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民事執行法改正法の概要について

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1.はじめに

 本年5月10日、「民事執行法及び国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律の一部を改正する法律案」という法律案が国会を通過しました。
 この法案は、タイトルどおり、(1)民事執行法と、(2)国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律を改正するための法律案ですが、今回は、このうち、(1)民事執行法の改正部分のうち、特に、債務者財産の開示制度の実効性の向上を目的とした改正点について、その概要を説明します。

 民事執行法の改正に関しては、平成28年に法務省法制審議会において民事執行法部会が設置されてより、これまで、平成29年9月には中間とりまとめがなされ、平成30年8月には、要綱案が示されるなどしておりましたが、今般、衆議院での修正を経て、衆参両院で可決されたという経緯をたどっております。

 従前、民事執行法では、強制執行の際、対象となる債務者の財産の状況を確認するため、財産開示制度を置いていましたが、現行の同制度は、罰則の内容を含め、強制力に欠けており、実効性に乏しいとの指摘があり、これを裏付けるように、利用数も多くなく、財産開示の申立てがあったもののうち、実際に財産開示がなされたものは全体の3割程度にとどまる等といった状況でした(民事訴訟部会第2回会議部会資料2より)。今回の改正では、その実効性を向上することを大きな目標として掲げています。

 それでは、中身を見ていきます。

2.財産開示手続の実施要件の見直し

 まず、財産開示手続の実施要件が見直されました。従前、支払督促以外の確定判決や、それと同一の効力を有する債務名義、訴訟費用等のほかの債務名義では、財産開示手続を申し立てることができないこととされていましたが(現行法197条1項柱書括弧書)、今般、この括弧書きが削除されたことにより、これら以外の債務名義によっても、同手続を採ることができるようになりました(改正法197条1項)。これにより、財産開示手続の門戸を広げ、より活用しやすい状況を作り出そうとしたといえるでしょう。

3.手続違背に対する罰則の見直し

 上述のとおり、財産開示制度における罰則はあまりに軽微であるため(30万円以下の過料)、債務者に手続を遵守させる動機付けとなっていないとの批判があったところですが、改正により、これを6月以上の懲役または50万円以下の罰金と改めました。
 懲役刑が創設されたことにより、財産開示制度の強制力は高まることが予想されるものの、過料についても、その適用に消極的であった裁判所が、躊躇することなく毅然とした運用を行うかどうかは、今後の課題と思われます。

4.第三者から債務者財産に関する情報を取得する制度の新設

 財産開示制度は、債務者自身から財産に関する情報を取得する制度であり、第三者から財産の情報を取得するためには、主に弁護士法23条の2による弁護士会を通じた照会がなされてきたところですが、改正法では、民事執行法の中に、第三者から債務者財産に関する情報を取得する制度を創設することとなりました(改正法204条以下)。
 これにより、一定の者は、一定の事柄について、公的な機関や金融機関等に対し、情報を提供することを命ずるよう、裁判所に申立てをできることになりました。
 まず、対象となるのは、登記官に対して、債務者が所有権の登記名義人である土地・建物その他のものの強制執行又は担保権実行のために必要な事項、市町村、日本年金機構等に対して、給与債権等に関する事項(条文のタイトルからすると、給与債権を対象としている者と思われますが、指定は最高裁判所規則で定めることとされているため、具体的にどのようなものを対象とするかは不明です)、銀行等、振替機関等に対して預貯金債権などの事項です。
 次に、申立てをできる者ですが、(1)執行力のある債務名義の正本を有する金銭債権の債権者、及び(2)債務者の財産について一般の先取特権を有することを要する文書を提出した債権者が、これに当たります。
 現状で、弁護士法23条の2による照会を行っても、これを拒否する機関があることや、差押えのための口座の特定に苦慮している状況などに鑑みれば、手続が一元化し、かつ裁判所による強制力ある命令による情報提供がなされるようになることは、民事執行の実効性確保のために、かなり有用ではないかと思われるところです。

5.最後に

 我が国の民事訴訟システムのもとでは、民事訴訟は、事実認定・法の適用を行い、権利関係を明らかにし、判決などの債務名義を取得する制度、民事執行は、任意の解決が難しい場合に、別途の裁判所への申立てにより、強制執行を行う制度という二段階に分かれ、この強制執行の部分が必ずしも十分に機能していないというところから、民事訴訟システム全体への信頼性に揺らぎが生ずる現状が生じつつありました。
 今回の民事執行法の改正は、民事訴訟の機能不全をある程度回復し、裁判をすることにより、しっかりと権利を実現することができる制度にする第一歩を踏み出したものといえるのではないでしょうか。
 我々弁護士も、財産が見当たらない場合に、判決をとったあとどうなるのか、と質問された際など、少なからず回答に苦慮していたところですが、今回の改正により、依頼者に対し、権利実現のために裁判が有用であると胸を張って説明できるようになることを期待したいと思います。

執筆者情報

弁護士 吉井 和明

弁護士法人ALAW&GOODLOOP

会計事務所向け法律顧問
会計事務所向けセミナー

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2019.05.30 17:32:07