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解雇の「承認」!?

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1.解雇とは,雇用主が一方的に,雇用契約を終了させることを言います。
 解雇された従業員は,事後に解雇の無効を主張し,解雇された時からの給料を請求してくることがあります。解雇が無効であれば,従業員と雇用主との間の雇用契約は有効に存続しており,したがって,従業員には給料を請求する権利があるということになります。確かに従業員は現実に労働してはいませんが,労働をしていない原因は解雇をされたこと,すなわち雇用主側にあるため,雇用主側においてノーワークノーペイを理由に給料の支払いを拒絶することは,基本的にはできません。解雇は,無効とされた場合のリスクが大きく,また,裁判になった場合に無効と判断される可能性があるものです。そのため,雇用主が解雇をする場合には,慎重な検討が必要です。
2.(1) ところで,雇用主が従業員に解雇を通知した場合,その従業員が「分かりました」と応じた場合,その従業員はその解雇を争うことができなくなるのでしょうか。あるいは,解雇された従業員が異議なく退職金を受領したような場合,その従業員はその解雇を争うことができなくなるのでしょうか。
 (2) 大阪地裁は,被解雇者が,解雇に異議を申し立てない旨の誓約書を提出し,解雇予告手当と一時金を受領していた事案で,これらの事情によって本件解雇が無効であるとの結論が左右されるわけではなく,仮に合意退職が主張されたとしても,解雇が無効であると判断した理由(整理解雇の要件としての閉鎖の合理的理由,解雇回避措置,手続きの相当性のいずれをとっても不十分)に照らすと,そのような合意もまた無効というべきと判断しています(大阪地判平19・4・26/労働判例944号61頁)。
 最高裁は,従業員(労働者)が自己に不利益な意思表示を行う場合には,非常に慎重な判断をしています(最判平2・11・26/最高裁判所民事判例集44巻8号1085頁等,最判平26・10・23/最高裁判所民事判例集68巻8号1270頁等)。
したがって,雇用主が行った解雇につき,従業員がこれに不服を述べる権利を放棄したとみることができる場合というのは,きわめて例外的な場合です。また,解雇された従業員がこれを承認するような言動をとった場合に,雇用契約が合意解約により終了したとみることができるのもきわめて例外的な場合と考えます。
 よって,前記⑴の場合,解雇された従業員において,事後に解雇を争うことは可能と考えます。
3.これに対し,解雇後数年経過して,解雇無効を主張してくるような場合には,従業員は解雇を承認したものとして,解雇を争うことはできないと考えてよいと思います。
4.従業員が誓約書や承諾書に署名をしてくれる場合には,解雇に異議を述べないといった誓約書や解雇を承諾するといった書面を作成するのではなく,事後の紛争を回避するために,合意退職書面を作成しておくべきです。それでも解雇をする必要があるケース(従業員側の問題が大きく,他の従業員への影響を考慮し,解雇をするべきとの経営判断もあると思います)においては,解雇の必要性・相当性を十分に検討したうえで,解雇が事後に争われるリスクを検討したうえで,解雇を行うか否かを判断するべきです。

執筆者情報

弁護士 植木 博路

弁護士法人ALAW&GOODLOOP

会計事務所向け法律顧問
会計事務所向けセミナー

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1.解雇とは,雇用主が一方的に,雇用契約を終了させることを言います。 解雇された従業員は,事後に解雇の無効を主張し,解雇された時からの給料を請求してくることがあります。解雇が無効であれば,従業員と雇用主との間の雇用契約は有効に存続しており,したがって,従業員には給料を請求する権利があるということになります。確かに従業員は現実に労働してはいませんが,労働をしていない原因は解雇をされたこと,すなわち雇用主側にあるため,雇用主側においてノーワークノーペイを理由に給料の支払いを拒絶することは,基本的にはできません。解雇は,無効とされた場合のリスクが大きく,また,裁判になった場合に無効と判断される可能性があるものです。そのため,雇用主が解雇をする場合には,慎重な検討が必要です。2.(1) ところで,雇用主が従業員に解雇を通知した場合,その従業員が「分かりました」と応じた場合,その従業員はその解雇を争うことができなくなるのでしょうか。あるいは,解雇された従業員が異議なく退職金を受領したような場合,その従業員はその解雇を争うことができなくなるのでしょうか。 (2) 大阪地裁は,被解雇者が,解雇に異議を申し立てない旨の誓約書を提出し,解雇予告手当と一時金を受領していた事案で,これらの事情によって本件解雇が無効であるとの結論が左右されるわけではなく,仮に合意退職が主張されたとしても,解雇が無効であると判断した理由(整理解雇の要件としての閉鎖の合理的理由,解雇回避措置,手続きの相当性のいずれをとっても不十分)に照らすと,そのような合意もまた無効というべきと判断しています(大阪地判平19・4・26/労働判例944号61頁)。 最高裁は,従業員(労働者)が自己に不利益な意思表示を行う場合には,非常に慎重な判断をしています(最判平2・11・26/最高裁判所民事判例集44巻8号1085頁等,最判平26・10・23/最高裁判所民事判例集68巻8号1270頁等)。したがって,雇用主が行った解雇につき,従業員がこれに不服を述べる権利を放棄したとみることができる場合というのは,きわめて例外的な場合です。また,解雇された従業員がこれを承認するような言動をとった場合に,雇用契約が合意解約により終了したとみることができるのもきわめて例外的な場合と考えます。 よって,前記⑴の場合,解雇された従業員において,事後に解雇を争うことは可能と考えます。3.これに対し,解雇後数年経過して,解雇無効を主張してくるような場合には,従業員は解雇を承認したものとして,解雇を争うことはできないと考えてよいと思います。4.従業員が誓約書や承諾書に署名をしてくれる場合には,解雇に異議を述べないといった誓約書や解雇を承諾するといった書面を作成するのではなく,事後の紛争を回避するために,合意退職書面を作成しておくべきです。それでも解雇をする必要があるケース(従業員側の問題が大きく,他の従業員への影響を考慮し,解雇をするべきとの経営判断もあると思います)においては,解雇の必要性・相当性を十分に検討したうえで,解雇が事後に争われるリスクを検討したうえで,解雇を行うか否かを判断するべきです。
2020.02.06 17:10:09