HOME コラム一覧 課税単位についての考察 その1

課税単位についての考察 その1

税務
post_visual

1 戦前の課税単位をシャウプ勧告が否定

◆戦前は戸主がその一家の総所得の納税責任者

 所得税の税額を算定する人的単位を、課税単位という。課税単位には、個人を単位とする方式(個人単位課税)と、夫婦や家族を単位とする方式(世帯単位課税)があるが、我が国の現行の所得税法は個人単位課税を原則としている。累進構造を採用している所得税制の中で、この課税単位をどのように考えるべきものなのかは、なかなか難問のようである。

 戦前の所得税法では、課税単位としては『家』を対象としており、ある意味単純・明快であったようである。すなわち、明治20年創設の所得税法において、「同居の家族に属するものは、総て戸主の所得に合算するものとする。」と規定され、更に細則の中で「戸主に所得なくして同居の家族のみに所得がある場合に於いても、一家内に属するものはすべて合算の上、其の戸主の名を以て届出納税すべきもの」といった規定もあって、戸主がその一家の総所得の納税責任者であり、納税名義人であったのである。

 明治も後半になってくると既に民法が施行されており、財産法においては契約の自由、所有権の尊重など個人主義的な制度が取り入れられて、家族は財産を所有することができた。しかし身分法においては、家族制度に基づく家、戸主権、家督相続の制度が取り入れられて、家族、子、妻等は個人としての人格を認められなかった。

 特に財産については、表面上家産という制度は認められなかったが、家の財産は戸主が家の代表者たる資格でそれを支配したし、また妻の財産は妻の所有であったが、旧民法においては妻は無能力者であったため、その財産の管理権及び使用収益権は一家の主宰者たる夫に帰属していたのである。

◆「各納税者が申告書を提出して各人の所得税額を納付」と勧告

 戦後の税制に決定的な影響を与えたシャウプ勧告においては、同居親族の所得を合算する世帯単位の課税が、形式的には伝統的な日本の家族制度に従うものであるが、実際上多くの好ましくない効果を伴っているとして、次のように掲げている。

 (1)累進課税下の所得の合算によって、同一の生活水準、同一の担税力水準にある納税者より高い税率を適用されるようになることは不公平である。(2)世帯単位課税に伴う税負担の増大が、人為的な世帯分解を生み出す可能性がある。(3)二人以上の納税義務者が同居親族の関係にあるか否かを判定することが困難である。(4)手続きが複雑であって、時間を浪費する。

 このような根拠に基づき、「同居親族の所得合算は、これを廃止して各納税者が独立の申告書を提出し、他の所得を合算することなく各人の所得額に対する税額を別々に納めさせるように」と勧告している。

2 累進構造を採用する所得税制の下での課税単位

◆個人単位課税主義は共働き・片働きで税負担に差

 累進構造を採用している所得税制の下で課税単位をどのように構成するかは、重要かつ悩ましい問題である。個人単位課税主義を採用すれば、働いて生活を立ててきた男女が結婚することによって、基本的には税負担は変化しない。それぞれが独立して申告・納税すればよく、従前と大きな変化はない。「結婚に対してニュートラル」だと言えよう。

 ただしこの方式を採用していると、世帯同士の税負担を比較した場合に、どうだろうか。同じ1000万円の所得(各種の所得控除後とする。なお、かなり荒っぽい概算であることを、お断りしておく。)を得ている場合、共働きで500万円ずつ稼得している夫婦の所得税負担は114万5000円であるのに対し、夫が稼いで妻は専業主婦の場合には所得税負担は176万4000円となる。

 冷蔵庫やテレビや家具などの家事費の消費や、旅行したりするのは夫婦単位で行うことが多かろうと思われ、同じように毎年1000万円を消費できる世帯同士について、これほどの大きな差ができることについては、納得し難い思いを抱く向きも多かろうと思われる。このように個人単位主義は、累進所得税制の下で「合計所得額の等しい夫婦が、等しい所得税負担を負う」という結果をもたらすことができないのである。

◆「結婚罰」が生ずる「合算非分割主義」

 では、夫婦の所得を合算して課税することとすれば、上記の2夫婦ともに所得税額は176万4000円となり、平等となる。二組の世帯がともに年間1000万円を消費できることに着目すれば、これは平等の結果ということになろう。

 しかし、困ったことが起きる。500万円ずつを稼得していた男女が結婚すると、結婚以前は一人57万2500円ずつの所得税で、二人合わせて114万5000円の税負担で済んでいたのに、結婚して所得合算されることにより、税負担は176万4000円となり、61万9000円も負担が重くなってしまうのである。この課税の仕方は「合算非分割主義」と呼ばれるが、この方式では「結婚罰」が生ずることとなり、婚姻中立性を害しているとの非難が浴びせられることとなってしまうのである。

◆「2分2乗方式」は「結婚罰」を避けることができるのか?

 そこで、夫婦の所得を合算した上で2分し、それぞれに税額計算した上で合計するやり方が考案される。「2分2乗方式」と呼ばれるものであり、アメリカやドイツで採用されている。

 この方式によれば、共働きで各自500万円ずつ稼得し、合計1000万円の所得のある夫婦と、夫が1000万円を稼得し妻は専業主婦である夫婦のどちらも所得税負担は114万5000円となり、「合計所得額が等しい夫婦が、等しい所得税負担を負う」結果を実現できている。また、500万円ずつを稼得していた男女が結婚しても、所得税負担は114万5000円あり、「結婚罰」を避けることができる。

 全てが丸く収まったように見えるところである。ところが、そうもいかない。「あちら立てれば、こちらが立たぬ」のである。

その2 (7/27掲載予定)に続く



執筆者情報

profile_photo

川根 誠

平成国際大学教授・税理士

昭和63年7月 国税庁間税部消費税課課長補佐(我が国に消費税が導入された際の、初代運用担当補佐)、平成9年7月国税庁長官官房国税企画官(電子帳簿保存法の企画・立案)、平成12年7月関東信越国税局課税1部長、平成13年7月東京国税局調査2部長、平成14年7月金沢国税局総務部長、平成20年7月国税庁長官官房調整室長、平成21年7月札幌国税不服審判所長、平成22年7月税務大学校副校長

関連リンク

重加算税をめぐる論点整理 その2トピックス重加算税

コラム
/column/2018/img/thumbnail/img_31_s.jpg
 所得税の税額を算定する人的単位を、課税単位という。課税単位には、個人を単位とする方式(個人単位課税)と、夫婦や家族を単位とする方式(世帯単位課税)があるが、我が国の現行の所得税法は個人単位課税を原則としている。累進構造を採用している所得税制の中で、この課税単位をどのように考えるべきものなのかは、なかなか難問のようである。 戦前の所得税法では、課税単位としては『家』を対象としており、ある意味単純・明快であったようである。すなわち、明治20年創設の所得税法において、「同居の家族に属するものは、総て戸主の所得に合算するものとする。」と規定され、更に細則の中で「戸主に所得なくして同居の家族のみに所得がある場合に於いても、一家内に属するものはすべて合算の上、其の戸主の名を以て届出納税すべきもの」といった規定もあって、戸主がその一家の総所得の納税責任者であり、納税名義人であったのである。 明治も後半になってくると既に民法が施行されており、財産法においては契約の自由、所有権の尊重など個人主義的な制度が取り入れられて、家族は財産を所有することができた。しかし身分法においては、家族制度に基づく家、戸主権、家督相続の制度が取り入れられて、家族、子、妻等は個人としての人格を認められなかった。 特に財産については、表面上家産という制度は認められなかったが、家の財産は戸主が家の代表者たる資格でそれを支配したし、また妻の財産は妻の所有であったが、旧民法においては妻は無能力者であったため、その財産の管理権及び使用収益権は一家の主宰者たる夫に帰属していたのである。
2018.07.18 10:39:07