相続税及び贈与税における時価の考え方
1 時価主義
相続税法では、財産の評価に関し「特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により」(相続税法第22 条)と時価主義によることを定めています。
しかし、具体的に相続税法に評価方法が定められているのは、ごく一部の財産にすぎません。時価の具体的な意義及び各種財産の具体的な評価方法は、財産評価基本通達(以下、「評価通達」といいます。)に定められています。
2 評価通達における時価
評価通達では時価の意義について、「時価とは、課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、『(1)不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額』をいい、『(2)その価額は、この通達の定めによって評価した価額による。』」(評価通達1(2))としています。
この評価通達の時価に関する規定のなかでも、(1)・(2)部分は土地評価の実務を行うに当たって特に重要となるポイントです。
具体的にこれらについて説明します。
(1) 「不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額」であること
この規定から、評価通達で採用する時価の概念は、不動産鑑定評価基準に定める「正常価格」と同義であると解されます。「正常価格」とは、売り進みや買い進み等の特別の事情がない状況で自由な市場で成立するであろう価格をいいます。
(2) 「この通達の定めによって評価した価額による」こと
土地の価格の評価方法にも各種のものがありますが、評価通達で定める時価とは、評価通達の規定にしたがって評価した価額です。評価通達に基づく評価額は評価通達6に該当しない限りは、課税庁から否認されることはありませんが、これ以外の方法に基づくものは、たとえ一般経済社会で信頼されている評価方法でも、無条件で容認されることはない、といえるでしょう。
ところで、評価通達では、土地等の評価に関する規定だけでも113 項に及び、土地の価格形成要因に応じた評価方法を定めています。このような評価通達の詳細な規定と路線価等の土地の評価水準が公示価格水準の時価の80%相当額であることを勘案すると、評価通達の規定を的確に適用することにより、一般的には納税者にとっては妥当な評価額を得ることができるものと思われます。
このことから、相続税の土地評価の実務に携わる者にとっての第一の重要な職務は、周到な不動産調査により評価対象土地の価格形成要因を調べ上げ、その要因に応じて的確に評価通達の各規定を適用することであるといえるでしょう。
もっとも、評価通達の規定は、土地の価格形成要因についてあらかじめ類型的に規定できるものについて定めたものですから、万能でないことは当然ですし、一律に適用するという通達の性格上やむを得ません。たとえば、次のような土地は、いわば評価通達の射程距離の範囲外にあると認められます。
〇 評価通達20−3に定める無道路地の評価方法が妥当しないような通路の確保が事実上不可能な無道路地
〇 その地域の状況や地積規模から最有効使用が戸建住宅開発用地と認められるが、中小工場地区に所在するため評価通達20 −2の「地積規模の大きな宅地の評価」方法が適用できない規模の大きい宅地
このように評価通達の射程距離の範囲外にある土地については、評価通達の適用では適正な評価額を得ることはできません。このような場合には、不動産鑑定士が行う不動産鑑定評価によるべきでしょう。
評価対象土地の個別性の程度を判定し、当該土地が「評価通達の射程距離の範囲外に位置するものではないか」ということを検証するのも評価実務に携わる者の重要な職務です。
このコンテンツの内容は、平成30年11月1日現在の法令等によっています。