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フリンジ・ベネフィット~お国柄色々 後編

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フリンジ・ベネフィット~お国柄色々(3)

(1)  「食事補助に係る1月3500円」基準

 筆者が以前から「どうしてこんな低額な金額の基準が存在するのだろうか」と奇異に感じているものがある。それは,「食事補助に係る1月3500円」基準である。課税除外されるのは、「従業員が食事の価額の50%以上を負担しており、かつ、使用者が負担した金額が月額3500円以下」の場合に限られる。例えば700円の弁当を土・日曜日を除く1月で22日間購入したケースだと、総額1万5400円につき従業員自身が1万1900円を負担し、使用者が3500円を負担した場合に課税除外される。

 使用者の負担が3501円になると、ダメである。ところで月額3500円ということは、1食当たりでは(1月が22日として)159円という低額ぶりである。課税除外措置は「社会通念上、一般的」なケースには課税を控えるという意味を含んでいようから、食事1食当たり160円程度補助するのが一般的であるとでも言うのだろうか。

(2) 「さすがグルメの国」と感じるフランスの非課税枠

 目を外国に転じると、米国では「食事が雇用者の便宜のために、雇用者の事業場において提供される」場合には、特に基準なしに所得とならない旨規定されているが、「雇用者の便宜のため」の要件は「緊急呼び出しに備えて待機している場合」などに限られるようであり、非課税となるケースは極めて限定的なようである。また英国は、フリンジ・ベネフィットに対しては冷たいようであり、1日当たり15ペンス(30円弱)という基準だそうである。これを超える補助は、その超える部分が所得を構成するとのことであり、あまりの低額さに驚いている。

 ところがドイツでは、会社が従業員に昼食を提供した場合、1日当たり4.2マルク(250円程度か)の給与を得たものとして課税されるよう、「現物給与法」の「公的現物給付基準」により定めている。上記の700円の弁当を例にとれば、会社が無償で提供したとしても会社の補助のうち月額9900円は課税されないこととなる。

 統一的に、しかも課税が高額にならないように配慮した仕組みと言えそうである。(外国の例について、やや古い文献しか見つからなかったこと、為替の換算はアバウトであることをお詫びしたい)これがフランスとなると、1日当たり25フラン(500円程度か)までの食事補助は非課税とされている。英国や我が国と比べ、「さすがグルメの国」と感じるところである。

(3) わが国の「1月3500円基準」は早晩見直すべき

 昼休みを2時間前後ゆっくりとる習慣のイタリアやスペインと異なり、我が国の企業や官公庁の昼休みは45分とか1時間とかが一般的である。この時間内に勤務場所を離れてレストランでゆっくり食事をするのは、一般的に困難であろう。この事情は、雇用者にとってはいつでも呼び出すことができるという意味で、「雇用者の便宜」(フリンジ・ベネフィットの非課税を根拠づける米国での主要な理論)にかなっている面も強い。

 だとすれば、非課税の扱いにさほどの不合理・不公平はないと考えて良いのではないか。また、非課税の基準をあまりに低いままに抑えていると、これが企業を束縛する規範として働いてしまい、結果として「貧しい食事文化」に社会全体を押さえ込んでいる面がないだろうか。「1月3500円基準」は早晩見直すべきと思えてならない。

フリンジ・ベネフィット~お国柄色々(4)

(1) 奇異に感じる社宅を賃貸した場合の「通常の賃貸料」

 前回に、極めて低額な基準として食事補助を挙げたが、同様なものは他にも存在する。それは、社宅の家賃である。役員ではない普通のサラリーマンが社宅を賃借した場合、「通常の賃貸料」50%相当額以上を支払っていれば「経済的利益はない」ものとされる。ところが、この「通常の賃貸料」の計算方法は昭和26年に社宅家賃に対して初めて定められた基準であり、当時の地代家賃統制令による統制額の計算に準じる評価方式なのである。

 筆者がいくつかのケースで計算してみると、月額10万円前後の家賃が当然と思える物件について、「通常の賃貸料」はせいぜい4.5万円となり、その50%以上の2.3万円を支払っていれば課税されない仕組みとなっている。これでは民間のアパートやマンションを賃借しているサラリーマンと比較して、あまりにかけ離れた低額なものと非難されても仕方がないと思われる。どうして時宜に応じた見直しがなされないのか、奇異に感じるのは私一人ではあるまい。 

(2)  細かに規定があって驚くもの、『カンパニー・カー』

 目を米国に転ずると、非課税扱いとなるのは「雇用者の便宜のために」提供され、雇い主の事業の性格上被用者がこの社宅に住まなくては要求された役務を提供できないため社宅が提供される、といったものに限られているようであり、通常のサラリーマンには非課税となる余地はほとんど存在しないようである。

 フリンジ・ベネフィットを各国比較していて、我が国には規定されていないのに欧米ではこと細かに規定があって驚くものに、『カンパニー・カー』がある。米国やヨーロッパ諸国では、会社への雇用条件の一部として車が提供されるのが一般的のようであり、走行距離を継続的に記録にとって、私的使用部分と業務使用部分とを区分しているようである。

 しかしその評価方法は、例を米国にとると、「その自動車の利用価値は従業員の総所得金額に含まれる」とされ、自動車の利用価値について「原則として適正市場価格」で評価することとしているが、・リース価格による評価ルール、・1マイル当たりの評価ルール、などという例外規定もあり、更に運転手付きの場合の評価基準は別になっているなど、非常に複雑で膨大な評価手順となっている。ここには図らずも、フリンジ・ベネフィットをいかにして評価して課税するかが極めて困難であるという、もう1つの問題点が露呈した形になっている。

 ところで、米国のフリンジ・ベネフィットを調べていると、「従業員が通勤手段として徒歩あるいは公共交通手段を利用することが危険である場合の、雇用者が提供する交通手段についての特別の評価ルール」というものが存在することを発見した。やむを得ない措置なので、低めに評価しようとするもののようである。いやはや、銃社会の米国ならではのお国柄と感じたものである。



執筆者情報

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川根 誠

平成国際大学教授・税理士

昭和63年7月 国税庁間税部消費税課課長補佐(我が国に消費税が導入された際の、初代運用担当補佐)、平成9年7月国税庁長官官房国税企画官(電子帳簿保存法の企画・立案)、平成12年7月関東信越国税局課税1部長、平成13年7月東京国税局調査2部長、平成14年7月金沢国税局総務部長、平成20年7月国税庁長官官房調整室長、平成21年7月札幌国税不服審判所長、平成22年7月税務大学校副校長

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(1)  「食事補助に係る1月3500円」基準 筆者が以前から「どうしてこんな低額な金額の基準が存在するのだろうか」と奇異に感じているものがある。それは,「食事補助に係る1月3500円」基準である。課税除外されるのは、「従業員が食事の価額の50%以上を負担しており、かつ、使用者が負担した金額が月額3500円以下」の場合に限られる。例えば700円の弁当を土・日曜日を除く1月で22日間購入したケースだと、総額1万5400円につき従業員自身が1万1900円を負担し、使用者が3500円を負担した場合に課税除外される。 使用者の負担が3501円になると、ダメである。ところで月額3500円ということは、1食当たりでは(1月が22日として)159円という低額ぶりである。課税除外措置は「社会通念上、一般的」なケースには課税を控えるという意味を含んでいようから、食事1食当たり160円程度補助するのが一般的であるとでも言うのだろうか。(2) 「さすがグルメの国」と感じるフランスの非課税枠 目を外国に転じると、米国では「食事が雇用者の便宜のために、雇用者の事業場において提供される」場合には、特に基準なしに所得とならない旨規定されているが、「雇用者の便宜のため」の要件は「緊急呼び出しに備えて待機している場合」などに限られるようであり、非課税となるケースは極めて限定的なようである。また英国は、フリンジ・ベネフィットに対しては冷たいようであり、1日当たり15ペンス(30円弱)という基準だそうである。これを超える補助は、その超える部分が所得を構成するとのことであり、あまりの低額さに驚いている。 ところがドイツでは、会社が従業員に昼食を提供した場合、1日当たり4.2マルク(250円程度か)の給与を得たものとして課税されるよう、「現物給与法」の「公的現物給付基準」により定めている。上記の700円の弁当を例にとれば、会社が無償で提供したとしても会社の補助のうち月額9900円は課税されないこととなる。 統一的に、しかも課税が高額にならないように配慮した仕組みと言えそうである。(外国の例について、やや古い文献しか見つからなかったこと、為替の換算はアバウトであることをお詫びしたい)これがフランスとなると、1日当たり25フラン(500円程度か)までの食事補助は非課税とされている。英国や我が国と比べ、「さすがグルメの国」と感じるところである。(3) わが国の「1月3500円基準」は早晩見直すべき 昼休みを2時間前後ゆっくりとる習慣のイタリアやスペインと異なり、我が国の企業や官公庁の昼休みは45分とか1時間とかが一般的である。この時間内に勤務場所を離れてレストランでゆっくり食事をするのは、一般的に困難であろう。この事情は、雇用者にとってはいつでも呼び出すことができるという意味で、「雇用者の便宜」(フリンジ・ベネフィットの非課税を根拠づける米国での主要な理論)にかなっている面も強い。 だとすれば、非課税の扱いにさほどの不合理・不公平はないと考えて良いのではないか。また、非課税の基準をあまりに低いままに抑えていると、これが企業を束縛する規範として働いてしまい、結果として「貧しい食事文化」に社会全体を押さえ込んでいる面がないだろうか。「1月3500円基準」は早晩見直すべきと思えてならない。
2018.12.14 16:39:17