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出向と転籍

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 出向とは、元の企業との間で従業員としての地位を維持しながら、他の企業においてその指揮命令の下で長期間継続的に就労することをいいます。一方、転籍とは、元の企業との労働契約を終了させ、新たに他の企業(転籍先)との労働契約関係が成立することをいいます。通常の人事異動とは異なり、従業員にとっては労務を提供する企業が変わることになるので、一定の法的規制が課せられます。

1.従業員の承諾とは

  出向に関する法規制も、人事異動と同様に、次の要件が必要となります。
① 就業規則等に出向を命令できることを明示する
② 出向命令権の行使が権利濫用にあたらないこと
 ただし、出向については通常の人事異動とは異なり、労働契約における労務の提供先が変更となるため、従業員への影響が大きくなります。そのため、民法において、労務給付請求権(従業員に対して雇用契約上働いてもらう権利)など事業主の権利を出向先に譲渡する場合は、従業員の承諾(同意)が必要であるとされています。
 なお、ここでいう従業員の承諾とは、従業員本人の同意を要する「個別的な同意」、労働協約や就業規則などの根拠規定があれば足りるとする「包括的同意」、就業規則等が整備されていたとしても、従業員が不利益を被る事情に配慮する「条件付包括同意」などがあります。
 判例では、就業規則等に出向命令権を根拠付ける規定があり、出向期間、出向地位、出向先での労働条件など該当従業員の利益に配慮した出向規定が設けられている事案においては、事業主は従業員の個別的同意なしに出向を命じることができると判断されています(新日本製鐵事件 最二小判 平15.4.18)。
 ただし、転籍については新たに労働契約を成立させることになるため、事業主が一方的に転籍を命じることは認められません。新たな事業主との間での労働契約を成立させる当該従業員本人の個別の合意が必要となります。

2.出向中の雇用関係

 出向期間中の労働関係については、基本的な労働契約関係は出向元との間で維持されると解されます。
 出向元と出向する従業員の労働契約上の権利義務の一部が、出向元企業から出向先企業に移ることとなります。その際、出向元・出向先それぞれがどのような権利義務を負うことになるかは、とくに法的な定めはなく、出向協定書等に基づく出向元と出向先の合意で定められます。
 したがって、労基法等の法令について、出向期間中、出向元・出向先のどちらが法的責任を負うかは、出向関係の実態に即して判断されます。
 たとえば、一般的に労働時間や休日、休憩に関する事項は、就労を命じる出向先の就業規則等が適用されますが、賃金に関する事項は、賃金の支払い義務を負う企業のいずれかの規程が適用されます。
 一方、転籍については、それが有効に行われれば転籍企業とのみ労働契約関係があるので、転籍先についてのみ労基法等の適用があり、当然に転籍企業の就業規則が適用されます。ただし、退職金の支払い等について当該従業員の不利益にならないように、転籍先と元の企業とで合意しておくことが重要です。

執筆者情報

社会保険労務士法人A.I.Links

弁護士や司法書士、税理士等の幅広い連携と高い専門性で多くのクライアントと顧問契約を結ぶ「社会保険労務士法人」。
平成17年に設立後、近年、急増する労使トラブルからクライアント企業様を守るため、就業規則他各規程の見直し等をはじめ、種々の人事労務管理に関するコンサルティングサービスを行っている。

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2018.01.29 09:09:47