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複眼的視点を養おう! 税理士が身につけるべきコーディネート力

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1.土地の時価と相続税評価の関係

 相続税評価は路線価を基本とした評価額です。路線価は公示地価の8 割が目安ですが、その金額で遺産分割をするのではなく本来は時価で遺産分割を行う必要があります。相続実務の中では、路線価評価をもとに遺産分割をしている例が多いように感じています。時価と路線価が乖離しているケースは多々あります。

(1) 時価>路線価

 大きく乖離している例としては、都心部の土地があります。例えば東京都港区などの都心部は、時価と路線価の乖離がかなり大きな地域ですが、それにもかかわらず路線価で遺産分割を行うと相続人間での亀裂を生む結果となりかねません。

(2) 時価<路線価

 第三者の建物の敷地(普通借地)などは、税務上の借地権割合を控除した底地評価をもって市場売却することが厳しくなります。また、無道路地なども建築ができない土地であるため、時価は著しく低いといえます。税理士は無道路地を発見すると評価減が取れるため良いと考えてしまいがちですが、それは市場価値がないことを意味します。土地の価値に着目することが不動産実務では必要となります。

2.筆単位と利用区分単位

 遺産分割協議書には不動産登記との関係上、筆単位で記載しますが、土地評価は利用区分単位で行います。その点の乖離も把握しておく必要があります。
 同じ筆の中に複数の利用区分があったり、複数筆の中に1つの利用区分がまたがっていたりする場合には、利用区分をどう遺産分割協議に反映させるかを検討する必要があります。場合によっては、遺産分割前に分筆作業が必要になることもあります。

3.不動産のポテンシャル

 用途地域、建ぺい率・容積率、駅距離、インフラ整備等様々な要因で価格が決定されます。当然、需要の高い地域は価格は上がりますが、株価の上昇、金利の低下、インバウンド投資、オリンピック・万博開催、再開発予定、業者の売り渋りなどでも不動産価格は上昇します。相続財産に不動産がある場合には、不動産の価値に着目することが必要です。売却しない前提であれば、路線価は上がらない方が望ましく見えますが、路線価が上がらないということは魅力が変わらないことを意味します。そうすると、収益物件としてそのまま長年保有している場合には空室リスクが生じますので、やはり不動産の価値そのものに着目すべきといえます。

4.インカムゲインとキャピタルゲイン

 相続税の節税目的の不動産投資では、不動産のポテンシャルという概念がないがしろにされています。時価よりも相続税評価額の方が著しく低い物件が相続税対策で好まれますが、その理由は購入した瞬間に相続税対策になるからです。しかし、よく考えてみると、時価が高いということは利回りが悪いことを意味します。であればインカムゲインなどはほとんど期待できない状況です。また、もともと高い時価で購入しているということは売却という出口ではキャピタルゲインを得ることも期待しづらい状況といえます。
 このように、相続税対策という局地的な見方ではなく、出口までをトータルで見ることが税理士にも求められます。

5.不動産経営

 アパートのサブリースは手もかからずリスクヘッジ手段としては有効な策です。しかし、自らが経営者という感覚を忘れてしまう可能性も否めません。つまり、すべてをお任せにしてしまったことで「こんなはずじゃなかった」と感じる不動産オーナーが多いのも事実です。
 アパートであれば、家賃下落リスク・空室リスクが収入側、原状回復・大規模修繕・リフォーム・金利上昇などは支出側で検討すべきことです。このようなリスクを反映させたシミュレーションがされていれば、リスク管理はできていますが、多くはそうなっていないケースが目立ちます。そこは不動産オーナーの自己責任となってしまいますので、税理士が適切なアドバイスをする必要があります。
 木造アパートとRC マンションを比較すると、耐用年数が倍以上異なりますので、減価償却の発生年度に大きな差が生じます。木造アパートは22年で減価償却をしますが、RC マンションは47年で減価償却をします。減価償却がいつ切れるかを前もって不動産オーナーに伝えることで納税資金予測も目途が立ちます。
 大規模修繕の周期・金額も物件ごとに把握し、そこに向けてお金を貯める仕組み作りのお手伝いをするもの税理士の役目です。
 不動産賃貸業を経営している感覚を不動産オーナーに持ってもらうように税理士は働きかけをすべきと考えます。

このコンテンツの内容は、平成31年4月末日現在の法令等によっています。

資料提供(出典)

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書名:『税理士が身につけるべきコーディネート力』

著者:税理士 木下 勇人
発行日:2019年7月5日
発行元:株式会社 清文社
規格:A5判288頁

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 相続税評価は路線価を基本とした評価額です。路線価は公示地価の8 割が目安ですが、その金額で遺産分割をするのではなく本来は時価で遺産分割を行う必要があります。相続実務の中では、路線価評価をもとに遺産分割をしている例が多いように感じています。時価と路線価が乖離しているケースは多々あります。
2020.01.16 17:12:09