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労働時間管理の重要性

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 弁護士の関です。
 当法人は各弁護士によって若干の差こそあるものの、労働事件について、基本的には使用者側、労働者側のいずれからもご相談ないし事件のご依頼を承っております。その際、例えば未払残業代請求事件等の労働時間が焦点になる事案において、両者いずれの立場で関わったとしても、当該会社の労働時間管理の杜撰さ、曖昧さに驚くことが少なくありません。
 言うまでもなく労働者の労働時間の適切な管理は使用者側に課された重大な責務です。そもそも使用者は従業員の労働時間等の労働条件を適正に設定・管理する義務を負っており(労働契約法5条,労働安全衛生法65条の3,最判平成12年3月24日(電通事件))、さらに労働時間については客観的管理把握義務を負っています(労基法37条,108条,109条・同法施行規則54条1項4から6号,平成13年4月6日基発339号(いわゆる4・6通達))。特に厚生労働省による同通達は、使用者に対して労働者の始業・終業時間につき、原則として使用者自ら現認ないしタイムカード・ICカード等の客観的な記録によって管理する義務を課しており、さらにその際、前者の場合には当該労働者から、後者は残業明細書等の記録と照合するなどで確認すべきものとされています。同通達は、例外的に、自己申告制によらざるを得ない場合には、使用者は適正な申告を理由に不利益取扱いをしないことを十分説明し、使用者自らも実態調査を行うなどの措置を講ずべきとしています。
 先生方が税務をご担当されている会社は、従業員の方の労働時間を正確に把握されていますか。出勤簿等のアナログな方法で管理されていませんか。何の説明もしないまま労働者に自己申告制を取らせていませんか。
 従業員の労働時間につき適切な管理を行っておりませんと、万が一労働紛争等が発生した場合、会社にとって不利な事実認定がなされる可能性もございます。例えば、ゴムノイナキ事件(大阪高判平成17年12月1日・労働判例933号69頁)は、タイムカード等による出退勤管理をしていなかったのは、専ら会社の責任であり、これを労働者の不利益に扱うべきではないし、会社自身、休日出勤・残業許可願を提出せずに残業している従業員が存在することを把握しながら、これを放置したことが窺われることなどから、具体的な終業時刻や従事した勤務の内容が明らかではないことをもって、時間外労働の立証が全くなされていないとして扱うのは相当でないとした上で、概括的に一定の時間外労働を認めました。
 いわゆる残業代請求について訴訟となった際に、労働者側が主張する労働時間が採用されれば、当該労働時間に基づいて算出された高額な残業代、労務管理に方法について悪質性が認められれば場合によっては付加金が(労基法114条)、会社の経営状態に深刻な影響を及ぼすことも十分に考えられます(言うまでもなく、杜撰な労働時間の管理を継続して行っている会社が、労働者に対し適正な残業代を支払っていることは通常想定できません)。
 もちろんすでに説明したように、客観的記録以外の手段で労働時間を管理することが許容される場合もございますので、一度ご担当されている会社の労働時間の管理方法を改めて確認、検討されてはいかがでしょうか。そして、問題が存在する場合には、専門家にご相談されることをお勧めいたします。

執筆者情報

弁護士 関 五行

弁護士法人ALAW&GOODLOOP

会計事務所向け法律顧問
会計事務所向けセミナー

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 弁護士の関です。 当法人は各弁護士によって若干の差こそあるものの、労働事件について、基本的には使用者側、労働者側のいずれからもご相談ないし事件のご依頼を承っております。その際、例えば未払残業代請求事件等の労働時間が焦点になる事案において、両者いずれの立場で関わったとしても、当該会社の労働時間管理の杜撰さ、曖昧さに驚くことが少なくありません。 言うまでもなく労働者の労働時間の適切な管理は使用者側に課された重大な責務です。そもそも使用者は従業員の労働時間等の労働条件を適正に設定・管理する義務を負っており(労働契約法5条,労働安全衛生法65条の3,最判平成12年3月24日(電通事件))、さらに労働時間については客観的管理把握義務を負っています(労基法37条,108条,109条・同法施行規則54条1項4から6号,平成13年4月6日基発339号(いわゆる4・6通達))。特に厚生労働省による同通達は、使用者に対して労働者の始業・終業時間につき、原則として使用者自ら現認ないしタイムカード・ICカード等の客観的な記録によって管理する義務を課しており、さらにその際、前者の場合には当該労働者から、後者は残業明細書等の記録と照合するなどで確認すべきものとされています。同通達は、例外的に、自己申告制によらざるを得ない場合には、使用者は適正な申告を理由に不利益取扱いをしないことを十分説明し、使用者自らも実態調査を行うなどの措置を講ずべきとしています。 先生方が税務をご担当されている会社は、従業員の方の労働時間を正確に把握されていますか。出勤簿等のアナログな方法で管理されていませんか。何の説明もしないまま労働者に自己申告制を取らせていませんか。 従業員の労働時間につき適切な管理を行っておりませんと、万が一労働紛争等が発生した場合、会社にとって不利な事実認定がなされる可能性もございます。例えば、ゴムノイナキ事件(大阪高判平成17年12月1日・労働判例933号69頁)は、タイムカード等による出退勤管理をしていなかったのは、専ら会社の責任であり、これを労働者の不利益に扱うべきではないし、会社自身、休日出勤・残業許可願を提出せずに残業している従業員が存在することを把握しながら、これを放置したことが窺われることなどから、具体的な終業時刻や従事した勤務の内容が明らかではないことをもって、時間外労働の立証が全くなされていないとして扱うのは相当でないとした上で、概括的に一定の時間外労働を認めました。 いわゆる残業代請求について訴訟となった際に、労働者側が主張する労働時間が採用されれば、当該労働時間に基づいて算出された高額な残業代、労務管理に方法について悪質性が認められれば場合によっては付加金が(労基法114条)、会社の経営状態に深刻な影響を及ぼすことも十分に考えられます(言うまでもなく、杜撰な労働時間の管理を継続して行っている会社が、労働者に対し適正な残業代を支払っていることは通常想定できません)。 もちろんすでに説明したように、客観的記録以外の手段で労働時間を管理することが許容される場合もございますので、一度ご担当されている会社の労働時間の管理方法を改めて確認、検討されてはいかがでしょうか。そして、問題が存在する場合には、専門家にご相談されることをお勧めいたします。
2019.09.26 16:22:32