HOME コラム一覧 役員給与の取扱いを巡る考察 前編

役員給与の取扱いを巡る考察 前編

post_visual

1 役員賞与の損金性が認められた18年度税制改正

 周知のように平成18年度の税制改正で、役員給与課税の仕組みが大きく変更になった。これは,まず平成14年度に商法が改正され,業績連動型報酬制度が導入され,更に平成17年度に商法から独立した会社法でも,この業績連動型報酬制度を踏襲し,規定ぶりもそれまで商法で「取締役ノ受クベキ報酬」とあったものが会社法では「取締役の報酬,賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益」となり,会社法上では職務上の対価としての役員報酬と役員賞与の差異がなくなったことなどの一連の動きに起因する改正である。(会社法上,利益処分案の株主総会決議に相当する定めもないことから,会社役員に支給する給与は,役員報酬と役員賞与とが,同一の手続きにより支給されることとなった。)

 なお,企業会計上も,平成17年11月29日に企業会計基準委員会が公表した「役員賞与に関する会計基準」において,「役員賞与は,発生した会計期間の費用として処理する」と定め,その理由として,「役員賞与は,経済的実態としては費用として処理される業績連動型報酬と同様の性格であると考えられるため,費用として処理することが適当である。この点に関して役員賞与は利益をあげた功労に報いるために支給されるものであって,利益の有無にかかわらず職務執行の対価として支給される役員報酬とは性格が異なるとの見解もあるが,会社の利益は職務執行の成果であり,この功労に報いるために支給される役員賞与もやはり業績連動型の役員報酬と同様に職務執行の対価と考えられる。」と説明されている。
 
 このような一連の動きを受けて税制改正が行われたわけであり,新たに「定期同額給与」,「事前確定届出給与」,「利益連動給与」の3つのパターンが制度化されるに至っている。この改正により解消された一番の問題点は,役員賞与に係るものと言われている。改正前は,役員賞与はその全額が損金不算入とされていた。しかも賞与であるか否かは,臨時的な給与であるかという形式面だけで判断され,その実質的な損金性を検討する余地がなかった。そのため,役員に対する賞与を支給しない法人も多数あったと言われている。

 しかし,平成18年度の改正により,役員賞与の損金性が認められ,その本質は役員報酬と同様であるとして「役員給与」に含まれることになった。これにより,法令上役員賞与という概念はなくなって,役員給与として損金算入の可否を判定される。従って従来は役員賞与とされたものの全額が損金不算入とされたが,改正後は利益処分により役員へ支給する給与と,事前に確定していない臨時的な給与のみが損金不算入とされることになったのである。

2「役員給与の損金不算入」との見出しへの疑問

 役員給与に係る平成18年度税制改正により,平成14年度の商法改正,平成17年度の会社法の独立の流れを受けて,より合理的で企業経営のダイナミズムに適合したものに発展的に改組されたものと期待されている。しかしながら,必ずしもそうは評価しない向きもあるようである。

 まず,その規定ぶりが問題とされている。すなわち,改正前の条文見出しが「過大な役員報酬等の損金不算入」とされていたのに,改正後は「役員給与の損金不算入」とされている。このような条文のタイトルの変更は,改正前は「基本的には役員報酬の損金性を認めていて,不相当に高額な部分等の不適切な部分の損金性を否定しているもの」と理解できたが,改正後は「基本的には,役員給与の損金性それ自体を否定している」ように読めてしまうからである。

 この点につき,立法担当者からは,「法律の条文見出しが『役員給与の損金不算入』となったことから,法人税法上、役員給与は損金不算入となったのではないかと指摘する向きがありますが,法人税法の構造として第22条の別段の定めを規定しようとする場合には,このような見出しや構成内容とならざるを得ないものであって,そもそも役員給与を原則損金不算入と考えているといったことではない」との説明がなされているようである。

 確かに例えば法人税法37条が「寄附金の損金不算入」と題していることと対比し,22条3項にいう「別段の定め」として,どのような規定であっても正当化し得るとの考え方もあろうが,本質的にその損金性に問題を有している寄附金と,本質的に損金性を有している役員給与を同様に議論すること自体に問題がある, との指摘がなされているのである。

 また,所得概念の観点からも,次のように指摘されている。すなわち,法人税法上の所得概念については,所得税法と同様に包括的所得概念が採用されているものと解され,かつ,伝統的に純資産増加説が支持されている。そのため,22条が「各事業年度の所得の金額は,当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする」と定めているところ,当該「損金の額」は純資産が減少する一切のものをいうと解される。だとすれば,「損金の額」に算入すべき金額を定めている22条3項における「別段の定め」についても,純資産が減少するものであっても,合理的な租税政策の要請によって損金性が否定されるものに限定して定められるものと解すべきこととなる。

 そうであれば,本質的に損金性を有する役員給与について,その損金性を原則として否定するような,「役員給与の損金不算入」というような別段の定めは,租税政策上合理性を有するとは考えられない,との指摘である。以上に述べたような指摘は,法人税法の構造の根本部分に係る指摘であり,なかなか無視できない重みを持っているように思われるのである。

後編へ続く



執筆者情報

profile_photo

川根 誠

平成国際大学教授・税理士

昭和63年7月 国税庁間税部消費税課課長補佐(我が国に消費税が導入された際の、初代運用担当補佐)、平成9年7月国税庁長官官房国税企画官(電子帳簿保存法の企画・立案)、平成12年7月関東信越国税局課税1部長、平成13年7月東京国税局調査2部長、平成14年7月金沢国税局総務部長、平成20年7月国税庁長官官房調整室長、平成21年7月札幌国税不服審判所長、平成22年7月税務大学校副校長

この記事のカテゴリ

この記事のシリーズ

会計人 税金コラム

記事の一覧を見る

関連リンク

フリンジ・ベネフィット~お国柄色々 前編

フリンジ・ベネフィット~お国柄色々 後編

税務・会計に関する情報を毎週無料でお届けしています!

メルマガ登録はこちら


コラム
/column/2019/img/thumbnail/img_31_s.jpg
 周知のように平成18年度の税制改正で、役員給与課税の仕組みが大きく変更になった。これは,まず平成14年度に商法が改正され,業績連動型報酬制度が導入され,更に平成17年度に商法から独立した会社法でも,この業績連動型報酬制度を踏襲し,規定ぶりもそれまで商法で「取締役ノ受クベキ報酬」とあったものが会社法では「取締役の報酬,賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益」となり,会社法上では職務上の対価としての役員報酬と役員賞与の差異がなくなったことなどの一連の動きに起因する改正である。(会社法上,利益処分案の株主総会決議に相当する定めもないことから,会社役員に支給する給与は,役員報酬と役員賞与とが,同一の手続きにより支給されることとなった。) なお,企業会計上も,平成17年11月29日に企業会計基準委員会が公表した「役員賞与に関する会計基準」において,「役員賞与は,発生した会計期間の費用として処理する」と定め,その理由として,「役員賞与は,経済的実態としては費用として処理される業績連動型報酬と同様の性格であると考えられるため,費用として処理することが適当である。この点に関して役員賞与は利益をあげた功労に報いるために支給されるものであって,利益の有無にかかわらず職務執行の対価として支給される役員報酬とは性格が異なるとの見解もあるが,会社の利益は職務執行の成果であり,この功労に報いるために支給される役員賞与もやはり業績連動型の役員報酬と同様に職務執行の対価と考えられる。」と説明されている。  このような一連の動きを受けて税制改正が行われたわけであり,新たに「定期同額給与」,「事前確定届出給与」,「利益連動給与」の3つのパターンが制度化されるに至っている。この改正により解消された一番の問題点は,役員賞与に係るものと言われている。改正前は,役員賞与はその全額が損金不算入とされていた。しかも賞与であるか否かは,臨時的な給与であるかという形式面だけで判断され,その実質的な損金性を検討する余地がなかった。そのため,役員に対する賞与を支給しない法人も多数あったと言われている。 しかし,平成18年度の改正により,役員賞与の損金性が認められ,その本質は役員報酬と同様であるとして「役員給与」に含まれることになった。これにより,法令上役員賞与という概念はなくなって,役員給与として損金算入の可否を判定される。従って従来は役員賞与とされたものの全額が損金不算入とされたが,改正後は利益処分により役員へ支給する給与と,事前に確定していない臨時的な給与のみが損金不算入とされることになったのである。
2019.01.17 17:01:32