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「在宅勤務の対応」 税理士業界内では“容認”の方向性強まる 導入事務所はグレーゾーン払拭で追い風

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日本税理士会連合会制度部の見解が話題に

 これまで、税理士および税理士事務所職員の「在宅勤務」、いまで言う「テレワーク」や「モバイルワーク」については、税理士法上の観点からその是非が問われ続けてきたが、日本税理士会連合会(日税連)制度部の見解が引き金となり、「在宅勤務」の容認と捉えられるような動きが出てきた。それに加え、東京税理士会でも今年の定期総会の質疑応答で、「在宅勤務は現行法上問題なく、職員の在宅勤務も許される」という、公式見解ともとれる発言があり、業界内で話題となっている。「テレワーク」を導入したい税理士らにとっては、グレーゾーン払拭の“追い風”になりそうで、それを見越してテレワークによる職員採用に踏み切る税理士も出てきている。
 
 税理士業界における「在宅形態」といえば、税理士事務所が存在し、所長税理士自ら在宅で業務に対応したり、従業員が在宅で勤務することが想定されるが、現行法ではどちらも制限が掛かっているのが現状だ。しかし最近では、国が奨める働き方改革に伴う「テレワークの推進」をはじめ、「事務所の人材不足」「事務所IT化」などを背景に、時代の変化にあわせた対応を求める声が日増しに高まっていた。

「バーチャル勤務」という選択肢

 東京・新宿区で開業する杉山靖彦税理士はこのほど、テレワークでなく「バーチャル勤務」という新しい採用形態を取り入れ、北海道という遠隔地からの正社員採用に成功している。テレワークのように、事務所から仕事を外に出すのではなく、ネット越しに事務所に勤務をして、事務所内で仕事をしてもらうというスタイルだ。一般的に「テレワーク」では、在宅スタッフの仕事ぶりを常に監視することは難しいが、杉山税理士の場合、東京の事務所スタッフと同じように正社員として勤務してもらうため、ウェブカメラ越しに顔を見せながら仕事に従事する仕組みを取り入れた。「バーチャル勤務」を可能するための環境整備の要件として、専用パソコンやモニター、タブレット型端末、ネット環境をはじめ、いつでも会話ができるツールとして、クラウドPBXビジネスフォンを導入。作業指示もパソコンでのリモート指導ができる環境を構築した。

 これまで採用はエン・ジャパン(株)が運営するインターネットの無料求人サイトを利用。今回の募集では、福利厚生面の「テレワーク・在宅OK」という条件面に合致した応募者が数日間で6名ほど集まり、スカイプ面接を実施。際立った給与待遇を示さなくても採用が決定したことで、「テレワーク人気には驚いた」(杉山氏)と話す。

 また、税理士法の観点からも「所長税理士として、管理・監督、そして指導をしなくてはならないので、画面共有できる環境を整備。スタッフ間での引継ぎも画面共有できているのでスムーズに処理できる」(杉山氏)としている。

 こうした「バーチャル勤務」を導入すれば、職員がそれぞれ物理的に離れた場所にいて直接対面する機会が少なくても、ITツールなどを活用してコミュニケーションも円滑に取れる。事務所にとっても通勤費等がかからず、人件費や事務所経費が削減できる。

 人材問題の解決方法としてクローズアップされる『在宅スタッフ』を活かした人材採用の手法。それを上手に運用するためには、会計事務所として在宅機能を活かすための仕組みが必要ではあるが、従来の雇用形態に固執しない「在宅ワーク」は今後も増えることは確実視される。税理士側もテレワークの必要性を感じているだけに、業界としても早急な体制整備が求められている。

「二ヶ所事務所禁止規定」抵触について

 こうした動きに対して、日税連制度部では、在宅問題の見解をまとめている。それによると、税理士法上の「事務所設置の義務規定」や税理士法第40条第3及び4項の、いわゆる「二ヶ所事務所禁止規定」を変えるつもりはなく、「テレワーク」に関してサテライトオフィス等を利用する「施設利用型勤務」については、「二ヶ所事務所」にあたるとして、問題視。それ以外の、自宅勤務や出張先ホテル等で作業する「モバイルワーク」については、現行法上問題ないとした見解が示されている。

 その上で日税連では、「次期税理士法改正に関する答申」作業の中で、11月末を期限に会員から意見を募集している。答申の中で言及されたのは、「税理士事務所におけるテレワークについて一定の指針を設けるべき」とした点だ。これは運用に関する意見を広く求めているもので、業界内では、「在宅勤務」は容認されたのも同然という見方ができる。
 
 東京税理士会総会においても、在宅勤務がこの「二ヶ所事務所禁止規定」に抵触するかどうかについての質問で、「在宅勤務については、税理士自身が事務所での業務の他に、自宅で業務を行うことは税理士法第40条違反とはならない」とし、また、事務所職員については、「税理士法第42条の2による所長税理士の管理・監督が行き届く自宅等のテレワークであれば問題ない」とした見解が示された。子育てや介護等の両立を目的とした職員の「在宅勤務」も、これによると問題なしとみなすことができる。

ニーズに対応した体制整備が求められる

 税理士事務所の業務は定型化されている仕事をルーチンで繰り返す作業が多い。そのため、業務を外注化、在宅化しやすく、クラウドやAIなどのテクノロジーの進化で業務の自動化やアウトソーシング化は既に実現している。単に職員の欠員補充といった発想だけでなく、働き方改革に伴う人材戦略や効率化経営といった観点からも、この「在宅スタッフ」には熱い視線が注がれている。

 すでに、会計人材採用大手の企業によると、「会計事務所の採用で在宅勤務できる求人が増えている」という。在宅制度やインフラを整え、在宅ワークを推奨する事務所も目立ち、子育てしながら働きたい女性にとってはフレキシブルな働き方ができるため、在宅勤務やリモートワークを奨めている会計事務所が人気の求人先の一つになっているという。
 最近では、会計事務所経験があり、入力業務やデータチェック、監査業務の補助など、幅広くスキルに応じた様々な仕事が選べるようになってきている。

 業界内では、こうした「在宅スタッフ」を活用して、事務所の人材採用や時短、顧客への満足度の高いサービスを提供する事務所も出始めており、税理士会のオフィシャル的な見解が、職員の「在宅活用の道」を大きく後押しする起爆剤ともなりそうだ。

資料提供

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 これまで、税理士および税理士事務所職員の「在宅勤務」、いまで言う「テレワーク」や「モバイルワーク」については、税理士法上の観点からその是非が問われ続けてきたが、日本税理士会連合会(日税連)制度部の見解が引き金となり、「在宅勤務」の容認と捉えられるような動きが出てきた。それに加え、東京税理士会でも今年の定期総会の質疑応答で、「在宅勤務は現行法上問題なく、職員の在宅勤務も許される」という、公式見解ともとれる発言があり、業界内で話題となっている。「テレワーク」を導入したい税理士らにとっては、グレーゾーン払拭の“追い風”になりそうで、それを見越してテレワークによる職員採用に踏み切る税理士も出てきている。  税理士業界における「在宅形態」といえば、税理士事務所が存在し、所長税理士自ら在宅で業務に対応したり、従業員が在宅で勤務することが想定されるが、現行法ではどちらも制限が掛かっているのが現状だ。しかし最近では、国が奨める働き方改革に伴う「テレワークの推進」をはじめ、「事務所の人材不足」「事務所IT化」などを背景に、時代の変化にあわせた対応を求める声が日増しに高まっていた。
2019.08.26 17:15:42