HOME コラム一覧 教えてください! 空き家に係る譲渡所得の特別控除

教えてください! 空き家に係る譲渡所得の特別控除

post_visual

リエ「知人のお母様が昨年入居先の老人ホームでお亡くなりになり、お母様が生前住んでいた実家をその知人が相続しました。相続した建物が古く老人ホームに入居後は空き家になっていましたので、手を加えないと人に貸すこともできないため売却する方向で考えているようなのです。売却するにあたって、老人ホームに入居していたことから譲渡益が出た場合、空き家に係る譲渡所得の特例制度の適用を受けることができないのではないかと尋ねられました。この空き家に係る譲渡所得の特例制度の言葉は知っていたのですが、具体的な内容が分からないので返答することもできませんでした。この制度の概要について教えて頂けますか。」

黒田「分かりました。被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特例制度の概要は、相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋又は相続人居住用家屋の敷地等を、相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡した場合には、その得た譲渡益に対し3000万円までの特別控除が認められる制度です。また、この制度は、特例の対象となる相続した家屋について、被相続人が相続の開始直前において一人で居住していることが要件でしたが、平成31年4月1日以後の譲渡については、被相続人が老人ホーム等に入居していた場合も、一定要件を満たした場合に限り、適用対象に加わることとなりました。
 また特例の適用期間も令和5年12月31日まで延長されました。」

リエ「一定の要件を満たすとは?」

黒田「まず要件を満たす老人ホーム等として、『老人福祉法に規定する認知症対応型老人共同生活援助事業が行われる住居、養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、軽費老人ホーム、有料老人ホーム』、『介護保険法に規定する介護老人保健施設、介護医療院』、『高齢者の居住の安定確保に関する法律に規定するサービス付き高齢者向け住宅』、『障害者総合支援法に規定する障害者支援施設又は共同生活援助を行う住居』が掲げられています。」

リエ「老人ホームや介護施設と一口にいっても様々な種類の施設が存在しているのですね。」

黒田「そのようですね。さらにその他の要件ですが、(1)被相続人が老人ホーム等の入居直前に『介護保険法に規定する要介護認定、要支援認定』、『障害者総合支援法に規定する障害支援区分の認定』のいずれかを受けていて相続開始の直前まで老人ホーム等に入居し、かつ、老人ホーム等入居直前にその家屋に居住していたこと、(2)老人ホーム等入居後、被相続人が家屋を一定使用し、かつ、事業の用、貸付けの用、被相続人以外の居住の用に供されていないこと、(3)老人ホーム等入居直前に、被相続人以外の入居者がいなかったことが、老人ホーム等に入居していた場合の要件とされています。」

リエ「被相続人が家屋を一定使用していたというのは、どの程度使用していればよいのですか。」

黒田「被相続人が一時滞在で使用していたことや、家財道具等の保管場所として使用していたことが挙げられます。」

リエ「それってどうやって証明するんですか。」

黒田「この制度を適用する場合、その家屋や土地が所在する市町村が様々な書類に基づいて、過去から現在に至る使用状況の確認を行います。そしてその結果として『被相続人居住用家屋等確認書』が交付されますので、この確認書を所得税の確定申告書に添付することによって要件が満たされていることを証明します。」

リエ「ということは、事前に市役所等で手続きをしないといけないということですか。結構面倒なんですね。」

黒田「そうですね。使用状況以外にも昭和56年5月31日以前に建築されたこや区分所有建物(マンション)でないこと、家屋を売却するのであれば耐震基準を満たしていること、売却金額が1億円以下であることといった要件がありますので、これらは登記事項証明書や耐震基準適合証明書、売買契約書などで証明することになります。
 また、『相続税が取得費に加算される特例』との併用不可、通常の『居住用財産を譲渡した場合の3000万円の特別控除の特例』があった場合の控除額の制限など、他の特例との関係にも念のため注意したほうがいいでしょう。」

リエ「う~ん、色々あり過ぎて伝えきれないかもしれませんが、頑張って知人に話してみます。」

監修

profile_photo

税理士 坂部達夫

坂部達夫税理士事務所/(株)アサヒ・ビジネスセンター

 東京都墨田区にて平成元年に開業して以来、税務コンサルを中心に問題解決型の税理士事務所であることを心がけて参りました。
 おかげさまで弊所は30周年を迎えることができました。今後もお客様とのご縁を大切にし、人に寄り添う税務に取り組んでいきます。

メールマガジンやセミナー開催を通じて、様々な情報を発信しています。

この記事のカテゴリ

この記事のシリーズ

OLリエちゃんの経理奮闘記

記事の一覧を見る

関連リンク

法人企業統計調査から見えてくること

税務・会計に関する情報を毎週無料でお届けしています!

メルマガ登録はこちら


コラム
/column/2019/img/thumbnail/img_07_s.jpg
リエ「知人のお母様が昨年入居先の老人ホームでお亡くなりになり、お母様が生前住んでいた実家をその知人が相続しました。相続した建物が古く老人ホームに入居後は空き家になっていましたので、手を加えないと人に貸すこともできないため売却する方向で考えているようなのです。売却するにあたって、老人ホームに入居していたことから譲渡益が出た場合、空き家に係る譲渡所得の特例制度の適用を受けることができないのではないかと尋ねられました。この空き家に係る譲渡所得の特例制度の言葉は知っていたのですが、具体的な内容が分からないので返答することもできませんでした。この制度の概要について教えて頂けますか。」黒田「分かりました。被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特例制度の概要は、相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋又は相続人居住用家屋の敷地等を、相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡した場合には、その得た譲渡益に対し3000万円までの特別控除が認められる制度です。また、この制度は、特例の対象となる相続した家屋について、被相続人が相続の開始直前において一人で居住していることが要件でしたが、平成31年4月1日以後の譲渡については、被相続人が老人ホーム等に入居していた場合も、一定要件を満たした場合に限り、適用対象に加わることとなりました。 また特例の適用期間も令和5年12月31日まで延長されました。」リエ「一定の要件を満たすとは?」黒田「まず要件を満たす老人ホーム等として、『老人福祉法に規定する認知症対応型老人共同生活援助事業が行われる住居、養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、軽費老人ホーム、有料老人ホーム』、『介護保険法に規定する介護老人保健施設、介護医療院』、『高齢者の居住の安定確保に関する法律に規定するサービス付き高齢者向け住宅』、『障害者総合支援法に規定する障害者支援施設又は共同生活援助を行う住居』が掲げられています。」リエ「老人ホームや介護施設と一口にいっても様々な種類の施設が存在しているのですね。」黒田「そのようですね。さらにその他の要件ですが、(1)被相続人が老人ホーム等の入居直前に『介護保険法に規定する要介護認定、要支援認定』、『障害者総合支援法に規定する障害支援区分の認定』のいずれかを受けていて相続開始の直前まで老人ホーム等に入居し、かつ、老人ホーム等入居直前にその家屋に居住していたこと、(2)老人ホーム等入居後、被相続人が家屋を一定使用し、かつ、事業の用、貸付けの用、被相続人以外の居住の用に供されていないこと、(3)老人ホーム等入居直前に、被相続人以外の入居者がいなかったことが、老人ホーム等に入居していた場合の要件とされています。」リエ「被相続人が家屋を一定使用していたというのは、どの程度使用していればよいのですか。」黒田「被相続人が一時滞在で使用していたことや、家財道具等の保管場所として使用していたことが挙げられます。」リエ「それってどうやって証明するんですか。」黒田「この制度を適用する場合、その家屋や土地が所在する市町村が様々な書類に基づいて、過去から現在に至る使用状況の確認を行います。そしてその結果として『被相続人居住用家屋等確認書』が交付されますので、この確認書を所得税の確定申告書に添付することによって要件が満たされていることを証明します。」リエ「ということは、事前に市役所等で手続きをしないといけないということですか。結構面倒なんですね。」黒田「そうですね。使用状況以外にも昭和56年5月31日以前に建築されたこや区分所有建物(マンション)でないこと、家屋を売却するのであれば耐震基準を満たしていること、売却金額が1億円以下であることといった要件がありますので、これらは登記事項証明書や耐震基準適合証明書、売買契約書などで証明することになります。 また、『相続税が取得費に加算される特例』との併用不可、通常の『居住用財産を譲渡した場合の3000万円の特別控除の特例』があった場合の控除額の制限など、他の特例との関係にも念のため注意したほうがいいでしょう。」リエ「う~ん、色々あり過ぎて伝えきれないかもしれませんが、頑張って知人に話してみます。」
2019.10.07 17:04:40