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潮流を見逃すな! 合同会社の活用が始まっている

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 合同会社は、アメリカのLLC(Limited Liability Company)をモデルに、平成18年5月施行の会社法により、企業の内部設計の自由化を図った企業形態として創設されました。  

 会社の所有と経営が一致し、社員の有限責任が確保され、会社の内部関係については組合的な規律が適用されるという特徴を有しています。創設当初の活用度は低かったのですが、2009年~2018年の設立数の推移をみると、この10年間で設立数が5倍になっており、2018年の設立数を株式会社との比較でみても、4件に1件は合同会社という状況になっています。

 これは株式会社に比べ安価に手軽に設立できることや規制が緩やかなどの側面に着目して、かつての有限会社のような感覚で受け入れられているようです。さらに働き方改革による雇用的自営の推奨、退職後の生活自衛的な起業などの増加など、一人会社として合同会社の活用を促す社会環境があります。

 ただ、合同会社は以下に述べるような株式会社と異なる優れた特徴があり、大学発ベンチャーに代表されるジョイント・ベンチャーや大手企業の事業部的な活用が目立ち始めています(アマゾンなど)。ここでは制度を中心にして税務上の留意点を説明しましょう。

合同会社の特徴

 合同会社の最大の特徴は、株式制度の対象外である「持分会社」にあります。もともとは、アメリカのLLC(Limited Liability Company)がモデルであることはお示しした通りですが、企業内の自由な制度設計を可能にする企業形態として期待をされていました。さらにアメリカのLLCは、会社自体に課税するのではなく、その社員(構成員)に課税することとされてから爆発的に普及した経緯もあり、構成員課税に対する期待も膨らんだものでした。

 ところが、蓋を開けてみると、構成員課税は将来の検討事項とされ、通常の株式会社と同じ法人課税がなされることとなりました。その時点で魅力は半減したのですが、一人会社的利用を中心に普及が促進されており、設立のし易さと制度設計の自由さが時代の要請に叶うようになってきたようです。

 まず、制度設計の自由性についてですが、前提条件は、合同会社が「持分会社」であり、「持分会社」であるゆえ、株式会社と違う特徴を有していることにあります。合同会社創設のときのキャッチフレーズが、「事業の実施の円滑化を図るため、共同事業を行う当事者間において、その事業に伴う利害状況に最適なルールを自由に設定することが合同会社の基本的な立法政策(相澤哲編著:一問一答会社法「改訂版」(商事法務、2009)」でした。

 つまり、立法当初は一人会社ではなく、複数の共同事業者(複数の社員)が想定していたのです。そして実務上、その会社の設立目的や規模、さらに社員数・社員が個人か法人かなどの属性を配慮して、それらにあった定款規定を柔軟に設けることができます。それにより、社員の利害を調整しやすくし、その事業の実施が円滑であることをセールスポイントとして普及を図ったのです。

自由な制度設計(社員制度)

 自由な制度設計が魅力といわれますが、それは合同会社では、①株主総会や取締役・取締役会などの機関を置く必要がないこと、②計算書類の公告義務がないこと、③規模が大きくなっても、会計監査人を設置する必要がなく、また内部統制を整備する必要がないこと、④法人も業務執行社員・代表社員になれることなどの特徴からいわれることです。

 株式会社でいう株主総会や取締役会がないということは、誰が経営の意思決定をし、実際の執行を行うのかが問題となります。合同会社では、社員が出資者兼業務執行権・代表権を有する者となります。つまり、株式会社と違って社員制度を通して経営と所有が一致するということが合同会社の特徴で、組合的な業務執行が行われることが経営の機動性を発揮する所以となっています。

 実際の運営では、定款自治の範囲がとても広く、社員の議決権の内容や、損益分配の割合、さらには業務執行の決定方法などについても、大きな裁量が与えられています。とりわけ、損益分配の割合を出資の比率で決める必要がないことが実務上の有益性を引き出していると考えられます。

「損益の分配」と「利益の配当」

 株式会社では、持株に応じて配当が決まります。1万株所有していた場合に、一株当たり3円の配当が割り当てられると3万円の配当金がもらえます。つまり、自分が出資した割合に応じて配当金をもらえるわけです。もっとも、会社の損益は計算上の問題で、株主から委任された役員が、その損益の状況を見て、配当金を増減させたり、無配当にしたりします。

 つまり株式会社の場合には、会社の損益(通常は利益)は、すべての株主の出資の割合に応じて割り当てられ(株式価値が増加し)、通常はその利益の中から配当の支払いが行われます。これに対し、合同会社においては、社員に対する損益の分配割合を定めることと、社員に分配された損益(利益)に相当する会社財産を利益の配当として現実に社員に払い戻すことが区別して定められています。

 出資と経営とが分離している株式会社と違って、合同会社は、原則として出資と経営が一致します。これが、損益の分配の自由なルールと実際の利益の配当を分離する必要性を生み出す背景となっています。

損益の分配と利益の配当

 合同会社における損益とは、会社法では、貸借対照表上の資産額と負債額との差額である純資産額と社員の出資財産の総額とを比較し、前者が後者を超える額を利益とし、後者が前者を超える額を損失とするのが原則です。そして、その損益の分配割合を定款で定めることができることになっています。定款で定める際に、損益の分配割合を出資割合に対応させる必要がないことが、株式会社との明確な違いになります。

 従って、合同会社では損益の分配は、拠出した出資金の割合にかかわらず、社員の話し合いで自由に決めることができるのです(具体的には、定款で自由に決めることができる。)。これに対し、利益の配当とは、分配された利益の配当について払い戻しを受ける行為をいいます。

 社員は、合同会社に対し、利益の配当を請求することができ(会社621条①)、利益配当の請求方法および、利益配当の方法等を利益配当請求権その他の事項として、定款で定めることができます(会社法621条②)。

 定款に定める利益の配当に関する事項は①時期、②回数、③財産の種類・額があります。会社は決算期末に計算書類は作成しなければならないので、定款に定めがなければ、利益配当は次年度の終わりに定期的に実行されますが、定めておけば、利益配当はいつでも何回でも利益配当をおこなうことができます。ただ、理論的にはできるとしても、計算上の便宜から、年に1~2回が適当と考えられます。さらに利益配当は、株式会社同様に、定款に定めてなくても、金銭以外の財産を交付することは認められています。

損益の分配の阻害要因

 ところで、合同会社の利点として、出資比率に影響されない損益分配が挙げられます、ところが、実務的に税務の取扱いが明確になっていない部分があります。それは、損益の分配割合が異なる社員間の経済的利益の無償移転の問題です。先ほどの例でいうと、大学教官が100で、企業が9900の出資をしているにもかかわらず、損益分配を50:50にしたようなケースでは、その利益に貢献した割合を税務署に的確に説明できるかどうかが問題になります。「利益貢献度割合は30:70じゃあないか。」と税務署に指摘された場合に、配当の20%が会社から大学教官へ移転した(贈与した)と見做されるからです。

 合理的な説明を思いつかないので、出資割合に応じて配当するケースが見受けられるのですが、損益割合の理由付けは税理士の手腕にかかっていると思われます。

執筆者情報

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税理士 坂部 達夫

1956年静岡県生まれ。明治大学経営学部卒業後、会計事務所勤務。
税理士資格を取得し、1989年1月税理士事務所開業。同時に経営とファイナンスのコンサルティング会社として (株)アサヒ・ピジネスセンター設立、代表取締役就任。
1997年筑波大学大学院修士課程経営・政策科学研究科企業法学修了。
東京税理士会、日本税務会計学会副学会長(法律部門)、会員相談室委員法人税担当。
『住宅の税金Q&A』、『損保代理店のための税務知識』、『持株会社の法務と実務(共著)』、『小さな会社の税務・事務手続き一切』『現物給付課税の実務(共著)』他執筆多数。

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2019.11.20 15:24:58