HOME コラム一覧 年次有給休暇の年5日時季指定義務について

年次有給休暇の年5日時季指定義務について

post_visual

今日は守田社労士の訪問日です。

リエ「守田先生、こんにちは。昨年4月に始まった有給休暇の年5日取得の件で教えてください。」

守田「そろそろ1年ですから、心配されている会社さんも多いですね。社員の皆さんの有休の取得状況はどんな感じでしょうか。」

リエ「はい。元々コンスタントに有休を取得している社員や、今回の制度変更で有休を自主的に取得し始めた社員は問題ないのですが、なかなか休んでくれない社員が数名いて、どうすればいいのか悩んでいます。」

守田「仕事を休むことが“悪”と思っている人もいますしね……。それと、休んだときの仕事の割り振りは大丈夫ですか。休むと仕事が回らなくなるほど負担が大きい状態であれば、有休を取得できる環境とは言えないですよね。ただ“休みなさい”というのではなく、休みやすい環境を整えることも大切ですよ。」

リエ「社内でもいろいろ取り組んでいます。まずは上長から休んでもらうこと、上長が休まないと部下は休みにくいので……。それと業務についても、単独業務をなくして、複数の社員で担当するように変更しました。最初は、一人ひとりの負担が増えるように感じて不満も出たのですが、いざやってみたら、ひとりで抱えていた不安も共有できたり、お客様からの問い合わせにも複数で対応できるので、精神的に楽になったという声も多いです。」

守田「すばらしいですね。できることはすでにやっているようですから、あとは休んでいない数名の方に有休を取得してもらうだけですね。」

リエ「そうなんです。でもそれが簡単そうで難しいんです。」

守田「それでは、まず一つ質問しますが、年5日の有休はいつまでに取得しないといけないか知っていますか。」

リエ「えっ、そんな基本的なこと……。昨年4月にスタートしたのですから、今年の3月末までじゃないんですか。」

守田「そう思われている方が多いのですが、原則は違います。昨年(2019年)の4月以降に10日以上付与された有休について、有休が付与された日から1年以内に5日取得させなければいけないとなっています。ですから、毎年4月1日に社員全員に有休を一括で付与している場合については、毎年3月末までとなりますが、入社日から法令通りに付与している場合は、社員ごとに付与日も異なりますから取得期限日も異なることになります。例えば、入社した日が9月1日の社員が有休を付与される日は6ヵ月後の3月1日ですから、昨年4月の制度変更後、初めて付与される有休は今年の3月1日なので、取得期限日は来年の2月末ということになります。」

リエ「入社日によっては、慌てなくても大丈夫なんですね。」

守田「そういうことになります。さて、本題の休まない社員への対応についてですが、基本的には面談をして、本人の意見を尊重した形で、有休を取得する日を決める、つまり時季指定をすることになります。」

リエ「最後はひとりずつ、個別に決めていくしかないということですよね。」

守田「そうなりますね。本来、有給休暇は労働者が自由に取得するものなので、本人が5日以上取得している場合は、会社は時季指定をすることができません。どうしても本人が取得しない場合に時季指定をする必要が出てきます。そして、時季指定を実施する場合は、その対象労働者の範囲や方法について就業規則に記載しなければならないのです。」

リエ「え~、それは大変。なんとか本人から有休を取得してもらえるように、もう一度声をかけてみます。」

守田「実は、会社全体で事前に有休の取得日を決めてしまう『計画的付与』という方法もあります。これは、本来稼働日である日を会社全体もしくはグループごとに有休取得日として休みにしてしまうことです。年末年始や夏季休暇にプラスしたり、祭日の合間に設定すれば大型連休になりますし、個別の記念日に設定することも可能です。」

リエ「それで5日間設定してしまえば、取得したとかしないとかの確認をする必要はなくなりますよね。」

守田「そういうことです。個人が自由に取得できる有給休暇を5日は残さなければいけないことと、やはり就業規則に記載する必要があること、そして労使協定を結ぶ必要がありますが、今後毎年の確認作業を考えると、いい制度だと思いますよ。」

リエ「課長に提案してみます。」

守田「もう一つ、忘れてはいけないのが年次有給休暇管理簿の作成です。労働者ごとに作成して、期間満了後3年間保存しなければなりません。大変ですけど対応をお願いしますね。」

リエ「はい、頑張ります。ありがとうございました。」

監修

profile_photo

税理士 坂部達夫

坂部達夫税理士事務所/(株)アサヒ・ビジネスセンター

 東京都墨田区にて平成元年に開業して以来、税務コンサルを中心に問題解決型の税理士事務所であることを心がけて参りました。
 おかげさまで弊所は30周年を迎えることができました。今後もお客様とのご縁を大切にし、人に寄り添う税務に取り組んでいきます。

メールマガジンやセミナー開催を通じて、様々な情報を発信しています。

この記事のカテゴリ

この記事のシリーズ

OLリエちゃんの経理奮闘記

記事の一覧を見る

関連リンク

寡婦(寡夫)控除の見直し

税務・会計に関する情報を毎週無料でお届けしています!

メルマガ登録はこちら


コラム
/column/2020/img/thumbnail/img_07_s.jpg
今日は守田社労士の訪問日です。リエ「守田先生、こんにちは。昨年4月に始まった有給休暇の年5日取得の件で教えてください。」守田「そろそろ1年ですから、心配されている会社さんも多いですね。社員の皆さんの有休の取得状況はどんな感じでしょうか。」リエ「はい。元々コンスタントに有休を取得している社員や、今回の制度変更で有休を自主的に取得し始めた社員は問題ないのですが、なかなか休んでくれない社員が数名いて、どうすればいいのか悩んでいます。」守田「仕事を休むことが“悪”と思っている人もいますしね……。それと、休んだときの仕事の割り振りは大丈夫ですか。休むと仕事が回らなくなるほど負担が大きい状態であれば、有休を取得できる環境とは言えないですよね。ただ“休みなさい”というのではなく、休みやすい環境を整えることも大切ですよ。」リエ「社内でもいろいろ取り組んでいます。まずは上長から休んでもらうこと、上長が休まないと部下は休みにくいので……。それと業務についても、単独業務をなくして、複数の社員で担当するように変更しました。最初は、一人ひとりの負担が増えるように感じて不満も出たのですが、いざやってみたら、ひとりで抱えていた不安も共有できたり、お客様からの問い合わせにも複数で対応できるので、精神的に楽になったという声も多いです。」守田「すばらしいですね。できることはすでにやっているようですから、あとは休んでいない数名の方に有休を取得してもらうだけですね。」リエ「そうなんです。でもそれが簡単そうで難しいんです。」守田「それでは、まず一つ質問しますが、年5日の有休はいつまでに取得しないといけないか知っていますか。」リエ「えっ、そんな基本的なこと……。昨年4月にスタートしたのですから、今年の3月末までじゃないんですか。」守田「そう思われている方が多いのですが、原則は違います。昨年(2019年)の4月以降に10日以上付与された有休について、有休が付与された日から1年以内に5日取得させなければいけないとなっています。ですから、毎年4月1日に社員全員に有休を一括で付与している場合については、毎年3月末までとなりますが、入社日から法令通りに付与している場合は、社員ごとに付与日も異なりますから取得期限日も異なることになります。例えば、入社した日が9月1日の社員が有休を付与される日は6ヵ月後の3月1日ですから、昨年4月の制度変更後、初めて付与される有休は今年の3月1日なので、取得期限日は来年の2月末ということになります。」リエ「入社日によっては、慌てなくても大丈夫なんですね。」守田「そういうことになります。さて、本題の休まない社員への対応についてですが、基本的には面談をして、本人の意見を尊重した形で、有休を取得する日を決める、つまり時季指定をすることになります。」リエ「最後はひとりずつ、個別に決めていくしかないということですよね。」守田「そうなりますね。本来、有給休暇は労働者が自由に取得するものなので、本人が5日以上取得している場合は、会社は時季指定をすることができません。どうしても本人が取得しない場合に時季指定をする必要が出てきます。そして、時季指定を実施する場合は、その対象労働者の範囲や方法について就業規則に記載しなければならないのです。」リエ「え~、それは大変。なんとか本人から有休を取得してもらえるように、もう一度声をかけてみます。」守田「実は、会社全体で事前に有休の取得日を決めてしまう『計画的付与』という方法もあります。これは、本来稼働日である日を会社全体もしくはグループごとに有休取得日として休みにしてしまうことです。年末年始や夏季休暇にプラスしたり、祭日の合間に設定すれば大型連休になりますし、個別の記念日に設定することも可能です。」リエ「それで5日間設定してしまえば、取得したとかしないとかの確認をする必要はなくなりますよね。」守田「そういうことです。個人が自由に取得できる有給休暇を5日は残さなければいけないことと、やはり就業規則に記載する必要があること、そして労使協定を結ぶ必要がありますが、今後毎年の確認作業を考えると、いい制度だと思いますよ。」リエ「課長に提案してみます。」守田「もう一つ、忘れてはいけないのが年次有給休暇管理簿の作成です。労働者ごとに作成して、期間満了後3年間保存しなければなりません。大変ですけど対応をお願いしますね。」リエ「はい、頑張ります。ありがとうございました。」
2020.01.27 15:33:08