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平成 29年の 「都道府県地価調査」 について

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 「都道府県地価調査」とは、国土利用計画法による土地取引の規制を適正かつ円滑に実施するため、国土利用計画法施行令第9条に基づき、都道府県知事が毎年1回、各都道府県の基準地(平成29年は全国21,644地点)について不動産鑑定士の鑑定評価を求め、これを審査、調整し、一定の基準日(7月1日)における正常価格を公表するものです。これは、国が行う地価公示(毎年1月1日時点)とあわせて一般の土地取引の指標ともなっています。尚、福島第一原子力発電所の事故の影響による22地点(宅地21地点、林地1地点)及び熊本地震の影響による宅地1地点、計23地点で調査を休止しました。
 調査全体の概要としましては、平成28年7月以降の1年間の地価は、全国平均では、全用途平均は下落しているものの下落幅の縮小傾向が継続しています。用途別では、住宅地は下落しているものの下落幅の縮小傾向が継続し、商業地は昨年の横ばいから上昇に転じています。三大都市圏をみますと、住宅地は東京圏・名古屋圏でほぼ前年並みの小幅な上昇を継続しており、商業地は総じて上昇基調を強めています。一方、地方圏では、地方四市で全ての用途で三大都市圏を上回る上昇を示し、また、地方圏のその他の地域においては全ての用途で下落幅が縮小しています。

 以下では、東京圏の住宅地、商業地における地価動向をみていきたいと思います。

≪住宅地≫
 東京23区は、全体で3.3%上昇となり、全ての区が上昇を続け、平均変動率が最も高かったのは荒川区の5.3%で、文京区の5.1%、千代田区及び目黒区の5.0%がこれに続いています。中心区では、依然高い上昇率を示しているものの、上昇幅は昨年より縮小しています。中心区以外、特に北東部地域では、上昇幅が昨年より拡大した区が多くみられます。一方、多摩地区全域では0.7%上昇となりました。武蔵野市、三鷹市、西東京市など23区に隣接する市や府中市、小平市など多摩東部地区の市を中心に上昇が続いており、また、中央部地域では、立川市など上昇幅が昨年より拡大した市がみられます。平均変動率が最も高かったのは武蔵野市の3.8%でした。
 神奈川県は、全体で▲0.2%で2年連続の下落となりました。横浜市は旭区が横ばいに転じた以外は上昇し、市全体では0.9%と上昇幅は前年並みとなりました。川崎市は麻生区が2年連続の下落となりましたが、それ以外は全ての区で上昇を示し、市全体では1.1%と上昇幅がやや拡大しました。相模原市は0.4%と上昇幅は前年より拡大しました。西部地域及び横須賀三浦地域では下落が続いている市町が多くみられます。

 埼玉県全体では0.1%と9年ぶりの上昇となりました。都心30km圏内を中心に上昇しており、さいたま市は1.1%と上昇幅がやや拡大しました。さいたま市のほとんどの区では、JR上野東京ライン開通により都心への利便性が向上していることもあり、需要が堅調で、上昇幅が昨年より拡大しました。北部地域及び西部地域では、下落している市町がみられますが、下落幅が昨年より縮小した市町も多くみられます。
 千葉県は、全体で±0.0%と平成27年から横ばいです。千葉市は0.4%の上昇となっています。千葉市西部地域、県西部地域及び房総地域の市区では上昇が続いており、君津市は2.8%、木更津市は2.5%と周辺市及び東京湾アクアラインを介した県外からの需要も見られ上昇が続いています。また、浦安市では2.2%と震災以降初めて全地点上昇となりました。千葉市東部地域及び北部地域では、下落が続いている市区町がみられます。

≪商業地≫
 東京都23区は、全体で5.9%上昇となり、全ての区が上昇を続け、高い上昇率を示す区が、昨年と比べ中心区から周辺へと拡大しています。平均変動率が最も高かったのは渋谷区の8.6%で、中央区及び杉並区の8.0%、台東区の7.4%がこれに続いています。一方、多摩地区全域は1.8%上昇となり、地域の中核的位置づけをもつターミナル駅に近接し、繁華で利便性の良い商業地を中心に変動率が高い地点が現れています。平均変動率が最も高かったのは武蔵野市の5.8%で、立川市の5.0%、三鷹市の4.8%がこれに続いています。
 神奈川県は、全体で1.5%と上昇幅が拡大しました。金融緩和による潤沢な投資資金の流入で、中心部の高度商業地が上昇率を拡大していますが、近隣型の商業地は、収益性が低く、上昇も鈍化している場合が多くみられます。その中でも横浜市は2.7%、川崎市は3.2%と上昇幅が拡大しており、再開発事業の進捗への期待感や根強いマンション素地としての需要から両市とも全ての区で上昇となりました。
 埼玉県は、全体で0.5%と4年連続で上昇しています。さいたま市を中心に周辺市町及び南部地域の市では、上昇が続いています。当該要因としては、JR大宮駅周辺のオフィス需要の拡大や再開発が予定されているJR浦和駅と川口駅、そして西武鉄道所沢駅周辺の上昇が背景にあるとみられます。平均変動率が最も高かったのはさいたま市の2.8%で、その中でも浦和区が4.3%、大宮区が4.0%の上昇となりました。
 千葉県は、全体で1.2%上昇となりました。その中でも、千葉市は1.9%の上昇で、さらに市区町村別でみますと、平均変動率が最も高かったのは鎌ヶ谷市の6.0%で、新鎌ヶ谷駅の開発が進み人口増加やビル、店舗の新設といった商業面での需要の高まりが背景にあるとみられます。次いで、市川市が4.5%、成田市が3.3%と続いています。
 以上、住宅地では雇用情勢の改善が続く中、住宅取得支援政策等の政策による需要の下支え効果もあって、地価は総じて底堅く推移し、商業地では外国人観光客の増加などによる店舗、ホテル需要の高まりや主要都市でのオフィス空室率の低下などによる収益性の向上、都市中心部における再開発等の進展による繁華性の向上等から不動産需要は旺盛で、地価は総じて堅調に推移しています。この堅調な住宅需要を背景に商業地をマンション用地として利用する動きが全国的に見られるなど、現在までマンション業者が触手しなかった土地であっても、立地条件等によっては、マンション業者の需要が見込まれるような事象が生じる可能性がありますので、広大地の判定に際して、今後はさらに新築マンションの建設動向にも十分ご注意下さい。

執筆者情報

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沖田豊明

沖田不動産鑑定士・税理士事務所

埼玉県川口市にて平成11年に開所して以来、不動産オーナー様の相続案件に特化してまいりました。土地評価についてお悩みの税理士先生のための税理士事務所として、税務のわかる鑑定士として、同業者の皆様方と協業して、不動産オーナー様の相続問題解決に日々取り組んでおります。

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2019.03.14 16:43:04