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違法、無効、不当

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1.処分の違法と無効

 総額主義の下、課税処分は、その納付すべき税額が、実体と比して過大である場合に 違法となる。
 課税処分を違法を理由として取り消すためには、所定期間内に不服申立てをするという、法定の手続によらなければならない。当該法定手続による取消しがあるまでは、課税処分は、公定力により、有効なものとして存続する。
 したがって、当該法定手続を経ずに、納税者が、国を被告として、租税債務不存在確認訴訟ないしは不当利得返還請求訴訟を提起し、課税処分の違法を主張しても、主張自体失当となる。
 ただし、当該処分が、単に違法であるということを超え、重大明白な瑕疵があって無効といえるならば、そもそも処分は有効ではなく、納付すべき税額も確定していないことになる。
 このような場合には、法定の取消し手続を経ていなくても、すなわち、不服申立期間内に不服申立てをしていなくても、納税者は救済される。すなわち、国を被告とした租税債務不存在確認訴訟等で、納税者は課税処分の無効を主張することが許される。なお、課税処分を無効とした例として、最高裁昭和48 年4 月26 日判決・民集 27 巻3 号629 頁がある(甲が、その所有土地につき、ほしいままに、乙に対する所有権移転登記を経由したうえ、同人名義で丙に売却した等判示のような事情のある場合においては、乙が事後において明示又は黙示的にこれを容認した等の特段の事情のないかぎり、乙に譲渡所得があるとしてなされた課税処分は、当然無効と解すべきであるとされた)。

2.違法性の承継(課税処分の違法と徴収処分の違法)

 徴収処分は、納付すべき税額について行われるものである。納付すべき税額が課税処分によって確定していた場合、当該課税処分が違法であっても、これが法定の手続によって取り消されるまでは、有効なものとして存続するので、当該課税処分に基づいてされた徴収処分は違法とならない。このことを、課税処分の違法性は徴収処分に承継されない、と表現することがある。
 ただし、上記のように課税処分が無効であれば、これを前提とする徴収処分は、納税義務のないところに徴収処分を行っているのであるから、違法である。
 したがって、徴収処分の不服申立てにおいては、①課税処分が単に違法であると主張することは主張自体失当であるが、②課税処分の無効を主張することは許される。
 なお、源泉所得税の納税告知処分は、徴収処分であるが、告知の前提となる納税義務の存否・範囲という実質面の違法も主張できるとされている。源泉所得税は自動確定の租税であり、課税処分によって確定されるわけではないから、実体として過大な源泉所得税に係る納税告知処分は、納税義務のないところに徴収処分を行っているということにほかならず、違法である。
 また、第二次納税義務の納税告知処分については、主たる納税義務の誤りをどのように主張することができるかという問題がある。

3.申告の無効

 処分の無効とは別に、申告にも「無効」という概念があり、二つの類型がある。
 まず、申告は、私人の公法的行為であり、本人(ないし本人が委任した者)によって行われなければならない。本人の意思のないところで、第三者が無断で本人名義の申告書を提出しても、本人の申告としては無効である(本人の申告は不存在である)。
 次に、本人(ないし本人が委任した者)が申告書を提出していても、錯誤によって無効となることが理論上はあり得る。ただし、その錯誤が客観的に明白かつ重大であって、更正の請求の方法以外にその是正を許さないならば、納税義務者の利益を著しく害する特段のある事情がある場合に限定される。

4.不当

 不当とは、法に違反しておらず違法ではないが、制度の目的から見て適切でないことである。
 税務署長に処分するか否かの裁量権が委ねられている場合がある。たとえば、青色申告承認取消し処分は、所定の事由があった場合に必ず行わなければならないものではなく、処分を行うか否かが税務署長の裁量に委ねられている(所得税法第150条、法人税法第127条)。
 裁判所は、処分が違法でなければ取り消すことはできないが、行政不服審査(再調査の請求、審査請求)では、処分が違法とまでは言えなくとも、不当と言える場合には、処分を取り消すこととなる。

資料提供(出典)

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書名:税務弁護の手引き

発行日:2018年11月6日
発行元:株式会社 清文社
規格:A5判560頁

著者:弁護士・税理士 坂田真吾

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 総額主義の下、課税処分は、その納付すべき税額が、実体と比して過大である場合に 違法となる。 課税処分を違法を理由として取り消すためには、所定期間内に不服申立てをするという、法定の手続によらなければならない。当該法定手続による取消しがあるまでは、課税処分は、公定力により、有効なものとして存続する。 したがって、当該法定手続を経ずに、納税者が、国を被告として、租税債務不存在確認訴訟ないしは不当利得返還請求訴訟を提起し、課税処分の違法を主張しても、主張自体失当となる。 ただし、当該処分が、単に違法であるということを超え、重大明白な瑕疵があって無効といえるならば、そもそも処分は有効ではなく、納付すべき税額も確定していないことになる。 このような場合には、法定の取消し手続を経ていなくても、すなわち、不服申立期間内に不服申立てをしていなくても、納税者は救済される。すなわち、国を被告とした租税債務不存在確認訴訟等で、納税者は課税処分の無効を主張することが許される。なお、課税処分を無効とした例として、最高裁昭和48 年4 月26 日判決・民集 27 巻3 号629 頁がある(甲が、その所有土地につき、ほしいままに、乙に対する所有権移転登記を経由したうえ、同人名義で丙に売却した等判示のような事情のある場合においては、乙が事後において明示又は黙示的にこれを容認した等の特段の事情のないかぎり、乙に譲渡所得があるとしてなされた課税処分は、当然無効と解すべきであるとされた)。
2019.04.25 16:50:37