投資家の「なぜ」に答えるMD&Aの作り方
1月23日に金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」の第2回会合が開催され、「財務情報」及び「記述情報(非財務情報)」の充実について議論が交わされた。
2017年3月期から有価証券報告書で経営方針・経営戦略等の内容を開示することが求められている。開示は「経営方針・経営戦略等を定めている場合に限る」と条件付きであるが、「経営方針・経営戦略等を定めていない」企業はほとんどないことから、上場会社では経営方針・経営戦略等の内容につき濃淡の差はあるものの何らかの記載をしているのが通常だ。もっとも、開示初年度の状況を踏まえると、開示が十分とは言い難い状況だ。本会合でも事務局(金融庁)により「企業の中長期的なビジョンやそれを実現するための戦略に関する具体的な記載が乏しい」「(経営戦略と)MD&Aやリスク情報との関連付けがない等の企業が相当程度見られる」といった厳しい指摘が行われている。
有価証券報告書におけるMD&Aは、多くの企業で「総資産は、前連結会計年度末に比べ〇億〇百万円減少して、〇億〇百万円となりました。このうち流動資産は、たな卸資産が増加したこと等により、前連結会計年度末に比べ〇億〇百万円増加しました。固定資産は、投資有価証券が増加したものの、有形固定資産が減少したこと等により、前連結会計年度末に比べ〇億〇百万円減少しました。負債は、・・・」といった「財務情報を記述的に羅列しただけのMD&A」の記載に留まっているのが現状だ。「増えた」「減った」のは「見れば分かる」話である。重要なのは「その理由」と「戦略」との関連性だ。例えば、「コア事業である〇〇事業について経営資源を集中的に投下するために〇〇工場のラインを増設したことで有形固定資産が〇億〇百万円増加しましたが、一方でノンコア事業である××事業は事業譲渡したため、・・・」や「〇〇事業のクラウド化を加速させるため、〇〇サービスで実績のある〇〇社と事業・資本提携をしました。これにより投資有価証券が〇億〇百万円増加しました。一方で・・・」といった具合に、投資家の「なぜ」に答えるMD&Aでなければならない。また、そのためにも「経営方針・経営戦略」の記載の充実が必要になる。
MD&Aの機能不全に対する金融庁や投資家の問題意識が、近日中に公布予定の開示府令改正につながったと言える。上場企業としては、前期までのような「財務情報を記述的に羅列しただけの開示」ではアカウンタビリティを果たしたとは言えないことを理解し、今期からは経営者視点での深度ある分析をしたうえで、財務情報と非財務情報をリンクさせた開示を心がけるようにしたいところだ。その原稿の作成は開示担当者では難しいかもしれない。社長や開示担当役員がMD&Aの原稿を執筆するのも一案と言えよう。