裁量労働制の“悪用”企業の社名公表へ
裁量労働制(実労働時間に関係なく「契約した労働時間分働いたことにする」といったみなし労働制度。裁量労働制のもとでは、労働時間が労働者の裁量に委ねられている)を悪用する企業が後を絶たない。業を煮やした厚生労働省は2019年1月25日、「裁量労働制の不適正な運用が複数の事業場で認められた企業の経営トップに対する都道府県労働局長による指導の実施及び企業名の公表について(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_03366.html)」をリリースした。これは、裁量労働制を労基法に反した形で運用している企業に対して「企業名公表」というペナルティを課すとともに、同様の違反事例を抱える他の企業に間接的に運用の適正化を求めるための措置。なお、企業名の公表は検察に送検されるほどの悪質な事案の場合に限定される。
対象となる裁量労働制の不適正運用事例は、下記①ないし③のいずれにも該当するものに限られる。
① 対象業務以外の業務に従事
裁量労働制の対象労働者の概ね3分の2以上について、対象業務に該当しない業務に従事していること。
② 労働時間関係違反
①に該当する労働者の概ね半数以上について、労基法第32・40条(労働時間)、35条(休日労働)又は37条(割増賃金) の違反が認められること。
③ 長時間労働
②に該当する労働者の1人以上について、1か月当たり100時間以上の時間外・休日労働が認められること。
裁量労働制は本来、労働者が時間の制約を受けず効率的に働くことを目的としている。しかし、実態は従業員に過重労働をさせつつ、残業代を抑制することを目的として、裁量労働制を“悪用”している企業があるのも事実。厚生労働省では、違反事例の中には「事案の態様が法の趣旨を大きく逸脱しており、これを放置することが全国的な遵法状況に悪影響を及ぼす」ものがあるといった危機感から、従来の個別的な監督指導からスタンスを変更することとなった。
なお、企業名の公表は、複数の事業場で違反が確認された事例に限られる。すなわち、対象はそれなりの規模の企業に限定されることになる。また、企業名公表に先立ち、社長が管轄の労働局に呼び出され、労働局長から直接指導を受けるといった措置も並行して行われる。
社名を公表された企業は、「裁量労働制を悪用した企業」として致命的な悪評を被るのは間違いない。上場準備企業であれば、上場スケジュールに相当の遅れが生じることになろう。今後、裁量労働制の運用に対する引受審査・上場審査の厳格化も予想されるだけに、事業場が単一の企業であっても、裁量労働制の運用状況のチェックは不可欠であることは間違いない。