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軽減税率制度の導入に伴う中小企業者の売上税額の計算の特例

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リエ「ちょっとお聞きしたいことがあるんですが…。」

黒田「なんでしょう。」

リエ「消費税の軽減税率制度の導入により、消費税額の計算について特別な計算方法があると聞いたのですが、内容について教えてください。」

黒田「はい。2019年10月1日から消費税率は10%に引き上げられますが、軽減税率制度の導入により、一定の飲食料品や定期購読新聞などの軽減税率対象品目は8%とされますので、消費税額の計算は、原則として、売上げ及び仕入れを標準税率(10%)のものと軽減税率(8%)のものとに区分して計算することになります。したがって、税率の異なるごとに売上げ及び仕入れを区分して経理する必要があります。」

リエ「そうですよね。軽減税率対象品目を販売している企業は、事務負担が大変そうですよね。」

黒田「慣れるまでにある程度の期間が必要かもしれませんね。そこで、経理体制が整っておらず、税率の異なるごとに区分して経理することが難しい中小事業者については、経過措置として、売上げに係る消費税額及び仕入れに係る消費税額を簡便的に計算することが特例として認められています。今回は、売上げに係る消費税額の計算の特例についてご説明しますね。」

リエ「わかりました。お願いします。」

黒田「売上げに係る消費税額の計算の特例は中小企業者を対象とし、基準期間における課税売上高が5000万円以下の課税期間のうち、2019年10月1日から2023年9月30日までの期間に該当する期間について適用することができます。これを適用対象期間といいますが、税額計算の特例を適用することができるのは適用対象期間内とされますので、課税期間が2019年10月1日や2023年9月30日をまたぐ場合、課税期間内に税額計算の特例を受けられる期間と受けられない期間が生じることとなります。」

リエ「課税期間内で異なる方法で消費税額を計算するのは、大変そうですね。」

黒田「そうですね。適用対象期間は4年ですので、その間に経理体制を整え、円滑に計算するよう準備をする必要があります。税額計算の特例の内容ですが、税率の異なるごとに売上げを区分することが困難な中小企業者は、課税売上げ(税込)に一定の割合を乗じて計算した金額を軽減税率の対象となる課税売上げ(税込)とすることができます。一定の割合は、(1)軽減売上割合、(2)小売等軽減仕入割合のうち、いずれかを中小企業者の態様に応じて適用することができます。
まず、(1)軽減売上割合とは、通常の事業を行う連続する10営業日の課税売上げ(税込)のうち軽減税率の対象となる課税売上げ(税込)の占める割合をいい、通常の事業を行う連続する10営業日は、この割合により計算しようとする適用対象期間内であれば、どの時点のものを用いても問題ありません。」

リエ「適用対象期間を通して区分経理することは難しくても、連続10営業日だけの区分であれば何とかできそうな気はしますね。」

黒田「注意点としては、通常の営業で軽減税率対象品目とその他のものを販売している事業者が、催事場への出店等で軽減税率対象品目のみを販売するような営業日がある場合、このような営業日は通常の事業の営業日とはいえないため、除外して算定する必要があります。
次に、(2)小売等軽減仕入割合とは、課税仕入れのうち軽減税率の対象となる課税売上げ(税込)にのみ要する課税仕入れの占める割合をいいます。この割合により計算することができる中小事業者は、卸売業又は小売業を営んでおり、課税仕入れを税率ごとに区分経理でき、かつ、簡易課税制度の適用を受けていないことが要件とされます。」

リエ「なるほど。課税仕入れについて税率ごとの区分経理ができるかどうかがポイントですね。」

黒田「そうですね。なお、(1)軽減売上割合及び(2)小売等軽減仕入割合の計算が困難で、かつ、主として軽減税率対象品目を販売する中小事業者については、(1)軽減売上割合又は(2)小売等軽減仕入割合を50%とみなして計算することができます。主として軽減税率対象品目を販売する中小事業者とは、課税売上げのうち軽減税率の対象となる課税売上げの占める割合がおおむね50%以上である事業者とされます。」

リエ「課税売上げの大部分が軽減税率の対象となる課税売上げですと、軽減税率の対象となる課税売上げを50%で計算した場合、残りの50%が標準税率の対象となる課税売上げとして計算されてしまうので、税負担が重くなりますね。」

黒田「そうなります。したがって、税率の異なるごとに売上げを区分することが困難な事業者は、事務負担が煩雑でない限り、(1)軽減売上割合又は(2)小売等軽減仕入割合を50%とみなして適用するケースは少ないと考えられます。」

リエ「そうですよね。仮に複数の事業を営んでいる場合はどうなるんですか。」

黒田「中小企業者が複数の事業を営んでいて、事業ごとに課税売上げを区分している場合、事業ごとに適用する割合を選択することができます。ただし、(1)軽減売上割合と(2)小売等軽減仕入割合を併用して適用することはできませんので、例えば、卸売業と製造業を営んでいる中小事業者が、卸売業について小売等軽減仕入割合により計算する場合、製造業については原則的な計算のみとなりますので、注意が必要です。」

リエ「わかりました。」

黒田「仕入れに係る消費税額の計算の特例は、次の機会にご説明します。」

リエ「はい。ありがとうございました。」

監修

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税理士 坂部達夫

坂部達夫税理士事務所/(株)アサヒ・ビジネスセンター

 東京都墨田区にて平成元年に開業して以来、税務コンサルを中心に問題解決型の税理士事務所であることを心がけて参りました。
 おかげさまで弊所は30周年を迎えることができました。今後もお客様とのご縁を大切にし、人に寄り添う税務に取り組んでいきます。

メールマガジンやセミナー開催を通じて、様々な情報を発信しています。

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リエ「ちょっとお聞きしたいことがあるんですが…。」黒田「なんでしょう。」リエ「消費税の軽減税率制度の導入により、消費税額の計算について特別な計算方法があると聞いたのですが、内容について教えてください。」黒田「はい。2019年10月1日から消費税率は10%に引き上げられますが、軽減税率制度の導入により、一定の飲食料品や定期購読新聞などの軽減税率対象品目は8%とされますので、消費税額の計算は、原則として、売上げ及び仕入れを標準税率(10%)のものと軽減税率(8%)のものとに区分して計算することになります。したがって、税率の異なるごとに売上げ及び仕入れを区分して経理する必要があります。」リエ「そうですよね。軽減税率対象品目を販売している企業は、事務負担が大変そうですよね。」黒田「慣れるまでにある程度の期間が必要かもしれませんね。そこで、経理体制が整っておらず、税率の異なるごとに区分して経理することが難しい中小事業者については、経過措置として、売上げに係る消費税額及び仕入れに係る消費税額を簡便的に計算することが特例として認められています。今回は、売上げに係る消費税額の計算の特例についてご説明しますね。」リエ「わかりました。お願いします。」黒田「売上げに係る消費税額の計算の特例は中小企業者を対象とし、基準期間における課税売上高が5000万円以下の課税期間のうち、2019年10月1日から2023年9月30日までの期間に該当する期間について適用することができます。これを適用対象期間といいますが、税額計算の特例を適用することができるのは適用対象期間内とされますので、課税期間が2019年10月1日や2023年9月30日をまたぐ場合、課税期間内に税額計算の特例を受けられる期間と受けられない期間が生じることとなります。」リエ「課税期間内で異なる方法で消費税額を計算するのは、大変そうですね。」黒田「そうですね。適用対象期間は4年ですので、その間に経理体制を整え、円滑に計算するよう準備をする必要があります。税額計算の特例の内容ですが、税率の異なるごとに売上げを区分することが困難な中小企業者は、課税売上げ(税込)に一定の割合を乗じて計算した金額を軽減税率の対象となる課税売上げ(税込)とすることができます。一定の割合は、(1)軽減売上割合、(2)小売等軽減仕入割合のうち、いずれかを中小企業者の態様に応じて適用することができます。まず、(1)軽減売上割合とは、通常の事業を行う連続する10営業日の課税売上げ(税込)のうち軽減税率の対象となる課税売上げ(税込)の占める割合をいい、通常の事業を行う連続する10営業日は、この割合により計算しようとする適用対象期間内であれば、どの時点のものを用いても問題ありません。」リエ「適用対象期間を通して区分経理することは難しくても、連続10営業日だけの区分であれば何とかできそうな気はしますね。」黒田「注意点としては、通常の営業で軽減税率対象品目とその他のものを販売している事業者が、催事場への出店等で軽減税率対象品目のみを販売するような営業日がある場合、このような営業日は通常の事業の営業日とはいえないため、除外して算定する必要があります。次に、(2)小売等軽減仕入割合とは、課税仕入れのうち軽減税率の対象となる課税売上げ(税込)にのみ要する課税仕入れの占める割合をいいます。この割合により計算することができる中小事業者は、卸売業又は小売業を営んでおり、課税仕入れを税率ごとに区分経理でき、かつ、簡易課税制度の適用を受けていないことが要件とされます。」リエ「なるほど。課税仕入れについて税率ごとの区分経理ができるかどうかがポイントですね。」黒田「そうですね。なお、(1)軽減売上割合及び(2)小売等軽減仕入割合の計算が困難で、かつ、主として軽減税率対象品目を販売する中小事業者については、(1)軽減売上割合又は(2)小売等軽減仕入割合を50%とみなして計算することができます。主として軽減税率対象品目を販売する中小事業者とは、課税売上げのうち軽減税率の対象となる課税売上げの占める割合がおおむね50%以上である事業者とされます。」リエ「課税売上げの大部分が軽減税率の対象となる課税売上げですと、軽減税率の対象となる課税売上げを50%で計算した場合、残りの50%が標準税率の対象となる課税売上げとして計算されてしまうので、税負担が重くなりますね。」黒田「そうなります。したがって、税率の異なるごとに売上げを区分することが困難な事業者は、事務負担が煩雑でない限り、(1)軽減売上割合又は(2)小売等軽減仕入割合を50%とみなして適用するケースは少ないと考えられます。」リエ「そうですよね。仮に複数の事業を営んでいる場合はどうなるんですか。」黒田「中小企業者が複数の事業を営んでいて、事業ごとに課税売上げを区分している場合、事業ごとに適用する割合を選択することができます。ただし、(1)軽減売上割合と(2)小売等軽減仕入割合を併用して適用することはできませんので、例えば、卸売業と製造業を営んでいる中小事業者が、卸売業について小売等軽減仕入割合により計算する場合、製造業については原則的な計算のみとなりますので、注意が必要です。」リエ「わかりました。」黒田「仕入れに係る消費税額の計算の特例は、次の機会にご説明します。」リエ「はい。ありがとうございました。」
2019.01.21 16:36:06