業向けにクラウドファンディングのノウハウを伝える協会を設立する予定もある。また、2020年3月に行われる大東文化大学のビジネスコンテストの審査員を務める。

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株式会社実務経営サービス

株式会社実務経営サービスは、会計事務所の成長や発展をご支援している会社です。税理士の先生方を対象とする勉強会「実務経営研究会」の運営、各種セミナー・カンファレンスの企画、会計事務所経営専門誌「月刊実務経営ニュース」の発行を事業の柱としています。おかげさまで2018年に、創業20周年を迎えることができました。

「月刊実務経営ニュース」は、成長の著しい会計事務所、優れた顧問先支援を実践している税理士を取材・紹介し、会計業界の発展に貢献することを目指しています。おもな読者は全国の会計事務所の所長や職員の皆様で、全国に約3万件あるといわれている会計事務所の約1割にご購読いただいています。最新号を無償で読むことができる「Web版実務経営ニュース」もありますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。

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2020.02.13 18:37:51