相続の遺産分割協議がまとまらない!
リエ「黒田さん。旭課長が相談したいことがあると仰っていましたよ。」
黒田「旭課長がですか? 何でしょうね。」
旭課長「あー! 黒田さん。ちょうどいいところにいた。ちょっと相談よろしいですか?」
黒田「はい。どうしました?」
旭課長「知人の父親が亡くなったのですが、その遺産をめぐって相続人の間で揉めているようなのですよ。」
リエ「それは大変ですね。」
旭課長「そうなんだよ。相続が発生する前は仲の良い関係だったらしいんだけど、徐々に徐々に関係が悪化していったそうなんだ。」
黒田「相続税の申告は必要なのですか?」
旭課長「そこなんですよ! 相続税の申告期限が近づいてきているのに話がまとまっていないことをすごく心配しているのです。」
リエ「仕方ないので遺産分割協議がまとまり次第、期限後に申告するしかないのでは?」
黒田「いえいえ。相続の発生から10ヵ月以内に申告・納税をしなかった場合、加算税や延滞税を余分に払わなくてはいけません。ですから、遺産分割がまとまっていない場合は、法定相続分で相続したと仮定して、申告期限内にいったん申告・納付を済ませます。」
リエ「法定相続分で申告・納税するのですか?」
黒田「はい。そして遺産分割協議がまとまったら、修正申告もしくは更正の請求を行い、相続税の納税額が不足していた人は不足分を納税し、過払いしていた人は還付してもらいます。」
旭課長「なるほど。仮にでも申告・納税しておくことでペナルティを抑えるのですね。」
黒田「そうです。ただし、未分割申告の注意点があります。主なものとしては小規模宅地等の課税価格の特例及び配偶者の税額軽減の特例を受けることができません。」
リエ「たしか小規模宅地等の課税価格の特例というのは、事業用や居住用宅地等の評価で一定の割合を減額できるもので、配偶者の税額軽減の特例というのは、配偶者は法定相続分または1億6000万円のどちらか大きい金額までは相続税がかからないという特例ですよね。これらが適用できないのは大きいですね。」
黒田「そこで、相続税を申告する際に『申告期限後3年以内の分割見込書』を添付して提出します。そうすることで相続税の申告期限から3年以内に分割が行われた場合は、分割が行われた日の翌日から4ヵ月以内に更正の請求を行い、これらの特例が適用できます。」
リエ「相続税の申告期限から3年以内に分割が行われなかった場合はどうなるのですか?」
黒田「相続に関する訴えが提起されているなど一定のやむを得ない事情がある場合は、申告期限後3年を経過する日の翌日から2ヵ月を経過する日までに『遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書』を提出し、所轄税務署長の承認を受けた場合には、判決の確定など一定の日の翌日から4ヵ月以内に分割を行い、分割が行われた日の翌日から4ヵ月以内に更正の請求を行えば、これらの特例が適用できます。」
旭課長「なるほど。でもできれば申告期限内にすんなり遺産分割を決めたいものですね。」
黒田「そうですね。結果として特例を適用できたとしても、一時的に多額の納税資金が必要になる場合がありますからね。」